okama・倉田英之
CLOTHROAD クロスロオド』1〜2巻




CLOTH ROAD 1 (1)  科学技術が発達した未来社会では、コンピュータは人々の服となり、プログラマー=デザイナーと、その機能を最大限にひきだすファッションモデルが時代の主役となる。
 しかし、社会問題はなにひとつ解決せず、世界は7大トップブランドを頂点とする極度な二極化社会となる。貧しい人々は、二流以下の服飾とモデルによる格闘ショー「WAR-KING」に興じ、不満を発散している。

 ここでも、やはり未来図は暗い。
 科学は人々を幸福にせず、二極化への予感が作品を支配する。


 物語は、貧民窟におしこめられた、かけだしのデザイナーである少年ファーガスと、その双子で別の家にひきとられていた少女ジェニファーが邂逅するところから始まる。内向的で後ろ向きなファーガスと、明るく楽天的なジェニファー。
 ファーガスの師匠であるグスタフの手術代を捻出するために、ジェニファーがモデルとなり、ファーガスと組んで「WAR-KING」に出場するという形で物語は展開していく。

 貧困のどん底にあって、ファーガスは、いかにも内省的で神経質そうな思春期の少年らしく、いともかんたんに絶望する。

「僕は…… 一生ここから出られないのかな……」

「……もういいよ
 ……どうせなにやっても
 なにやっても
 人生なんて
 変わりはしないんだ」
 
 ああ、ファーガスの、この後ろ向きのセリフの数々ったら。
 (ちなみにファーガスがおちいっている貧困のイメージは、いわゆる古典的な極貧ではなく、長時間過密労働、低賃金といった、IT産業における若年不安定雇用の貧困にそっくりである。)
 それを励ますのは、生き別れの双子、ジェニファーだ。

「みんなで絶対 幸せになるの わかった?」

「私ね 戻ってくる時 とっても怖かったの
 でもあそこで立ち止まってたら やられてたわ
 ……助かったのは前に出たからよ
 何かを掴むには一歩でも前に進まなきゃ」

 ファーガスは、ジェニファーの言葉によっては変わらない。
 しかし、おそらくファーガスにとってジェニファーの言葉は触媒のようなはたらきを、その精神の基底において果しているにちがいない。
 じじつ、ジェニファーの言葉のあとで、あこがれの女性である娼婦ペルリヌや、師匠のグスタフに一喝され、ファーガスは退嬰や怯惰の穴蔵から出てくることができるのである。

 正直、なんと正調のファンタジーかと思う。

 “前を見よ”“幸せになろう”というポジティヴィティ、故郷をすてての冒険の旅、最悪の相性のなかで芽生える信頼や友情――少なくとも2巻までにもりこまれたストーリーや価値観は、よくいえば折り目正しく、わるくいえばありきたりなものだ。

 だが、物語が安定するほどに、読者はほかのもの――絵に集中することができる。
 ありきたりで、安定するほどに、よい味がする。


 okamaの絵柄は、萌え絵の一タイプであるが、複雑な表情や豊かな動作を登載できる表現力によって、作品全体に独特の香気を放つ。
 それゆえに、この単純な筋立ての物語を、ぼくはなぜだかくり返し本を開いて読み返しているのだ。
 主人公のファーガスの造形は、「眼鏡をかけた痩身の美少年」という、ぼくのなかでの欲望的自己イメージ(美化率30000%くらいの)だから、男性である彼を見つめているだけでも、ぼくにとっては、水の流れる音を聞いているような心地よさがある。


 きわめつけは、娼婦・ペルリヌの造形である。
 ペルリヌは、ドラッグによって追放されたモデルで、ファーガスのいる貧民街の売春婦をして暮らしている女性だ。
 グスタフの手術代などどうせ出せっこない、シロウトであるジェニファーが出ても勝てるわけがないと捨て鉢になるファーガスを、ペルリヌが抱きしめてささやくセリフがこれである。

「……私に甘えて ファーガス……
 泣きたいなら泣いていいのよ

 私が膝でも胸でも言葉でも
 ……なんでも使ってあなたを慰めてあげる

 ……今のあなたは他のお客さんと
 同じ匂いがする……

 ……みんなから逃げて
 ……全部をあきらめて
 ……こんな女にたどりついた男の匂い……

 負け犬の匂いよ

 ここで 人生が決まるわ
 ……私を取るか その服を取るか

 ……選んで ファーガス……」


 あこがれの年上の女性であるペルリヌが、人生の勝負から逃げようとする主人公の少年ファーガスを膝の上に抱きしめて甘く囁く。
 自分に強い好意をもつ少年を篭絡せんばかりに誘い込みながら、実は少年に出立をせまる厳しさをもつ。堕落と聖なるものの混在という、マグダラのマリア以来の、男性が求め続ける「女性の神聖視と欲望化」の具現がここにある。
 このワンシーンだけでも、この漫画は「買い」だ。

 ちなみに、ぼくはペルリヌを取ります。
 とめないでください。
 さようなら人生。




集英社 ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ
脚本:倉田英之 漫画:okama
1〜2巻(以後続刊)
2005年5月27日感想記
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