『福岡 アジアに開かれたまちガイド』





福岡 カラー版―アジアに開かれた交易のまちガイド  福岡の歴史を知っておきたいと思っていくつかの本を読んだ。中でも、この本はなかなかにコンパクトにまとまっていてよかったなあ♪(#⌒〇⌒#)キャハ  などと無邪気に書きたいところであるが、なんですかこれは福岡市政のスポークスマンですか。岩波ともあろうものが。

 サブタイトルが「アジアに開かれた交易のまちガイド」となっているように、全体がこの観点から編纂されている。すなわち「福岡という土地は、古来から現代にいたるまでアジアに開かれた交易のまちであった」という史観に。

 なるほどそれは一面の真理ではある。

 奴国、伊都国、大宰府、鴻臚館、中世のチャイナタウン、商業都市博多……という具合に歴史をみてみれば、たんなる時系列の歴史とはちがった福岡の顔がたしかに見えてくる。
 しかし、この本で、近代、そして現代になるにしたがって、現在の福岡市政の政策をこの角度から正当化する記述が増え、第4章「国際都市・福岡」は読んでいてげんなりする。

 なぜぼくがこんなふうにピリピリしているのかというと、歴代の福岡市長がどのように市民に打倒されたかということが頭にあるからだ。
 1990年代の桑原市政は無駄な公共事業のオンパレード、イベントばかりやっているハデ好き行政で、これが最終的に市民から総スカンを喰い、無党派を標榜した市長候補・山崎広太郎に打倒されるのである。
 ところが桑原市政を批判して登場したはずの山崎市政も、開発中心主義を改めるどころか、その無駄な公共事業、イベント主義をそのままひきつぎ、やがて山崎市政もオリンピック招致の打ち出しを最後的な契機にして、2006年に別の市長(民主党系)に打倒されてしまうのである。
 そして、桑原・山崎の2市政において旗印となった最大の無駄遣いは、「アジアに開かれた拠点都市づくり」を売り物にした人工島開発事業であった。

 この本は、こうした福岡市民から立て続けに審判をくだされた市政の方向に無批判に追随し、それを強化する「史観」を提供している——そんなふうに思ってしまわざるをえないのだ。ここでは何かに奉仕するものとして歴史観がある。歴史(学)は独立した科学ではなく、政治の下僕である。

 たとえばp.134「イベント都市・福岡」。1910年の九州沖縄八県連合共進会の様子が紹介されるが、これを「福岡市は明治以来、こうした巨大イベンとを契機に都市を発展させてきました」「『イベント都市・福岡』というイメージは、こうした実績から生まれたといえるかもしれません」(p.138)という性格づけで総括するのである。
 破綻した人工島(アイランドシティ)事業、そして、これまた破綻した博多リバレイン関連の事業やベイサイドプレイス周辺の再開発と、開発型行政の「痕跡」への称揚が続く。

 あげくに「福岡市には『開発型の都市』という表現がよく使われます。この言葉には、ときに批判的なニュアンスも含まれているかもしれません。しかし歴史を振り返ることを大切にし、そこから学んだことを未来に向けて活用しようとするなら、それは肯定的なものにかわっていくことでしょう」(p.175)と結ぶ始末である。現在の破綻に目をつぶり、歴史に学ぶなどといって、歴史を自分たちの正当化のために利用する現福岡市理事者精神がここにある!

 この本の冒頭には、市民の7割が反対し、その報いとして落選をくらった近年最大・最悪のイベント構想&開発起爆剤構想=福岡オリンピック招致についての次のような評価が載っている。

「福岡市といえば、最近の話題として二〇一六年の夏のオリンピック候補地に立候補したことがあげられます。投票の結果、立候補地は東京都に決まりましたが、地方都市の代表としてその存在感を多いに示したという声が聞かれました」(p.2)

 並ぶ写真も、博多経済の根底をささえる「人間」の姿はなく、公共事業の成果を誇る行政のパンフレットのごとく、現代のハコモノがずらりと並んでいる。もう沢山だ!

 裏表紙に「福岡の魅力に迫るコンパクトな修学旅行ガイド」とあるが、少なくとも近代以降をこんなふうに総括されてはたまったものではない。

 福岡オリンピック招致※ぼくの招致反対声明はこちらを、姜尚中が支持したのは、石原慎太郎の国威高揚的東京オリンピックに対抗してのことであったのだろう。同じように天下の岩波がこんな角度でまとめることを許したのは、「アジアに開かれた」歴史をみる視点を教育にもちこみたかったからであろう。しかし、姜にせよ、岩波にせよ、対抗のために持ち出したものが「毒」を含んでいたことに思いを及ばせてほしかった。

 敵の敵は味方ではないのである。


『カラー版 福岡 アジアに開かれたまちガイド』
武野要子編 岩波ジュニア新書
2007.9.2感想記
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