大塚英志『「おたく」の精神史』
〜ぼくが中学時代につくった「偽史」について


 大塚英志の『「おたく」の精神史 一九八〇年代論』は、文字どおり「おたく」である著者の自分史的精神史をからめながら、80年代をふりかえる。
 しかし、それは単純な回顧ではない。
 ポイントは、第四部「九〇年代のなかの八〇年代」であろう。80年代が準備してきた「おたく精神」は宮崎勤事件によって破産を宣告されているのだが、それは清算されないままに90年代のなかへ流入した
 むろん、大塚は80年代叙述をすべて90年代への準備として短絡に描き出してはいない。しかし、随所に80年代に用意された「おたく」精神が90年代に未清算のままもちこまれ、あやしく咲いている様を見る。
 たとえば、膨大なビデオ群のすぐ横に「布団とエロ本(『若奥様の生下着』というタイトルの劇画本)」が配されている、有名な宮崎勤の部屋の写真があるが、大塚は、「これらの配置は、当時彼の部屋に足を踏み入れたカメラマンの一人によって配置し直されたものである可能性が当時から指摘されている」として、宮崎の部屋を「了解可能な古典的な性のあり方」に変えられた一例だとする。
 80年代とは、「布団とエロ本が象徴するような、古典的な性意識が解体していく時代であった」として、みずからエロ本業界に身をおいていた体験をつづりつつ、劇画や実体からの性的妄想の乖離がおき、エロ本がサブカル化、ロリコン漫画化する過程を追う。
 そのなかで、「犯す主体の不在」などを大塚は指摘し、主体の顕在化が、のち90年代にだらしなく開花していく。

 もう一つだけ80年代における90年代への流入物について紹介しておくと、アダルトビデオ女優の黒木香の「自分語り」である。黒木は、もはや相手がどう受け止めるか、あるいは受容されるか、などということを一切考えずに「わたくし」を語り、「わたくし」の身体をさらしつづけた。女優やタレントになるというステップさえも放棄し、過剰に「わたくし」を語る黒木。
 大塚は、「そこでは、他人にどう見られるかは問題ではない。いかにして『わたくし』を吐き出すかにのみ関心がある」と指摘する。
 わがサイトはその末裔であろうか、と苦笑せずにはおれない。

 ぼくは、80年代に、自己形成をした人間である。したがって、本来、80年代精神史とは、ぼく自身の精神史の検証でなくてはならない。大塚の本を、自己の精神史の検証道具に使ってみる、というのも、面白いかもしれないと思った。
 その一例として、「年代記づくり」「偽史づくり」の流行をとりあげてみよう。

 大塚は、90年代に、「新しい歴史教科書をつくる会」や福田和也などのナショナリズム、あるいはオウムの破産へのとつながる流れのなかに、80年代の「おたく」たちの「偽史づくり」の「運動」をとりあげる。
 たとえば、ガンダムがそれまでのロボットアニメとは大きく異なった点として、その背景世界の異様に緻密な設定がある。そこには、ジオン対地球連邦の壮大な闘争史があり、ガンダムとホワイトベースが演じている戦闘はその「歴史」の一部でしかない。
 80年代には、このような仮想世界の偽史づくりが爆発する、と大塚は指摘する。

「これ(仮想の年代記をつくる動き)は、先の『ヤマト』から『ガンダム』に至る流れと共時的な出来事であり、むしろ七〇年代後半のサブカルチャーの一部が同時多発的に仮想の年代記、仮想の歴史を抱え込もうとし、八〇年代にこれが開花し、一挙に肥大していくという流れを見てとることができる。……それは皮肉にも戦後史における『歴史』の不在を贖う形となった

 その原因を、大塚は次のようにまとめている。

現実の世界にマルクス主義的な歴史像を描き出すことが困難になった後、その代償として、仮想世界に歴史が求められていく。そういう現実の歴史からの逃走が例えば、『ガンダム』から『エヴァンゲリオン』に至る系譜だと記すのは言い過ぎか。それはともかく、その最初の受容者であった七〇年代半ばの『おたく』第一世代が八〇年代に入って送り手となった時、彼らはもはや所与のものとしてフィクションの中にのみ歴史を見、それを肥大化させていったのである」

 大塚は、このような歴史の不在をうめる衝動が、90年代に「新しい歴史教科書」という偽史づくりや、あるいは精密(でしかも荒唐無稽な)偽史をつくったオウムへとからめとられていく、と言う。大塚は別の場所で、少女漫画の「内面」語りが『セーラームーン』のころに多元的な「内面」語りへと変化しそれは「統一された大きな意志に回帰しようとしている」のだ、とのべる。また、先ほどロリコン漫画のところで主体の不在についてのべたが、「主体たれ」ということをそもそも戦後史が禁じてきた自己実現であったが、やがてその欲望に抗いきれず、主体をめぐる欲望が90年代後半(神戸児童殺傷事件以後)はじまる、とも指摘する。
 偽史、大きな意志への回帰、主体への欲望――そのほかもろもろのものが、90年代の、たとえばナショナリズムを準備する「精神史」になってはいないか、と大塚は考えている。


 以下は、ぼくが中学時代の終わりにつくった「偽史」である。
 つまり80年代の中葉だ。
 『ファイブスター物語』には比ぶるべくもない、厨房のしょぼい妄想の切れはしであるが、まさに大塚の指摘していた年代、および事態にぴったり重なる。

 すでにこのサイトでも書いたように、ぼくの中学時代とは、左翼どころかファシストだったのであり、ヒトラーやナチの歴史に強い関心をもっていた時代である。そして、現実の歴史と政治の「うそくささ」に飽き飽きしていた時代でもある。
 ぼくは偽史をくり返しつくっていた。
 以下は、現存する(ってなんだそりゃ)唯一のもので、生徒会のノートの余白に、書かれていた年表と註を、あきらかな誤字以外、ほぼそのまま写したものである。したがって、政治経済上あるいは文法上の未熟もそのままにしている。

 「できごと」などというのが中学生の年表らしく、微笑をさそう。

 文中に出てくる「行用町」「市子町」というのは、ぼくの出身「部落」(集落、の意)の名前で、その呼称もそのまま「部落」とした(当時「部落別子供会」などと言っていた)。
 年表中に出てくる個人名は当時の同級生であるが、いちおう名前は変えておいた。
 (ノートの)1ページごとに区切り、それぞれに今のぼくのコメントを入れておく。

 なお、月面の地理についてはここを参照。(わからなくても以下は読める)


月暦 できごと
1 月面開発条約締結※1
行用町(ぎょうようちょう)、「月面開発計画委員会」を設置。
熱池町(にいけちょう)、市子町(いちごちょう)、開発団を月面へ送る。
行用の社会学者、コウタ・スギウラが『月面連邦』を著す。
2 鵜ヶ池町(うがいけちょう)、「月面委員会」を設置。
熱池町と市子町、月面へ全民移動。
熱池町、キリルス市を設立。首府に指定。
市子町、マクロビウス市を設立。首府に指定。
3 行用町、「全民移動令」を発布。
熱池町、農地計画、工業用地計画を審議。※2
熱池民と市子民が、ラングレヌス(豊かの海沿岸)で衝突。
月面連邦運動、熱池町のキリルス、テオフィルスでさかんになる。
4 行用町、鵜ヶ池町、月面へ移動。
行用町、メルカトア市を設立。首府に指定。
鵜ヶ池町、カッシニ市を設立。
熱池町、ドランブル平原(みきの海西)に、農業を開始(米・野菜・小麦・大豆)。
5 行用町、ピタトス平原(雲の海北)に農業を開始(米・小麦・野菜)。
メルカトア学園(小学校〜大学)できる。
熱池町、ピレネー山脈の南に工場群落をつくりはじめる。同時に、テオフィルス港、サントベック港を建設。
市子町で食糧暴動(マクロビウス革命)。※3
6 鵜ヶ池町、漁業・船舶業に、産業予算の大半をさく。
市子町に社会主義政府成立。

※1:月面開発条約
 福地の部落間で締結された条約。領土の区分、資源ナショナリズムの適用、核使用・製造・保持の禁止、計画的工場進出、環境保全重視、軍備の禁止、社会法の共通などをとなえている。経済的に進出する部落はかぎられており、行用・市子・熱池・鵜ヶ池だけであった。

※2:月面の領土と開発
 熱池町は月表の南東、みきの海西側に。市子町は月表のほぼ中央、雲の海の東に。鵜ヶ池町は月表の北、ヘームス山脈から虹の入り江あたり、そして寒の海に領土を構えた。
 都市は、クレーター内部につくられ、その周辺に群落、農地が築かれていった。

※3:マクロビウス革命
 市子政府内で農地計画をめぐって利害が対立。このため、農業開発がおくれ、餓死者が増加。月暦5年になっても開発のめどがたたないため、首府マクロビウスでヤスゾウ・マツイによって革命がおこった。

【現在のぼくからみたコメント】
 まず、現在コミュニストであるぼくとしては、「なんだこの社会主義観は」とツッコミたくなる。社会主義ってのは貧乏人が食糧暴動でおこすもんなのか。窮乏化革命論よりひどい。ここには、社会主義とか革命っていうのは、近代以前のお話で、現代の日本では無縁のものだという思想、つまり社会主義とは徹底して非現実的だと考えていたことがわかる。
 資源ナショナリズムの強調は、石油危機以後のアラブの動きのことが、強くアタマに残っていたから。参考書を読んだときに妙に感心した覚えがある。
 核の禁止を書いているのは、欧州の反核運動(ミサイル配備反対闘争が空前の高揚)の反映だとは思うが、それ以上に、核を配備したハナシだと「面白くないから」、こうしたのだと思う。いまのオタクたちの心の故郷になっている第二次世界大戦前くらいの国家関係がモデルになっている。
 後の年表とくらべるとわかるが、工業は後からくる(多少、この年表にも工業は登場するがまずは農業が中心である)。まず、農業=食糧生産を社会の始点においている。工業と同時並行には行なわれない。人類は農業→軽工業→重化学工業という発展をたどると固く信じ、なぜか不可思議にもこの植民地でも同じような発展過程をたどらせている。ぼくにとっては「いきなりは都市はできず、発展過程をたどらなければ重化学工業にはたどりつかない」という「歴史のリアリティ」についての信念があったのだろうと思う。
 「米・小麦」などという品目がカワイイ。中学時代の地図帳&地理の影響である。
 教育をこれだけ早期に特筆しているのは、われながらおどろくが、これは「近代日本の成功は教育の成功である」という「史実」に影響されているのだ。『冒険ダン吉』は、「土人」に、近代の成果物として、最初に学校を与えるが、近代の装置として不可欠であるという信念がぼくにもあったのだろう。
 国家と国家の拠点(首府)と立法の措定がすべての最初にくる。
 そのような秩序なくしては混沌しかないのではないか、という思い込みが反映。
 この都市づくりの感覚はゲーム「シムシティ」にも似ている。



月暦 できごと
6 熱池町、フラカストリウス宇宙空港を設立。地球から鉄鉱石、石油、石炭を運送。
行用町、アピアヌス付近(雲の海東)で、鉄鉱石を発見。
市子でクーデター。ヤスゾウ・マツイが首相となる。
鵜ヶ池町、雨の海を経済水域に指定。
月面連邦運動活発化。※4
月面経済水域協定(リフェウス協定)。※5
7 市子町、タウルス平原(晴の海東)に農業を開始(米・野菜)。人民公社を組織。
行鵜(行用・鵜ヶ池)通商条約※6
行用町、アルフォンスス港、フラマウロ港を建設。
熱池町、レイタ谷、ライプニッツ山脈を探査。
行用町、ピタトス平原の東に、工場群を建設。
鵜ヶ池町、「港湾整備計画」。アルキメデス港、プラトー港、フォンテネル港を建設。
8 熱池町、ホンメルで銅・ウラン鉱・ボーキサイトを発見。
熱池町、ピッコロミニ市を設立。ピッコロミニ台地(みきの海北)で農業を開始(酪農・園芸)。
行用町、デーフェル山脈探査。
熱池町、キリルス=ホンメルに鉄道を敷設。
鵜ヶ池町、ヘリコン(雨の海中央)で、鉄鉱石を発見。
9 熱鵜(熱池・鵜ヶ池)通商条約。市子町、晴の海通過の利権料をとる。
市子町でマクロビウス大学できる。
このころ、各部落の教育設備がととのう。
行用町、アポロニオス宇宙空港を建設。

※4:月面連邦運動
 月面で部落を分立させず、統一政権の実現をめざす運動。スギウラの『月面連邦』を理論の母体としている。この運動の中心に、ミサキ・ナガヤがなり、各部落にいろいろな条約を批准させている。

※5:月面経済水域
 月面連邦運動家の提唱でとりきめられた。鵜ヶ池が雨の海を経済水域と言明したため、各部落で、経済水域論が活発化した。こうして、熱池はみきの海、豊かの海を、行用は雲の海、しめりの海を、市子は危難の海、晴の海、夢の海を、鵜ヶ池は雨の海、寒の海、露の入江を、それぞれ経済水域とした(静かの海、スミス海、ゆげの海、嵐の大洋は公海)。

※6:通商条約
 産業の活性化にともなって貿易もさかんになった。行用と鵜ヶ池は行用からの農産物(野菜・米)を、鵜ヶ池から水産資源を輸出していた(月暦10年ごろまで)。熱池と鵜ヶ池は熱池から軽工業品(繊維・食料品)、鵜ヶ池からは水産資源を輸出していた(月暦15年ごろまで)。

【現在のぼくからみたコメント】
 国家史に流れず、社会運動に目配せをしているのは、国家史だけの歴史のうさんくささを感じていたから。のちに左翼になる人間としてはこのあたり重要かも。
 港や鉄道などの基盤整備に重点をおいた歴史になっている。開発と公共事業が国家の礎である、という観念。子どものぼくにもモロに影響。
 不思議なのは「経済水域」に異常につよい関心をはらっていること。赤字にまでしてるよ、おい。排他的経済水域のことだろうか。一つには、小学校時代に200海里問題がおき、社会科の時間に相当調べたことと、もう一つは当時北朝鮮による日本漁船銃撃などがあったせいではないかと思う。




月暦 できごと
10 市子町、プロクルス市を設立。
行用町、石油・石炭・ボーキサイトを地球から輸入。
鵜ヶ池町、アペニン山脈の南に工場群落をつくる。
11 市子町、「2カ年計画」を実施。プロクルス市を中心に軽工業工場群を建設。
行用町、「重化学工業発展計画」を審議。
熱池町、「メガロポリス・プロジェクト」を発布。※7
12 熱池、行用、鵜ヶ池、市子の首脳が、熱池のキリルスで産業調整・道路計画について談合(キリルス会談)。※8
行用町、「都市整備公社」を設立。
月面連合科学会(MSA)結成。鉱物探査にのりだす。
鵜ヶ池町、カッシニ宇宙空港をつくり、地球から石油・石炭・液化ガスを輸入。
13 市子町、プロクルス宇宙空港をつくり、地球から石油を輸入。
行用町、嵐の大洋を探査。
このころ、各部落が都市整備に力を入れ出す。
行用町、ピタトス=カッシニ(鵜ヶ池領内)を結ぶ「大鉄道」を敷設。
14 市子町、フンボルト海の領有を宣言。
月面連邦運動党(統一党)、熱池のテオフィルスで結成。
MSAが嵐の大洋中央のケプラーで、液炭を発見。※9
15 液炭が石油の代用になることが判明する。リフェウス協定により、液炭は4部落で均等分割。

※7:メガロポリス・プロジェクト
 熱池町の都市整備計画で、キリルス=ドランブル=フラカストリウス=テオフィルス=サントベックに大都市と衛星都市をつくり、鉄道・道路で結ぶ。後の部落の都市整備の手本となった。

※8:キリルス会談
 月面での産業上の障害を取り除くため行なわれた会談。産業の国際分業を熱池が唱えたが、熱池の力が大きくなるのをおそれ、鵜ヶ池・市子が拒否。産業の調整、国際道路の計画について話し合うのにとどまった。しかし、この会談は、月面の統一化の第一歩として注目された。

※9:液炭の発見
 液炭は石炭の液化したようなもので、月面にあったアミノ酸からできたといわれる。石油と同じ役割が果たせ、しかも扱いが簡単なため、月で石油にとってかわった。

【現在のぼくからみたコメント】
 なんか、しつこいくらいに経済の話ばっかりだね。こいつ、ほんとに中学生か。
 インフラでは鉄道、工業は「重化学工業」を最高のものとし、鉱物・エネルギー資源への異様な執着。「鉄道は、資本主義工業の最も主要な部門である石炭業と製鉄業の総括であり、世界商業とブルジョア民主主義文明との発展の総括であり、またその最も明瞭な指標である」「独占体は、最も重要な原料資源の、それもとくに、資本主義社会の基本的な、そして最もカルテル化された産業、すなわち石炭業と製鉄業のための原料資源の、略取を強化させた」とレーニンが20世紀のはじめに『帝国主義論』でほざいたことをひくまでもなく、ぼくがこれを主要だと感じたのは、まさにそれがリアリティある20世紀の産業史だからと思ったからなのだ。「金融」が出てこないのは、習っていないせいですね。
 すでにソ連の「計画経済」神話などすっかり色あせている時代にもかかわらず、「計画」や「公社」にこだわるのは、ファシストだったくせに(いや、ファシストだったからこそ)、そのような計画であらかじめ統制をかけ産業の水準をひきあげるとは、なんとすばらしい発想だろう、という思いがあったからである。資本主義のもとでもこのような経済計画は当たり前だったことは、しらなかったはずだと思うのだが、ちゃんとここでは書いているのは、「低開発から引き上げるには国家の目的意識的な計画や介入が必要」という信念があったせいである。



月暦 できごと
15 鵜ヶ池、食糧危機。
プラトー会談4部落平和条約締結※10
鵜ヶ池町、寒の海北の原野林を伐採。
市子町、第三次「2カ年計画」を発表(重工業の発展、農業の発展)。
16 市子町、フンボルト平原(フンボルト海南)で農業を開始(小麦・綿花)。
熱池町、スミス海、南の海を探査。金鉱脈を発見。
MSA、統一党とともに、「国際液炭委員会」発足を提唱。
プロクルス会議※11
17 鵜ヶ池町、北極(寒の海北)で農業を開始(米・大麦)。
疫病流行。「MSA疫痢対策委員会」発足。
市子町、人民公社を急増させる。
熱池町、「北方総合開発計画」を審議。
18 鵜ヶ池町、パラス平原(ゆげの海西)に重工業工場群を建設。
鵜ヶ池のアルプスで鉄鉱石発見される。
熱池町、レイタ台地(レイタ谷西)に重化学工場群を建設。ホンメル=ファブリキウス(レイタ谷西)鉄道を敷設。ファブリキウス市設立。
19 行用町で「農業工場基地計画」が審議される。
熱池町、「北方総合開発庁」を設置。
鵜ヶ池内乱(ヤマダの乱)。※12
20 市子町、フィルミクス(危難の海南)平野に重工業工場群を建設。
鵜ヶ池政府、フォンテネルに移る。

※10:プラトー会談
 4部落の首脳が、鵜ヶ池のプラトー(雨の海北)に集まった。領土の不拡大、国際援助、軍備撤廃・禁止が決められ、4部落平和条約も結ばれた。

※11:プロクルス会談
 4部落の首脳が市子のプロクルス(危難の海西)に集まり、国際液炭委員会の発足を決めた。また、「月面連盟」が提唱され、仮認定された。細池町の月面進出についても話しあわれ、国際的共同にむけ大きく飛躍した会合となった。

※12:ヤマダの乱
 鵜ヶ池政府が総合開発のために重税を鵜ヶ池民にかけたため、反乱がおこった。タカシ・ヤマダを中核とする反乱で、エウドクソス(アルプス谷南東)を中心におこった。反乱軍は社会主義をかかげた。2年後、国際義勇軍により鎮圧。

【現在のぼくからみたコメント】
 また社会主義の必然性を窮乏化にむすびつけている。この発想は抜きがたいようである。
 もー、んとに、経済経済経済経済の話ばっかりだね。
 政治史、外交史だけ記すことの「うさんくささ」を感じ取っていたからであろう。
 社会はカネで動く、という俗な発想があり、それが経済というものの土台性に目をむけさせているのであろう。のちにこれが反転して、ぼくがマルキストになる一因になるのだ。
 (反共)国際義勇軍は、清朝の義和団事件とシベリア出兵がモデルになっている。すぐわかるけどね。
 ちなみに「農業工場基地」というのは、おそらく、修学旅行でいった「つくば博」での「野菜工場」(水耕栽培など)が影響を与えている。




月暦 できごと
20 市子町、「総合開発2カ年計画」を審議。
21 メルカトア会談※13
国際義勇兵、行用町のアルフォンスス(雲の海東)に集結。鵜ヶ池へ進攻。
市子町、国際義勇軍結成を非難。
22 ヘームス峡の戦い。(ヤマダ軍敗北)
市子町、3部落へ、義勇軍解散を勧告。
コーカサスの戦い。(ヤマダ軍敗北)
雨の海海戦。(ヤマダ軍敗北)
市子町、「4部落平和条約」を破棄。
23 エウドクソス包囲。ヤマダ軍降伏。ヤマダ自殺。義勇軍解散。
鵜ヶ池町、カッシニ市を首府に再指定。
市子町首相に、マサト・サカキバラが就任。
行用町、「西部開発会議」を設ける。
市子町、総合開発をすすめる。
24 サカキバラ、「膨張演説」をマクロビウスの赤の広場で行なう※14
熱・行・鵜(熱池・行用・鵜ヶ池)三部落同盟※15
行用町、シラーに農業を開始(酪農)。
市子町、月面開発条約を破棄。軍備宣言。
熱・行・鵜三部落が、市子町に軍備撤廃を勧告。
25 市子町、陸軍・海軍を設け、教練を始める。
三部落首脳、鵜ヶ池のパラスに集まり、軍備をしくことを決定(パラス会談)。
統一党大会。国際緊張緩和を勧告。
三部落、陸・海軍を設ける。

※13:メルカトア会談
 市子を除く3部落の首脳が行用のメルカトア(月表中央)に集まり、国際義勇兵の設立を決めた。これは社会主義の広まりをおそれた資本主義3部落が、ヤマダ軍を潰そうとしたものである。市子町は、これを「平和条約違反」として、厳しく非難した。市子の孤立をまねき、第一次月面戦争の遠因となった。

※14:膨張政策
 悪名高いアドルフ・ヒトラー(西暦1889-1945)の政策が基盤。自国民の自給のため必要な領土を武力でとるというもので、帝国主義的。サカキバラはこれを社会主義に適用し、資源と土地を求めて、静かの海、スミス海、豊かの海を要求した。

※15:三部落同盟
 市子町の膨張主義(スウォーリズム)に対抗して、熱鵜行3部落が結成した。表向きはゆるやかな協議体をとるが、実際は軍事同盟。国際緊張を激化させ、第一次月面戦争をひきおこすことになる。

【現在のぼくからみたコメント】
 平和ムードをもりあげておいて、突然国際緊張でおとす、というのは、当時のぼくのしょぼい演出。さまざまな平和努力がけっきょく実らない、というのは、物語を面白くしようとしたせいでもあるが、こうした諦念が一種の「リアル」だと思っていたのだ。よくあるシニカルな見方ですね。
 ヒトラーの帝国主義をそのまま「社会主義」にもってきたのは、スターリン的現実からみれば無理もない。ソ連は社会主義ではなかったという今のぼくの見解からすれば、もちろん許容できるものではないが、当時としては当然の発想。79年のソ連のアフガン侵攻などをみれば、これはこの時代のリアリズムなのだ。
 陸・海軍しかないのは、最初にも言った通り、ぼくがこの時代設定を第二次世界大戦のあたりに求めているから。
 とくにぼくは資本主義部落に加担しているわけではなく、資本主義側ももともと違反をやってるじゃないかという見方。社会主義反乱軍を社会主義国が支援するというのは、モロ「冷戦」的発想。二次大戦のドイツと戦後の冷戦をごった煮にしたような粗末な演出。元ネタがすぐわかる。



月暦 できごと
26 第一次月面事変※16
ドランブル会談
市子町、全工業を軍需工業にかえる。
27 市子町、熱池町と不可侵条約を締結(熱市不可侵条約)。
第二次月面事変※17
市子町、タウルス山脈に「タウルス防衛線」をつくる。
市子町、三部落に宣戦布告(第一次月面戦争)。三部落、市子町への貿易を停止。
28 市子軍、コーカサスに上陸。
ゴクレニウス海戦(豊かの海)。市子軍、ピレネーに上陸。
エウドクソスの戦い始まる(〜29)。
市子軍、みきの海へ侵攻。
市子町で物資統制令が出る。
29 市子軍、ピレネー・みきの海占領。
エウドクソスの戦いおわる。市子軍大敗北。
サントベックの戦い。市子軍敗北。
コーカサスの戦い。市子軍敗北。※18
コロンボ(豊かの海西)の戦い。市子軍大敗。※18
行用海軍、夢の湖で市子海軍を破る。
静かの海海戦。市子軍敗北。ピレネーの市子軍降伏。
30 同盟軍、ポシドニウス(夢の湖南)に上陸。
フランクリンの戦い。同盟軍敗北。
同盟軍、「タウルス防衛線」突破。
市子町でサカキバラ辞任。タカオ・サトウが首相となり、同盟軍に降伏(第一次月面戦争終結)。※19
サカキバラ、同盟軍に引きわたされる。

※16:第一次月面事変
 市子軍が静かの海を占領し、領土声明を発表した。このため、すぐにも戦争ぼっ発がありそうだったが、行用首相、シンジロー・カミヤの働きで、静かの海領有を認めることでおさまった(ドランブル会談)。

※17:第二次月面事変
 市子軍が不可侵条約を締結1ヶ月後に破り、豊かの海に侵攻した。メシエ艦隊(熱池軍)が全滅。これによって、第一次月面戦争が誘発された。

※18:コーカサス・コロンボの戦い
 コーカサスでは、物資を、晴の海の制海権を握った鵜ヶ池におさえられ、市子が敗北。コロンボでも敗北を喫し、ここから市子は守勢にまわる。

※19:市子町降伏
 サカキバラがタウルスの敗戦の責任をとって辞任し、かわってサトウ政権が誕生。同盟国に降伏した。サカキバラは同盟国に引き渡され、リフェウス島(嵐の大洋南)に流された。

【現在のぼくからみたコメント】
 元ネタばらしをいちいちやらなくてもいいけど、第一次月面事変で不法な侵略を認めさせてしまうのも、そのあと不可侵条約をやぶって侵攻するのも、ナチスドイツがモデル。モデルつうかそのまんま。
 このあたりはホントに現実の歴史にアタマが侵食されてしまって、せいぜい、その配置替えをしたにすぎない。



月暦 できごと
31 同盟軍、マクロビウスに進駐。
メルカトア講和会議メルカトア条約締結※20
統一党大会。月面連邦を提唱。
各地で月面連邦運動おこる。
細池町、「月面進出委員会」を設置。
32 「月面戦争処置機関」、熱池のキリルスで発足。
市子町の月面撤退はじまる。
熱池町、「産業復興協議会」を設置。
鵜ヶ池町、「新生・産業計画」を審議。
統一党大会。月面連盟を提唱。
33 行用町の工業生産が、熱池町を上回る。
熱池町、ピレネー・みきの海沿岸に、重化学工業工場群を建設。
行用町、ヒッパルス(みきの海東)で鉄鉱石・液炭を発見。国際液炭委員会規約にのっとって、3分の1を各部落に分配。
市子町、月面からの撤退をおわる。
熱池町、静かの海=ゆげの海=嵐の大洋を結ぶ、ユリウス運河に着工。
34 ハーシェル会議※21
(年表はここで中断している)

※20:メルカトア講和会議
 第一次月面戦争の処理のための会議で、4部落の首脳によって行なわれた。メルカトア条約が締結され、市子町の月面撤退、市子町が賠償金300億ゼームを支払うことなどが決められた。また、軍備の禁止、核の保持・製造・使用の禁止、公海自由の原則、自衛権の認可なども決められた。

※21:ハーシェル会議
 行用町のハーシェル(月面中央)で行なわれた3部落首脳会議。細池の進出の認定、同盟軍の解散、月面連盟の設置を決めた。月面連盟の結成には統一党が尽力し、その機構・理論は、スギウラの『月面連邦』がもとになっている。


 以上である。
 まことにしょうもない年表と註ではあるが、一定の量があると、それでもなんか現実感が少しは出てしまうから不思議なものである。
 その「充実感」こそ、偽史がもつ、仮想のリアリティなのだ。

 ぼくは、大塚の指摘とはまるで逆に、この偽史づくりから離脱し、マルクス主義にリアリティを見い出した。しかし、おたく世界は逆方向に加速していった。

 大塚の言葉でシメよう。

「このように現実から切断され、ドラマツルギーによって支配された『歴史』の肥大と、現実における『歴史』の度し難い不在が『おたく』たちをどこに連れていったかは言うまでもない。オウムにおけるサブカルからの引用の集積による麻原のSF的『おはなし』としての歴史、細部の整合性が語られる正統性となる『謎本』的瑣末主義に支えられ、しかしその全体像を『物語』に委ねることに無批判な自由主義史観。九〇年代になって突如語られ始めた『歴史』の、その語り口の『おたく』的手法の出自がどこにあるのかは自明である」

「何故、ぼくたちは虚構の中の『歴史』に耐えられなかったのか。フィクションをフィクションのままにとどめられなかったのか。/この、バーチャルな領域にとどまり切れず、安易に『現実』を求めてしまうところに、今、ぼくは日本型『おたく文化』の限界を見る





大塚英志『「おたく」の精神史 一九八〇年代論』
講談社現代新書
2004.4.30記
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