本を出しました
『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』





 このたび、築地書館から『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』という本を上梓いたしました。お手にとっていただければ幸甚です。つうか、1人3冊は買って。

 本屋に並ぶのは(2007年)11月26日からになりますが、アマゾンでは予約を受け付けています。それから、築地書館の本は、街のどんな小さな本屋、80歳くらいのじいちゃんが猫を撫でながらエロ本と漫画を売っていたような、ぼくの実家の近くの本屋にも必ずある、というわけではなく、やはり一定の大きな書店に限られています(築地書館のホームページで常備書店の検索ができます)。地方の方は、ネット経由がいちばん確実かと。

 築地書館さんについては、ぼくも吉田太郎『200万都市が有機野菜で自給できるわけ』の書評を書いたことはありますし、ふるくは土門拳の写真集、最近では『反★進化論講座 空飛ぶスパゲッティ・モンスターの福音書』という反進化論への皮肉めいた本、そしてやはり吉田の『世界がキューバ医療を手本にするわけ』などがわりと知られていますが、ぼく自身はまったくおつきあいのない出版社さんでした。
 こういう機会をいただけて、大変感謝しています。

 内容は、これまでウェブ・雑誌・新聞で発表したものに加筆・補正をおこなったもの、また、未発表のもの(今年=2007年の文学フリマで出される同人誌と同時に発表)などで構成されています。


 「漫棚通信ブログ版」では、「BSマンガ夜話」の復活にかんするエントリーで、漫画を「読む快楽」だけでなく、「語る快楽」の開発について述べていました。また、「ゾゾコラム」の管理人であるzozo_mixも「青井どり」の名前で「マンガの『語り』を楽しみたくて」という一文を「ユリイカ」(06年1月号)に書いています。
 この「漫画を語る快楽」は、すでにインターネットのそこかしこで毎日のように味わわれています。



 ぼくはこのことに加えて、漫画「で」語る快楽、というものもあるのではないかと思います。つまり、漫画というものが人生観とか政治観とか恋愛観とか労働観とかそういうテーマの表現だととらえて、漫画を道具にして人生や政治や恋愛や労働を語るという快楽です。



 これは、漫画が社会の世相、世の中にある人生観とか政治観とか恋愛観とか労働観とかそういうものの「反映」だととらえる考えにつながります。
 新聞の時事ネタとしてヒット漫画を扱うときがこういう方法の一変種をとっていますね。ぼくもやってますけど、たとえば『NANA』がヒットしたのは、そこに少女や女性たちのどんな生活の要求が反映されているからか、とか。
 これを極端化させていくとたとえばこんなふうになります。
 齋藤孝が『バカボンのパパはなぜ天才なのか?』という本を出しましたが、これは率直に言って、漫画を論じているというより、漫画をダシにしながら齋藤のスキル論や人生訓を語っている本です。
 たとえば、この本のなかで山下和美『天才柳沢教授の生活』について語られていますが、それは「自分より若い人間からモテモテになるコーチングの技」を体現した作品として扱われ、齋藤が持論に持っていくための「導入」となっています。
 漫画が社会の価値観や何かのテーマの「反映」だととらえると、このような漫画の扱い方へと定向進化していきます。



 しかし、こういうふうにだけとらえると、漫画が持っている固有の価値、漫画そのものの内在的な価値、というものがとらえきれないではないかという当然の批判がおこることになり、漫画批評というのは歴史的にこの「社会反映論」的な議論を批判する形で発展していきました。「私語り」との結合や、「表現論」の隆盛はこの流れのなかにあります。それは漫画批評にとって大事な発展でした。



 ですが、やっぱり漫画が社会意識の反映だという側面はかなりの比重であるわけで、齋藤のような語り方もふくめてもっとこの面での語りの楽しみが深まっていってもいいのではないかと思ったんですね。
 そういえば小田切博『戦争はいかに「マンガ」を変えるか』は自ら「本書は……『社会反映論』の立場を意図的にとっている」とのべていますが、小田切の本は膨大な実証の上に成り立っている「研究」であり、ぼくがここで述べている「快楽」とはまた少し方向が違うともいえます。


 ぼくにメールをくれる人はいくつかの年齢層、社会グループにわけられ、たとえばそのなかに20〜30代の働く女性のグループがいます。
 この人たちは特にその傾向が顕著だと思いますが、漫画を通じて結婚観、労働観、人生観を語ります。そして、そこから自分について語る人も少なくありません。
 これはぼくのとっている方法によく似ています。
 「自分」について語るのも、結局自分がかわいいからだろ、自分の話がしたいんだろというのではなく(いや、ぼくの場合はそういえなくもないですが)、自分という「特殊」のなかに「普遍」があると知っているからですね。


 こんなふうに漫画を通じて人生観、恋愛観、労働観、政治観を語ることによって、その漫画作品を読んでいなくても楽しめる評論(つうか感想文? みたいな?)になったのではないか、という淡い期待があります。まあ、それは実際に読んでいただいて判断していただく他ないんですが。
 そして、本という形式にすることによって、ふだんネットをみないような人たち、ぼくが日頃職場でおつきあいしているような人々とか、ぼくの親とか、そういう人にも漫画を語る快楽、漫画で語る快楽が共有できたらいいなと思いました。



 「漫画を通じて人生観、恋愛観、労働観、政治観を語る」という趣旨にふさわしく、ぼくが日頃親しんでいる絵日記サイト「るるてん」の「きあ」さんに無理無理なお願いをしてイラスト・漫画をのせさせていただきました。20〜30代の生活の気分がよく出ているからです。それもあわせて楽しんでいただければと思います。 




みなさん、書評ありがとうございます
そして椎名ファンから届いた激怒メール


 拙著『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』についてネット上で書評がちらほら出ています。(右のバナーについては下記に説明があります)
 もちろん、注文や批判もいろいろ書いてくれていますが、それらをふくめて言及されるという幸せをかみしめています。再言及したいこともありますが、それはまあちょいとおきまして、ここでまとめてという形で恐縮ですがお礼を申し上げておきます。書いていただいたみなさん、どうもありがとうございます。

 築地書館さんのほうでネット上の書評情報をまとめてくれましたのでご参考にどうぞ。
http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1356-2.html

 もし「こんな書評があったぞ」というのをお見かけになったらorおかきになったら、よろしければご一報いただけると幸いです。

 きあさんの漫画が気に入ったという人がけっこういらっしゃいます。ひょっとすると本体以上に……(嫉妬)。

 ぼくの本はサイトに載せた文章が多いのですが、かなり改訂したことと、あと、こういう形でセレクトして一連の流れで読む中で違った印象を持てたというむねの感想をよくいただきます(縦書きっつうのもね)。ぼく自身も、自分の文章ですが、ゲラで読んでいる最中にぐーっと集中できました、って著者が言ってもダメですかね(笑)。
 もちろん、サイトにはない雑誌・新聞・同人誌掲載のものも5本のせましたので、1章に1つ分くらいは未読のものがあると思います。

 なので、サイトとはまた別の味があるものと思って、買って! もっと買って。

批評するのは自由だけどそれを楽しいと思ってる人に最高に失礼(怒)

ってかネットマナー守って行動できないんだったらこのサイト消すべきです!
ってか本当にいらないと思うんですけど?

もうチョット考えて書いたらどうですか?
最初にこの文章は批判です!って堂々と書いてみたらどうです?

読みたくない人のほうが絶対に多いんだからそういうことはやめてください
本当に考えて!
絶対に一方的な批判はこれ以上しないで下さい

ご本人もファンも傷つきます!


偽善者ぶってるかもしれないですけどマトモに受け止めてくださいね!?

 当然書評はネット、紙媒体ともに歓迎いたします。もちろん「酷評」も。
 「酷評」といえば、最近、右のようなメールがぼくのもとにまたしても届きました。何についてのメールかを記した部分をみてわかったのですが、これはぼくが前に書いた椎名漫画についての感想に対するもので、椎名軽穂先生のファンの方からのお叱りでありました。

 いやー椎名漫画についてはたしかに『Crazy For You』はぼくの評価は低かったのですが『君に届け』は風早の造形以外評価しているつもりなんですがね。
 いずれにせよ、ぼくは彼女の漫画を「酷評」したことになっておりますが、今度はぼくがこの洗礼を受ける番です。ぼくが傷つくような批判というのが確かにあります。なかなか見つけにくいですが。ぼくはそれを甘受せねばなりません。椎名先生のファンのみなさん、どうぞよろしくお願いいたします。ブログでも2chでも放言してください。


 
 それからライブドアの「本が好き!」プロジェクトサイトでも、特集というと大げさですがぼくがセレクトした漫画をみなさんで「評論」してもらうという企画をやってくれています(上のバナー参照)。ぜひのぞいてみてください。
http://www.buzz-pr.com/book/specialsection/info1.html


  • 07年12月19日付「日経新聞」夕刊の読書欄にて風俗史家の井上章一氏に「目利きが選ぶ今週の3冊」の一つとして、とりあげていただきました。(なぜかここにデータが)
  • 08年1月13日付「赤旗」の学問・文化欄にて文芸評論家の岩渕剛氏に書評していただきました。
  • 08年1月22日号の「週刊アスキー」p.108「今週の新刊」コーナーで紹介していただきました。
  • 08年1月30日付の読売新聞夕刊で、「コミック館」のページ、「ネットでのマンガ批評隆盛」という記事(佐藤憲一記者)で取材され、当サイトと拙著についての記事が掲載されました。漫棚通信ブログ版、Something Orange、ひとりで勝手にマンガ夜話などのサイトが紹介されています。評論家では伊藤剛氏が登場。漫棚通信さんの年代、所在地が書かれていて「へえ」とか思ってしまいました(笑)。




2007.10.22記
2007.12.13追記
(順次追記)
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