林良博『検証アニマルセラピー』/採点80点


ある掲示板でアニマルセラピーについての話題があったので、興味をもったのでよんでみた。

「アニマルセラピー」ときいてすぐイメージされるのは、イヌとかネコとかをさわったり、それとあそぶと、お年よりが癒されて、元気になる、とかそういう話だ。

そう思ったあなた、それでいいのである。
が、それはこのセラピーの一部なのだ。

この本は、アニマルセラピーについて見渡せる入門書であると同時に、(1)医療としての効果が科学的にはかれるか、(2)西洋から導入されたものだが、動物観が異なる日本で機械的な適用をせず、日本の風土にあったセラピーがあるのではないか、(3)アニマルセラピーがかかえている問題、などについても解明している野心的な作品である。

■■□■ 子どもが動物をそだてる効用 ■□■■
わたしが関心をよせたのは、大きくは3点。
ひとつは、病人への治療というだけでなく、お年よりの介護や子どもの教育にとっても大きな効果をもっているということである。
とくに、子どもにあたえる効果については、新しい話というより、わが身をふりかえりながら「そうだそうだ」とうなずくものがおおい。

たとえば、こうである。
イヌの世話をつうじて、排泄とか性行動、出産とか、じぶんとは異なる存在がいることを強烈に感じる。
しばらくすれば子どもは感情移入をはじめる。留守にしてもどってきたとき、イヌが尻尾をちぎれんばかりにふれば、「ひとりぼっちにされるのが嫌なんだなあ」という相手の気持ちを慮る人間をつくる。
痛みにたえるイヌをみて、「タロウみたいにがまんしなきゃ」というココロも生まれる、という。

いまわたしはペットを飼っていないが、小さいころはイヌ、ヒヨコ、ハト、インコなどを飼っていた。そのときのことをかんがえても、こうした指摘はよくわかる。

本には書いていないが、子どもが感情移入して相談相手にしているのは、それはそのまま自分の気持ちをうつす鏡にしているのだろうとおもう。ストレートで単純にその反応が出やすい。そして、相手が「正直」であることもわかっている。自分の行動と感情の検測器のような役割をはたすのであろう。

筆者は、動物を学校で飼うことをすすめる。しかもニワトリやウサギのようなものは、感応能力が低いので、イヌやネコを飼うことをすすめている。これは傾聴すべき意見かもしれない。

不登校の児童施設などで活躍するようすもえがかれている。

■■□■ 動物を支配し利用する西洋、尊重される東洋 ■□■■
ふたつめに関心をひいたのは、東西の動物観のちがい、とくに日本の動物観についてである。
西洋は動物をあまねく利用し、それを支配しようとした。牧畜文化の影響であろう。
ところが日本は海産国であり仏教思想の影響もあって、動物の肉をたべない。家畜として飼っている馬は人間と同じように大事にあつかわれたというのだ。
この動物観のちがいをふまえて日本型のアニマルセラピーをと筆者はいうのだが、それがどんなものかは具体的には提示されていない。

■■□■ アニマルセラピーの医療費削減効果は1兆円 ■□■■
みっつめに関心をよせたのは、ひとつめとも重なるのだが、政治や社会のなかでこの問題をどう扱うかという視線である。この本のなかでは、そういう項目立てはない(ごく小さい項目としてあるが)。しかし、本書全体にそういう問題意識がみなぎっている。

筆者によれば、アニマルセラピーの医療費削減効果は一兆円という。

また、コミュニティネコ(なんのことかとおもったが、常識的にいえば野良猫。ただし、地域で飼われているネコのことで、だれも飼っている意識がないネコはこういわない)など、集団や施設、社会の中でふつうに動物が存在して、それとの交流をつうじて効果が発揮されることがのぞましいとしている。

たとえば学校、たとえば特養ホームなどである。

たしかに、教育と介護の現場には、もしイヌのようなものがもちこまれれば、大きな効果を発揮するような気がする(筆者はその数量的データ証明ができないとなやんでいるのだが)。

市議会でもちだそうとすれば、それには科学的な説得性が必要となる。ただ癒されるという雰囲気だけではダメなわけだ。筆者は、このセラピーをそのようなものに変えようと、本書でいろいろもがいている。あんまり成功はしていないが。

あたらしい分野の話だったため、わたしには刺激的なことが多かった。あっという間に読めた。


採点80点/100
(講談社BB)ISBN: 4062572524
2002年 12月 18日 (水)記