電車で演説する高校生カップル

 いや、別にほんとに演説していたわけじゃないけど。

 平日の夜7時ごろの帰宅系電車というのは、酔っ払いもいないし、妙に静まっている。だれも声を出さない。一人も、だ。数百人が声も出さず、ハコのなかに押し込められている。

 そのなかに、高校生カップルあり。

 ごくふつうの高校生で、髪の毛はどちらも黒い。容姿のことをいって申し訳ないが(他に描写する要素もなく)、十人並みというか、どちらかといえば、地味な感じの男女。
 その人たちが、髪の毛をさわったり、頬をさわったり、腰に手をまわしたりしながた、しゃべっている。別に大声ではないけども、ふつうの声量。

 それがあの、平日の晩の帰宅電車には、やけに響いてしまうのだ。
 響くなんてもんじゃない。
 ほとんど、演説状態

女「それでー、ブーツに足が入んないのぉ」
男「ぜんぶ?」
女「ううん。かかととかは入るのぉ。ふくらはぎとかぁ、入らなくてぇ」
男「うっそ」
女「なんかぁ、ブーツじゃなくてぇ、長靴みたいで」
(男女笑い転げる)
女「でもー、お父さんはけっこう気にいってくれたわけぇ。部屋であたしが履いてくるくるやってたの」
男「くるくる」
女「そしたらー、ちょっと間おいて、『いいね』とか言ってくれたの」
男「間おいてっていうのがいいねー」(以下略)

 このカップルの横に立っているぼくとしては、こうした演説状態に耐えれず、そのとき読んでいた本の内容がちっとも頭に入らなかった。
 車内を見回すとみんな伏し目がち。ぼくの偏見かもしれないけど、みんな気まずそうな雰囲気が支配している。
 すまん、高校生カップルよ。君たちに罪はないんだ。
 いいんですよ、別にいちゃいちゃしても。

 つねづね、ぼくは車内で友だちと話すことは恐怖をおぼえる。
 電車内は意外と静かなんだ。それで、ついつい演説状態になってしまう。
 ある小学生の電車内会話。

A「音って、1秒間に地球を7周するんだって」
B「はやっ」

 ちがう。それだって。

 ある漫画のネタ。

A「『太陽にほえろ!』でゴリさんやってたのだれだっけ」
B「あー……竜とかいったっけ」
C「りゅう……」
B「峰竜太!」
A&C「それそれ!」
乗客全員のココロのつっこみ「ちがう! 竜雷太だ」

 この前、職場の上司2人と乗り合わせたとき、この演説状態にハマッてしまった。

上司A「英語で竜巻きってなんていうんだっけ」
ぼく「……(いやだなあ、まわりの人、絶対注視してるよ)トルネード?(自信なし)」
上司B「そうだっけ?」
上司A「ハリケーンとかいわかなかったけ?」

 顔から火が出る

 しかしここで発想の転換。
 静まった車内というのは、絶好の口コミの場ではないだろうか。
 マスコミという舞台での宣伝のうさんくささというものに、ひとびとが懐疑をいだきはじめているなかで、口コミは、意外なほどにひとびとのなかに防衛力がない。小耳にはさんでしまったことのほうが、逆に信じ込んでしまったりする。

A「あの化粧品使った」
B「使った! すっごい効くでしょ」
A「なんか、つるつるになるらしいよ」

とかいう宣伝を、ある日の朝or晩、山手線、京王線、東急東横線、西武新宿線、埼京線、中央線、でいっせいにやってみよう。絶対に絶大な効果をもたらすんじゃないか、というのが、ぼくの予想なんだけど。

 


2003.12.2記
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