『続ご出産!』『新ご出産!』



続ご出産!―まるごと体験コミック 同じ飛鳥新社の『私の結婚式!』がヨカッたこともあり、結婚にかんするエッセイ漫画を探していたのだが、検索で出てきたのがこれ。3連作だけでなく新シリーズまで出ているようだから、相当有名・好評なのだろう。(この感想文の対象に、一作目の『ご出産』がないのは、ぼくが単に買えなかったからである)

 いやー、実際面白かった。換言して恐ろしかったともいう。
 『私の結婚式!』と同様、各巻、十数人の漫画家が自身の出産体験を描いている。

新ご出産!―まるごと体験コミック  結婚式というのはかなりヴァリエーションがあるものだと思うが、出産は基本的に同じプロセス。痛くなって子どもを「ひりだす」という話だ。うむ、実際読んでみて、「ストーリー」は同じだとしか思えなかった。関心のない人にはまったく面白くないかもしれない(そういう意味では『私の結婚式!』だって同じといえば同じなんだろうが……)。
 ぼくは出産というものに関心も薄かったし、そのプロセスもよく知らない。だが、これだけくり返し似た話を読まされると、いやでも頭にたたきこまれる。落語の同じネタを演者を変えてやるみたいな感じで、それが逆に面白さを生んだ。「ああ、この人はここの部分をこう来たわけね」とか「ここの演出はコレかー!」とか。

 しかも、一冊につき十数人の漫画家が描いている。本書で安彦麻理絵が友人から「アンタねえ!! モノ書く商売やってんだったら あの痛みは絶対ケーケンしとくべきよ!!」と友人から説教されているのだが、同じプロセスを十数人の漫画家が知恵をしぼって表現する。「ストーリー」が単純なほど、しぼられた知恵の効果は、集約的に高まる。

 そして「同じストーリー」といいたくなるほど、ほとんどの漫画家が焦点をあてているのは「痛み」である。
 いまぼくには子どもはいないのだが、常々つれあいは、「アンタはオトコだから痛みがなくていいよね」とぼくに言っている。
 なるほどたとえば内田春菊が昔描いた出産エッセイ漫画(『繁殖』シリーズ)を読んでも、少しは「痛そうだな」と思うんだけど、すぐ忘れてしまう。しかしこのシリーズは2冊で計350ページのなかで、メインをしめるエピソードはどれも陣痛の「痛み」なのだ。それを凡人がただ「痛い」と表現するのではなく、クリエイターが表現するのである。十数人の漫画家たちはその「痛み」を、グラフィックとテキストで、まるで競い合うように表現している。読者はくり返しくり返し「痛み」について教えられるだろう。

 これだけくり返し描かれると、読んでいる方は、ホントにそのことだけが記憶に刻み込まれていく。

 どの人も表現が鮮烈だが、テキスト的に鮮烈なのをいくつか紹介。

まるでアイスピックでハラん中ぐちゃぐちゃにかきまぜられてるみてーだよ!!〉(安彦麻理絵)
〈昔給食って こんなの(先割れスプーン)で食べましたよね? アレで 腹の中をエグられてる感じでしょーか〉(高瀬志帆)

 ほとんど例外がない。まさに「例外」的に痛みが弱い人(青木光恵)もいるのだが、それとても「人生最大というほどではない」という程度で、やはり相当な痛さなのだ。

 このまえテレビでニュースを見ていたら出産ライターみたいな人が出ていて、そのなかで「昨今は出産が大変だという情報だけが先行し、『鼻からスイカ』みたいな話だけが独り歩きしていますから…」と唐突に言っていた。あまりの唐突さに笑ってしまった。
 言葉を足さずに「鼻からスイカ」だけ言っても、こりゃーわからん人はわからんだろう、といっしょに見ていたつれあいと言って合っていた。
 この本のアドバイス部分を描いている助産師の紹介文には「昨年ちょこっとTV出演。めちゃイケで呼吸法の講義をし、『出産は鼻からスイカ!』で笑いを取る」とあるが、まさにこの本はその「鼻からスイカ」的話が多い。
 女性にとってはこの本がどう作用するかは不明なのだが、ぼくのような男が読むと、まあそうは言っても実体験はできないんだけども、いかに出産が大変かはわかる。
 この本に出てくるダンナのうち半分くらいの人は、たとえいっしょにつきそっていても「アタシの痛みは理解できない呑気な存在」として描かれている。だから、オトコは、350ページ連続してこの痛みを読めば、少しくらいは理解できるかもしれない。

 それから、帝王切開をしたためにあまり陣痛を経験しなかった人も、逆に「後陣痛」といって子宮が収縮するときの痛みに悩まされる。竹内ゆかりはその痛みをこう書いている。

〈なまりをのせたよーなにぶい痛み 気持ち悪〜 吐きそー も〜早く終わってほし〜 こんな痛いならもう二度と子供は産まない〉

 ガーゼのとりかえや、看護師の無造作な体の移動がさらに痛みをひきおこす。
 あと、これは和田育子。母乳の出が悪いので「マッサージ」(いわば搾乳)をされるのだが、これが激しく痛そう。また、つわりの苦しみと会陰切開縫合の痛みも、くり返し出てきて、これも刻み込まれる。

 ああ、出産とはこんなにも痛みや嘔吐感とのたたかいなのかと、戦慄する。



 医療関係者の心ない一言が妊婦を傷つけるケースも実に多い。担当医が、流産のあと本人に、〈おっ からだがでかいから 麻酔から醒めるの はえーや〉とか(まつりりんのケース)。

 面白かったのは、アイルランドで出産したくりはら美佳の体験。日本とのちがいというか、日本的視点でみれば、その「大ざっぱ」なことといったら。病院食でいきなりピザ&ポテトとセブンアップってwwwwww まあ、くりはらも書いてるけど、妊婦は病人じゃないからね。
 体重計はブーツはいたまま乗るし、内診はまったくなし。

 そして、無痛分娩が実に気軽に!(麻酔医がいなかったので、くりはらは笑気ガスだったのだが)
 そーいえば、知り合いがアメリカにいたとき、同僚が出産するとみんな麻酔で無痛分娩だったのにびっくりしていた。驚いていると「はあ? なんで痛いのがまんしないといけないの? アホじゃない?」。麻酔なしの手術、みたいに思うらしいのだ。出産で麻酔を使うと異常やトラブルも多いのでは、と尋ねると、そんなデータはねーよと返されたらしい。じっさい、ホントに無痛分娩が圧倒的らしいが。
 安彦麻理絵「無痛分娩じゃなきゃ絶対やだ!!」と最初叫ぶわけだが、目の玉がとびでるくらいの費用の高さにやめてしまう。



 この本を妊婦や妊婦予備軍の人たちが読むと、ひょとしてあまりの痛さに引いてしまうんじゃないかと不安になる。しかし、これだけは、絶対いえる。パートナーが妊娠した、あるいは妊娠を予定または希望するパートナーがいるは、読むべきだ!





堀内三佳・たかはまこ・フジスエサクラ・ 南Q太・安彦麻理絵・和田育子・宇仁田ゆみ・根津晴世・まつりりん・やまいしのりこ・竹内ゆかり・いのせひろみ
『新ご出産!―まるごと体験コミック』

おかざき真里・高瀬志帆・青木光恵・まついなつき・たかなししずえ・上住莉花・フジスエサクラ・みつのなな・くりはら美佳・岡本ゆり・神田ちゅん・タカシマシュウコ・さかくらまり
『続ご出産!―まるごと体験コミック』
飛鳥新社
 2006.12.1感想記
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