30年後の日本では、低収入の非正規雇用の増大と、何時間働いても法律で規制できない正社員が存在していることになる。
したがって、少子高齢化にはまったく歯止めがかからない。家族など持てないからだ。
国立社会保障・人口問題研究所の統計でも、30年後の人口は年少人口が10%、高齢者人口が30%くらいになる(現在15%と20%)。これでは年金・医療・介護といった社会保障は支えられなくなる。
厚労省は少子高齢化の進展で2015年には社会保障の給付費を152兆円、公費負担を59兆円と試算した。これは2004年水準のほぼ倍の数字である。
そのためには二つのメニューがある。そして現在の政権の延長線には「二つ」しかないのだ。
負担増と給付減である。
まず負担増だが、法人税や所得税など累進課税を解体し、消費税を基幹税制にしていくので、消費税だけが上がることになる。財界の提言では18%だが、これはまだまだ体裁数字とみて(事実厚労省は36%という試算を出したこともある)、20%くらいいくとしよう。『10年後の日本』では社会保障を全てまかなう消費税を23.6%とはじき出している。
しかし、人口の圧倒的多数が「不安定雇用」というもとでは、もはや負担増にも限界がある。消費は徹底して手控えられる。給料がのびないのでは、保険料収入もあがらないし、滞納も激増するだろう。
そこで、できるのは大胆な「給付減」だ。
まず、年金はどうか。年金は保険料と税金のミックスを運用したもので給付されている。
保険料をいくら引き上げても給付がみこめないので、公的年金は「国民年金」型に一元化され、それだけになる。つまり経営者の保険料負担は全廃されるわけである。資本家さん、よかったね。基礎年金部分は消費税を財源とする「最低保障年金」にかわり、誰もが受け取れるものになるが、現在の国民年金の平均である月4万円程度だろう。
そして公的年金はこれだけになる。あとは、民間の年金で掛け金に応じてやってくれ、となる。
次に医療費。医療費も保険料と税金、そして窓口の負担で給付の財源になっている。
まず窓口負担は現在の3割から4割となる。
そして、現在「医療改革」がその方向ですすめられているように、「軽度」の病気はすべて保険からはずす(免責制)。「軽い病気」の名のもとに、大量にはずされるだろう。また、保険がきく診療ときかない診療をくみあわせる「混合診療」がいっそう大胆に採用される。
この結果、医者はもはや「軽い病気」でいくところではなく、重大化してからいくところというイメージになり、行ってからも貧乏人には「安い限定メニュー」だけとなり、民間保険を活用できる程度に応じてかかれる医療は差が出てくる。
介護保険は、どうか。介護保険も、保険料と税金と利用料のミックスで財源がまかなわれている。
介護保険は、医療保険と同じように、最近軽い介護のものを給付からはずした。また、介護保険料を現在40歳以上から集めているが、これを20歳以上にしようとして見送りになった。介護保険の場合は負担増と給付減の両面からのしめつけを行うだろう。
保険料は20歳以上から徴集。現在「要介護1」(軽い)から「要介護5」(もっとも重い)までのうち、要介護1をすべて給付の対象からはずす(全体の32%がはずれる)。特養ホームなどの施設入所の需要も激増するだろうが、新しい特養は採算が見込めないので民間はつくらない(『10年後の日本』がのべているように高級な有料老人ホームは増えるが)。行政はもちろんつくらない。その結果入所待ちが激増する。厚労省は家族介護や親族の介護に一定の報奨金をつけ、そこに預けている人は「入所待ち」にカウントしなくなるだろう。統計上は消える。
ちなみに特養ホームの入所待ちは全国で38万人(厚労省2006)。
たとえば140万都市である福岡市では5000人だ。
この3倍の水準はいくとみた(カン)。
では、その最後の頼みの綱の生活保護はどうなるか。
現在月9万円という基準額は、国民年金の平均水準以下に引き下げられる。基礎年金の平均受給額は4万円くらいにされるだろう。しかも基準額だから、実際にはもっと低い。政府がモデル自治体としようとしている北九州市のように、申請をそもそもさせないし、申請しても認定しないというのが全国の自治体に蔓延する。
高齢者人口や貧困人口はふえていくのに、社会保障財源は一定に固定される。つまり、ある額以上は絶対に出さないようになるのだ。
こうして制度は持続可能になるが、人間は持続可能にならなくなる。
社会保障、所得の再分配という発想を大きく転換するのは、税制の改悪だ。
前にも紹介したが、「国際競争力をつける」という名目で企業の法人税の減税があいついだ。1989年(消費税導入直後)、法人税は国税収入の34.58%(消費税は5.95%)をしめていたが、2002年には22.56%(消費税は21.66%)しかない。経団連はいっそうの減税を求めているし、消費税を18%にせよとのべているから、消費税の収入が30年後には35%くらいになり、法人税は6%くらいになるだろう。
つまり「金持ちには負担は重く、貧乏人には軽い」という累進課税の考え方は完全に葬り去られ、逆進性の強い消費税が税制の基幹にすわる。所得税も累進性を緩和させる方向、つまり「働く意欲をなくさない」という口実で金持ち減税の方向にあるから、割合は小さくなっていく。
これは所得の再分配機能が働かなくなるということを意味する。
「労働者が構造的に貧困におかれるという考えはせいぜい20世紀までの発想。命にかかわる最終的な救貧だけはおこなうが、再分配という考えは放棄し、努力=報酬に比例したぶんだけ人生を謳歌できるようにしよう」という考えが論壇などで猖獗をきわめるようになる。