ミステリー? 「統計のウソをあばけ」
調査と情報公開でわかった『東京都市白書2000』のデータのうそ

 石原都政は、『東京都市白書2000』という白書をだし、そのなかで、「東京の道路面積(道路率)」をだしています。道路率、というのは、土地全体にしめる道路の面積の割合のことです。白書は、道路率を世界の各都市とくらべ、つぎのように結論づけています。

「東京都全域で(道路率は)7.6%にすぎない」
「欧米の主要都市の道路率はおおむね20〜25%であり、東京の道路はかなり低い水準にある」
(88ページ)

 図1 がその表です。

 いま、小泉政権と石原都政は歩調をあわせる形で「都市再生」という名の大型公共投資を大都市に集中的におこなっています。“道路・港湾・空港などの社会資本が古くなり、機能しなくなっているので、このままでは上海、ソウル、香港、シンガポールなどの都市間競争に負けてしまう”というのが、その理屈です。採算がとれない「かんくう」こと関西空港二期工事など、浪費を非難されている公共事業をすすめているひとつのテコになっています。

 「東京の高速道路」もそのひとつ。
 圏央道、外環道、中央環状という3つの「環状道路」、いわゆる高速道路を整備することで、渋滞が解消され経済効果が5〜10兆円あがる、というのです。

 そこで、冒頭にあげたように、東京都は『白書』のなかで“世界の大都市にくらべても東京の道路整備は遅れている”とあおり、暗に、“だからつくらなきゃ”というムードをつくりだそうとしているのです。
 しかし、このデータには、よくよく調べてみると重大な「ごまかし」があったのです。

 じつは、圏央道や外環道にはさまざまな角度から批判がありますし、国土交通省や東京都の弁明もこれにとどまるものではありません。しかし、この稿ではこの一点、「東京の道路率の国際比較」のごまかしということについてのみしぼりこんで、議論します。

■■□■ 調べても元データがない!? ■□■■

 わたしは、まずこの白書の出典としてかかれている「東京都道路現況調書」にあたりました。
 これには東京のデータしかありませんでした。
 したがって、「東京都区部15.4%」「東京都多摩地域5.5%」「東京都全域7.6%」を裏付ける統計しかそこにはありません。

 当然、「ニューヨークやロンドン、パリ、サンフランシスコ、ワシントンDCの資料はどこだ?」という疑問がわいてきます。
 白書には、もうひとつの出典、建設省(当時)「道路ポケットブック1999」が書かれていたので、こちらをあたってみることにしました。

 たしかに書いてありました。しかし、こちらにも外国の道路率については出典が書いてなく、ただ各都市の道路率がいきなり載っているのです。いったい元のデータは?

 わたしは、つぎに東京都に電話してみました。白書を出している都市計画局です。
 「あれは国のほうの資料ですので、国に聞いてください」
 けんもほろろ。

 隠しているのかもしれない、と思ったので、思いきって情報公開制度を使うことにしました。
 都庁のなかにある情報公開の部局をたずねて(都民ならだれでもできます)、制度をあれこれ紹介してもらってはじめて情報公開というものをやってみました。
 返事はやはり電話と同じ。簡単にいえば、「国に聞け」。

 仕方がないので、こんどは国土交通省の担当者に電話して聞くことにしました。
 こちらの方がいくらか正直でした。
 「もともと昭和53年(1978)年の数字なんで、出典はいまはもうわかりませんね」
 なんと、30年ちかく前の数字なのです。外国の都市だけ「ポケットブック」と「白書」の数字が符合したのですが、東京都のほうの数字があわないのは、外国の資料が古いままなのにたいし、東京都の数字だけは最新のデータ(道路現況調書)で計算しなおせるからです。東京都の白書の方は、出典の刊行日付けだけを載せ、あたかも1999〜2000年の資料であるかのようです。しかも元データはないというではありませんか。

 ひどい。これでは検証しようがありません。
 こんないい加減な事実基礎のうえに数兆円も公共投資をしようというのです。

 しかし、わたしは、よくよく資料をながめているうちに奇妙なことに気づきました。



■■□■ 海外都市は「既成市街地」のみを分母とし、東京は「総面積」を分母にしている ■□■■

 それは、建設省の「ポケットブック」のほうには「道路面積/既成市街地面積」とことわり書きが書いてあるのです。いや、「ことわり」などというレベルのものではなく、大書してあります。はじめは「既成市街地」の意味がわからなかったために注目しませんでしたが、よく考えると「既成市街地」というのは少し変です。少なくとも、わたしはそのときまで聞いたことがありませんでした。

 わたしは、国土交通省の役人にたずねました。
 「既成市街地というのはなんですか」
 役人はていねいに答えてくれました。既成市街地はいろんな概念があるのですが、旧建設省が「ポケットブック」で使ったのは「DID」とよばれる概念で、「1平方キロあたり4000人以上が隣接している地域」だそうです。

 そのとき、「あっ」と思いました。

 ひょっとして、東京都の白書は、海外の都市だけ「既成市街地」を分母にして、東京については「総面積」を分母にして道路率を出しているのではないか、と(道路率とは、道路面積を行政総面積で割ったものだということはすでに知っていたのです)。
 わたしはさっそく計算してみました。

 すると、東京都の「既成市街地」は行政総面積の約半分にしかなりませんでした。

 つまり、パリやロンドンの「道路率」を出すときは市街地を分母にしているのに、東京都の「道路率」を出すときは市街地はもちろん、雲取山や硫黄島や人のこぬ山林沼沢までぜんぶ含めて分母にしているのです。これでは、数字が低く出るのも無理はありません。分母を意図的に小さくしているのです。

 東京都の役人は、「ポケットブック」を参照するさいに、「道路面積/既成市街地面積」という注記が大書してあったのを重々知っていたはずです。それをわざと無視して行政総面積で割って、東京の道路率を意図的に小さくみせたのです。悪質な数字操作としかいいようがありません。
 「ポケットブック」と「白書」の数字が東京の部分だけあわないのは、年度のちがいだけではなくて、こういうインチキをやっていたという、さらに重大な原因がかくれていたのです。


■■□■ では真実は? ■□■■

 石原都政の体質はよくわかりました。
 しかし、真実はまだ闇にかくれたままです。いったい、東京の道路率はじっさいのところ、高いのか低いのか? つまり海外の大都市の道路率はどうなっているのか?

 これにはほとほと手を焼きました。
 都庁の「都政情報ルーム」なんかに行ったって、つっこんだ資料はほとんどありません。逆に日比谷の都立図書館に行くと、こんどは樹海に迷いこんだようになって探すことができません。インターネットで検索しても出てきません。
 資料出典によく出てくるフランスの研究所「イル・ド・フランス都市計画研究所(IAURIF)」や、イギリスの「ロンドンリサーチセンター(LRC)」に拙い英文でメールも出してみました。IAURIFは「道路は線として書かれていて、道路幅についてはデータを持っていません」、LRCからは「あなたのご期待にそえる数字は、ロンドンの総面積の数字しかありません。森林や荒れ地などをのぞく土地面積を正確に決定するのは困難です」と返事がきました。

 けっきょく、共産党の都議団事務局のかたがたが親切に教えてくれて、「都市問題図書館」(永田町)というところが交通問題や都市問題の資料を集中的においてあって、ここが非常に役立ちました。

 いちばん価値のある数字があったのが、『メトロポリスの都市交通』(東京市政調査会:編・訳/日本評論社)と『国際比較による大都市問題』(大都市問題研究会/ぎょうせい)の2本でした。そのほか、富士総研資料、東京都『世界の大都市1997』などが役立ちました。ここの出典にはIAURIFやLRCなどがあったり、調査を独自にやったりしたようなのですが、担当者がかわりその資料はない、とのことでした。とほほ。

 問題は、比較の難しさです。つまり「都市範囲」「道路」「既成市街地」の定義があいまいだったり、データが欠けていたりすることでした。
 たとえば、つぎのようなことがおきます。
 さきほどの東京都の白書ではだんぜんパリの方が道路率が上でしたが、東京都区部と同じ面積をもつパリ周辺の4県で比較してみると、道路などの交通施設面積は9.9%しかありません(東京都区部は15.4%)。(『国際比較による大都市問題』による)

 ロンドンやニューヨークもどこまでを、比較すべき「ロンドン」「ニューヨーク」の範囲とするか、で数字がまるでちがってくるのです。



■■□■ 結論:東京都自身が以前は「そん色ない」と言っていた ■□■■

 東京都と対抗するためには、やはり東京都自身が語っているコトバで対抗するというのは、ひとつの大事な反対証明の仕方です。実は、東京都の都市白書をさかのぼってしらべているうちに、次のような一文をみつけたのです。 

「全都市のデータが共通に得られる、東京中心8区レベルでの比較を行っている」「(道路率について)東京の21%は、ほぼロンドン、パリ並みの水準に来ている」
(「東京都市白書91」20ページ)

 東京の道路率は世界の他の大都市なみ――過去の東京都の白書ではここまで言っていたのです。いまの都の主張とまるっきり逆ですね。これはほかの資料で比較してもほぼ同じ実感を得られたのです。

 たとえば、図2は大都市研究会の資料で、やや古い(1959〜73年)のですが道路率はほとんど同じです。

 また、「道路面積/既成市街地面積」で計算すると、東京都全体では19.38%になりました。これを、最初にあげた白書の世界の他の都市のデータとくらべてみましょう。ほぼそん色がないことがわかると思います。

 ほかにも、次のようなことがいえます。以下は、行政面積にしめる高速道路の密度(「可住面積あたり」の項のみ、高速道路だけでなく道路全般をふくむ)です。

都心部 区部 都市圏全体 可住面積あたり
東京 1.02 0.300 0.069 21.4
ニューヨーク 0.78 0.456 0.090 15.9
ロンドン 0 0.039 0.029
パリ 0.17 0.212 0.065 16.9

■高速道路密度(道路延長/地域面積)……「都心」「区部」「都市圏」についての定義と数字は、『メトロポリスの都市交通』(1999年5月、東京市政調査会:編・訳/日本評論社)から作成した。

■「可住面積あたり」(km,道路延長/可住面積)は東京都『世界の大都市1997』より。

 この表をみれば、むしろ東京が高速道路や道路をつくりすぎている、ということが読み取れるのではないでしょうか。

 いずれにせよ、もう東京に高速道路は必要ないとみなさん思いませんか?

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