第6回 文春新書『10年後の日本』はどこが問題か



「雇用の流動化」を問題の根本だと見ていない

10年後の日本  『日本の論点』編集部が編集した『10年後の日本』(文春新書)の、内政分野(経済・社会分野)での根本的な問題点は、雇用の「流動化」がすべての根源に位置する、というポイントをつかんでいないことだ。

 雇用の「流動化」政策が非正規雇用を増大化させ、そこでおきる二極化と貧困が、少子化を加速し、社会保障の空洞化や教育の序列化をすすませるという、その根源性にたいする認識がない。一つひとつの話がバラバラにとらえられ、あたかもそれぞれが「自然現象のトレンド」であるかのような印象を与えている。



消費税を中心にすえることの弊害をみない

 また、累進課税を解体し、消費税など大衆収奪の課税方式を「基幹」にすることによって、「再分配機能がマヒ」してしまうことにもまったく認識がうかがえない。

 むしろ逆だ。
 『10年後の日本』では、「すべての国民が広く薄く負担する消費税は、企業の国債競争力に直結する法人税などにくらべて、引き上げにともなう経済へのマイナス影響が最も少ないと見られる」などと消費税をもちあげ、「財源を確保するための最もリスクの少ない方策のひとつが、消費税の引き上げであることも事実なのである」「打つべき手は増税しかない。増税による財源確保策としてクローズアップされているのが、消費税率の引き上げである」などと説教する。
 クローズアップしてんのはお前だろ。

 上場企業は2004年から2006年にいたるまで、3年連続、連結経常利益は最高益を記録している。にもかかわらず、その富は国民には分配されない。非正規化によって、賃金という形では国民に還元されないということと、もう一つは税金を払う機会がどんどん減っていき、所得の再分配機能が働かないせいなのだ。



バブル期の太平楽か

 『10年後の日本』では「『三人に一人が非正社員』という現状を前提とした政府の対策さえ進めば」とだけ前提をつけて、あっさりと「こうした労働力の外注化を歓迎する人々は増えるだろう」など太平楽な展望をのべる。「組織に縛られない自由な生き方が可能に」。
 この認識と、「フリーターは自由な生き方である」というバブル時代の認識との間に、果たして選ぶところがあるだろうか。
 まさに「『三人に一人が非正社員』という現状を前提とした政府の対策さえ進めば」ということが実現するかしないかが、すべてのカギをにぎっているのだが、そうした認識はこの本にはない。



改憲と日米同盟についてなにも書かない

 『10年後の日本』の、安保・外交の分野における最大の問題は、改憲、日米関係やアメリカの戦略について、なんも書いていないことである。
 なんじゃこりゃ。
 ここでもこの本がポイントの核になる問題をまったくおさえていないことがわかる。日米同盟はまったく不動のものだという救い難い主権感覚と世界認識がここにはある。 



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2006.6.12記
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