「軍事研究」誌の広告ってすげえな



軍事研究 2007年 07月号 [雑誌]  決してこれまで手にとったことがないわけじゃなかったんだが、雑誌「軍事研究」、初めて買って読みました。ネットで知り合った人が論文を書いていたもので。

 いやーなかなか面白いのな。

 最近急逝されたジャーナリスト・軍事評論家の松尾高志氏に話を聞きに行った時、米軍などの情報にくわしくなるにはどうしたらいいかを聞いたら、「軍事オタクが読むような雑誌を読むといいよ〜」と言われ、その一つに本誌があったのを思い出した。

 知り合いの論文をのぞいて、個人的に面白かったのは、「最新防空ミサイルの実力と限界」について論じた、石川潤一の論文「空自ペトリオットPAC-3実践配備」だった。

 それと、日本の核武装についての整備内容・費用などを論じた「日本の自前核兵器整備の徹底検討」。こちらは元陸自教官/研究員の高井三郎。折しも「原爆投下はしょうがない」と初代防衛大臣が発言して、おやめあそばした今日この頃。久間さまは核を使うことについて、絶対的嫌悪というものを持っていないのだなあと思いながら報道をみていた。

 そしてさらに、後任は核武装容認論者の小池センセイ(新聞アンケートで核武装について問われ「国際情勢によっては検討すべきだ」と回答)。就任記者会見で「原爆投下は人類への挑戦」と見栄を切ったものの、「核兵器使用が国際法違反かどうか聞かれた途端、歯切れは悪くなった」「米国の核抑止力に依存する現実の中で明快さを欠いた」(朝日新聞07年7月5日付)というから、自前の核武装にせよ、米国の核の傘にせよ、本論考は意図せざるものではあったがタイムリーであった。

 本論文で高井は日本が核武装するとしたらどういう形がいいかなあと5つの案をイロイロ思案したあげく、「SLBMを搭載する原潜(SSBN)四隻から成る体制が最も適している」(p.46)と結論づける。潜水艦から核ミサイルをうちこむっつうわけね。
 そのうえで「実際に使ったらどうなるか」を想定しているのだが、米軍の北朝鮮攻撃にともなって北朝鮮側のいくつかのポイントを核攻撃することを考えている。
 そして、「様相を瞥見するに、大陸の目標に対する核攻撃は日本始め東アジアに戦争史上、最悪の惨害をもたらし、その累が世界に及んで現代文明は危機的事態を迎える。要するに日本自前及び米国提供の別なく、核の傘は有害無益な存在である」(p.48、強調は引用者)と断ずるのだ。

 そして「即時死傷者は控え目に見積もっても一〇〇〇万人を下らない」(同)などの被害想定の叙述がえんえんと続く。

 んでもって高井の現役時代に陸自の幹部学校で日本有事で核兵器を使うことを考えたことがある、と書いている。陸自って日常フツーにそういうことを研究しておるのか、とびっくりした。
 敵がやってきたときに、海岸からたかだか20kmのところにいる艦隊を殲滅するために、核を使うっていうのを「有力案」として考えたわけだ。「この場合、核爆発により生ずる放射能の嵐が海風及び偏西風に乗って、沿岸地域の住民に被害をもたらすので、軽々に核運用に踏み切れないと深刻に認識した」(p.49)。

 結局高井の結論はこうだ。

「北朝鮮の核を盾に取る戦略は核兵器に関する知識に乏しい日本国民の心理動向に多大な影響を与えている。しかしながら核兵器の実体が判れば、まさに『幽霊の正体見たり枯れ尾花』である。したがって核を持てば国際政治に影響力を与えると誤解して、北朝鮮の核武装政策を踏襲する訳には行かない」(p.50)

 そして戦略核は無意味なので国際的に廃絶を訴える先頭に日本がたち、もっと通常戦力の価値を再認識すべきだと力説して終わるのである。
 軍事的理性からの「核武装無用論」として、大変面白く読ませてもらった。


 雑誌を買ってびっくりしたのは、軍需企業の広告がズラリと並んでいたことだった。いや、「軍事研究」読者にはあまりに見慣れた光景なのだろうが、ぼくはおったまげたね。
 まあ、たとえば、横浜ゴム株式会社航空部品事業部の広告は、たいへんオブラートに包まれた常識的なものだ。「T3」「技術TECHNOLOGY」「信頼TRUST」「挑戦TRY」なんてあたりさわりのないことを大きく書いて飛行機の写真。これくらいなら全然肝をつぶさない。
 しかし、たとえば三菱重工業の広告は、「信頼をつなぐ、技術でつなぐ」というコピーの下に、ペトリオット、F-2支援戦闘機、90式戦車の写真がデカデカと載せてある。「軍需企業でございます」ということを堂々とアピール。これはそういう雑誌なのだなあという思いを強くする。いきなり非日常になる。

 きわめつけはロッキードと伊藤忠商事。
 裏表紙全体を使っての広告だ。右図がそれである。

 「THE PAC-3 MISSILE」と大書され、発射されたミサイルをドでかく載せるグロさといったらない。「PAC-3ミサイルは、あらゆる脅威(弾道ミサイル・巡航ミサイル・航空機など)に対し、厳しいECM環境下においても、優れた防衛力を発揮します」という説明文は、読んでいて異世界にワープしたような感触に見舞われる。

 よく非組織系左翼がこういうグロいコピーを作って遊んでいるんだが(「一家に1台 安全な原子力ストーブを」みたいな)、それをマジでやっているみたいな感じなんだな。

 「ゴキブリゾールは、あらゆる害虫(ゴキブリ・ハエ・カ・ダニなど)に対し、お食事の最中や美術品のあるお部屋など難しい条件下においても、優れた殺虫力を発揮します」などという日常的商品コピーの世界にきわめて近いことが、この違和感の源泉になっている。

 この「軍事研究」という雑誌を手にしたのは、別にアニメに出てくるような「コンピューターにかこまれた司令塔」に住んでいる司令官ではなく、安い公団アパートという生活感あふれる場所に住んでいる「ぼく」という存在である。そしてその読者たるぼくにむけてこの広告があるとすれば、PAC-3を自宅で購入しようかどうか悩んでいる「日常的光景」が思い描かれてしょうがないのだ。

(以下、昭和夫婦風の会話でお送りします)

「ねえ、あなたそろそろ買ってくださらない?」
「ん、あれか」(新聞に目を通しながら)
「そうよ、例のPAC-3。お隣の山田さんも田中さんもみんな買ってらっしゃるのよ」
「しかし、最近弾道ミサイルなんて来ないじゃないか」(新聞をおく)
「何いってらっしゃるの。弾道ミサイルだけじゃなくて、ホラ、巡航ミサイルとか航空攻撃とかでもうしょっちゅう困っているのよ! 大変なのよ。スクランブルスクランブルで寝られやしないわ」(広告を夫に渡す)
「わかったわかった。どれ……(広告を手に取る)……ほう、ミリ波を使ったアクティブレーダー追尾なのか」
「そうなのよ! おまけに、小型演算処理装置がついてて、ものすごく高応答性なんだって」
「メーカーもロッキードと伊藤忠だしなあ…。よーし、こんどのボーナスでフンパツするか」
「あなた、ステキ!」






ジャパン・ミリタリー・レビュー
軍事研究 2007年7月号
2007.7.5感想記
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