30年後の日本

第5回 シナリオA「朝鮮半島で戦争です」


 シナリオAのつづきである。30年後の日本。

 「ここにはアジアについてのシナリオが出てこないではないか?」という至極もっともな意見があると思う。
 じっさい、アジアについてのシナリオはずいぶん迷った。
 不透明なのだ。
 一番不透明なのが朝鮮半島情勢である。



米朝どちらかの核攻撃は想定できるのか

 先制攻撃戦略の対象として北朝鮮が名指しされているのは前述のとおりである。もし朝鮮半島でいったん軍事的緊張が走り、それが米国との戦争にまでつきすすめば、その影響はあらゆる想定をふっとばしてしまうほど大きなものになる。しかも、米朝どちらかの核攻撃が一つでも「実現」してしまえば、「少子高齢化が」とか「フリーターが」とか「漫画評論が」とか言っている場合ではなくなるのだ。

 『10年後の日本』には、このシナリオはまったく登場しない。「米朝、日朝の緊張はつづく」「『ノドン』に核弾頭が搭載される」「MDでミサイルを防ぎきれない」などという項目はあっても、肝心の軍事衝突が現実化するかどうかについては、何も記されていないのだ。



通常戦争がおきると

 「最悪(核戦争)ひとつ手前」のシナリオを想定すれば、以下のようになる。

  • 朝鮮半島で戦争。米国の北朝鮮爆撃で韓国、日本、米国へのミサイル攻撃はほとんど機能せず。ただし2発だけ発射。被害は軽微。北朝鮮政権崩壊。
  • 朝鮮有事にさいし、日本は有事法制を発動。全国の港湾、空港を閉鎖。米軍の使用に供する。国民保護法にのっとった避難が東京でおこなわれる。自衛軍は後方支援とともに、武力行使に参加。日本・北朝鮮双方に戦死者が発生。


 1994年に北朝鮮危機の際、朝鮮有事を想定して米軍が日本政府に求めた支援要求の内容と防衛庁が検討した支援項目についての報道がある(朝日新聞1999年2月23日付と3月22日付)。米側は、日本を米軍の戦闘活動への兵たん支援の拠点とし、輸送や施設使用などの支援を求める内容とされ1059項目を要求したという。その中身は日本国内の8つの民間空港、6つの民間港湾を、期限を区切って米軍に新規に施設として提供することも検討された。
 まさにこれが2002〜2003年に制定された「有事法制」の中身であり、現在改定がねらわれている周辺事態法の自治体への強制の中身である。

 日本がこのような備えをしているのは、まさしく朝鮮有事が一つのリアルとして存在しているからだ。アメリカが軍事対決の選択肢を排除していない以上、忠犬である日本はそのための備えをしておかねばならない。
 しかも、もし憲法が改定されていれば、日本の役割は単なる「後方支援基地」というにとどまらない。直接武力をもってアメリカとともに、朝鮮有事に介入することになるだろう。




実際におきる可能性は低い

 2002年時点のアメリカの外交分析の中には、次のような観測がある。
 ブッシュ政権の北朝鮮政策の特徴は「強硬なエンゲージメント政策」だ、という見解である。
 一言でいえば、アメリカは他国とともに北朝鮮との交渉テーブルにつくが、枠組み履行を迫ったり、ミサイル体制を管理下におくようにもとめたりとアメリカの求める枠組みへ北朝鮮をハメる「外交努力」を重ねることによって、北朝鮮がそれにそむく場合には「軍事懲罰もやむを得ない」と他国もふくめて納得させるよう一歩一歩つめよっていくやり方だ、ということである。

「アメリカの新戦略の目的は、平壌にエンゲージして敵意に満ちた〔北朝鮮の〕目標を放棄させるように試みつつ、またそうすることで、それらの目標を阻むための懲罰的行動をとる基盤をつくることにある」「タカ派は、エンゲージメント政策を将来の懲罰的行動をめぐる多国間枠組みをつくるための実際的な手段とみている。こうした連帯は北朝鮮に効果的な圧力をかけるには不可欠だが、それを維持していくには、協調枠組みへの参加国が、『北朝鮮との間で外交的に問題を解決する方法はすべて試みたが機能せず、懲罰的行動をとるほかに道がないこと』を納得している必要がある」「エンゲージメント政策は、非強制的政策はすでに試みられ、失敗していることを同盟国に認識させる手立てとなる」「エンゲージメント政策によってアメを確保しておきながら、ワシントンが協調路線での手は尽くしたことを理解し、なおかつ軍事行動に向けた連帯が形成されれば、軍事力を用いた戦闘が起きるかもしれない」(ビクター・D・チャ「ブッシュ政権の対北朝鮮強硬策の全貌」/フォーリン・アフェアーズ・ジャパン編・監訳『アメリカと北朝鮮』所収)

 これは六カ国協議から戦争へいたるシナリオに見えなくもない。

 しかし、このような論考であっても、米軍の軍事的選択肢は、ありうる想定のうちのほんの一つにすぎない。なおかつ、2002年の時点の論考であって、2期目に入ったブッシュ政権は、先ほどのべたような「同盟国協調」の枠組みを強調しはじめている。六カ国協議で、米側が、戦争を回避するシナリオを様々に模索していることは、もっと重要視してもいい。

「米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は17日、ブッシュ政権が、北朝鮮との平和条約締結に向けた交渉開始を含む新たな政策アプローチを検討していると報じた。同紙によると、この平和条約交渉は北朝鮮による核開発計画の完全放棄を条件としていない。米国は6カ国協議での核問題解決努力と並行する形で、条約交渉を行う構えとみられる」(共同通信2006年5月18日)。

 シナリオAは現在の延長線の「最悪」ということなので「戦争」というシナリオを書いたのだが、「最悪」にいたる蓋然性は低い。現在の枠組みを発展させていけば、戦争になる可能性はきわめて小さいと思う。

 いずれにせよ、「北朝鮮軍が日本に本格侵攻するので備えよ」的な想定はアホ丸出しである。また日本にとっては、有事法制を整備してわざわざアメリカの兵站基地国家になったり、ましてや憲法を変えて武力行使を可能にするということは、火中の栗を拾いにいくようなもので、それらをやめること、ひいては日米軍事同盟そのものを廃棄して、米軍基地撤去をおこなうことこそが実は最も危険の少ない道なのである。
 そのことと、アジア外交の予想については「シナリオB」でのべることにしよう。



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