福本岳史・北河トウタ『ハゲルヤ!』



 聞きたくもないことをまたお前らに聞かせてやるが、ぼくは体を触られるのが好きである。

 床屋にいって、髪を切られている間はうっとうしいのだが、肩を揉まれたり頭を洗われたりしている瞬間というのは、至福のときである。ヨダレが出そうだ。しかし、幸せな時間はいつも短くて。「え、もう終わり?」と心の中で叫ぶのだがそんなダダをこねるわけにもいかず、表面上は肅然とその動作の終了を受け入れるしかない。

 「てもみん」みたいなクイックマッサージにいけば? というつれあいのすすめもあるのだが、それほど肩が凝っているわけでもないのに、「金を払って触られてキモチよくなりに行く」というのが、自分の心の中で「フーゾク」めいた後ろ暗さがあるのだよ、と告白すると、つれあいは鼻で笑ったものである。

 「紙屋ちゃん、元気!?」などと言って肩をもみだすぼくの元上司(男/べつの部署)にたいして、「でぃれくたーかよ、おめーは」というツッコミを心の中でしていたが、その肩もみが死ぬほど気持ちよくて、いつもサブイボたてていた。
 年輩の同性でさえこれだ。若い異性にさわられたらもういけない。別につれあいでなくても、である。
 学生時代、合宿でみんなで大部屋でフトンの上にてダベっていたのだが、ある女性が急にぼくの肩や手の平をもみだして、それが十数年たったいまも思い出されるほどキモチよかった。

 そのようなぼくは、最近、アデランスのCMや本を買うと入っているハガキにあるように、吉岡美穂、ほしのあきなどの胸元が深く開いた、短いスカートの服をみるにつけ、この産業は、明らかにぼく的な欲望のまなざしの方向へと転化しているなあと感じる。

あたまを女の人にさわってもらうときもちがいい

――アデランスは、この欲望にまっすぐ応えているのだ。

 雁須磨子『ファミリーレストラン』には、女性の主人公が、女性の美容師に髪を洗われている最中にあまりの気持ちよさに声を出してしまうシーンがある。

〈……頭皮がねえ 性感帯の人もいるんだって〉

と美容師がフォローともセクハラともとれるような発言をする。主人公があまりに「よがる」感じをみて、美容師は〈ねえねえ またおいでよ シャンプー タダにしてあげるから〉と誘う。
 そして次第次第に二人はふみはずしていき、ついに体まで許しあってしまうのだ。
 これ、むちゃくちゃエロいんですけど。

ハゲルヤ! 1  そんなことを前提にして考えると、この漫画『ハゲルヤ!』は、それがし大興奮するでござる、というツボをついているはずである。少なくとも設定は。

 男子高校生の翔太はハゲになりそうだということが悩み。頭頂部が薄くなりはじめている。片思いのクラスメイトの亜美に知られてはならない。
 そこに、ドジだが美人だという設定の国語教師・麻衣先生が、翔太を理科準備室に放課後、独り呼び出す。麻衣は〈私にアナタのことを研究させてほしいの〉と唐突に言い、翔太のハゲ体質を見抜いて〈アナタのハゲを治してあげる!〉と宣言するのだ。

 以後、この巻は、ハゲ「治療」をうけるという「みっともなさ」とハゲを防止したいという気持ちの間でゆれる、翔太の葛藤をつづっていく。

 ハゲを描いた漫画といえば、高倉あつこ『ハゲしいな!桜井くん』が有名だ。「コンプレックス」の角度から「笑い」とともに「外見ではない恋愛」というテーマを取り扱った。『ハゲルヤ!』でも、亜美と翔太の関係はこれに似ている。翔太が亜美にたいしてハゲを隠そうとする、という動作があり、そこから笑いをとろうとする。
 しかし、グラフィックとして亜美、すなわち「キャラ」としての亜美はそれなりにかわいいんだが、人格を搭載した「キャラクター」としての亜美はあまりに類型的すぎてまったく迫ってこない。亜美と翔太の間には、何の緊張関係も漂っていないのだ。今のところ、この二人を描くことには、この漫画は成功してない。

 しかし、麻衣と翔太の関係は、なかなかに発展を期待できるものがある。
 「密室で女性からヘアチェックを受ける」――これである。

 この漫画は、あとがきに「リーブ21」や「プライムG」に取材に行ったミニ漫画をのせていて、そのなかで〈ふぅ〜 人に頭皮をケアしてもらうのはとても気持ちがいいですねぇ〉といっている。
 やっぱりこれだろう。これがこの漫画の核心になるしかないだろう。〈施術は真剣な行為です。不純な動機はお止めください〉なんて巻末に書いてあっても、この漫画自体が不純すぎるんだよ。
 亜美との余計な恋愛ごっこはどうでもいいので、この漫画は〈人に頭皮をケアしてもらうのはとても気持ちがいい〉ということをまっすぐに追求してもらいたい。

 正直、先ほどの亜美のキャラクター性の貧しさや、ギャグのすべり具合、話運びの平凡さなど、漫画・作品としては成功しているとはおよそ言い難い。だが、にもかかわらず、一縷の望みとして、この関係、この欲望にぼくは期待をかける。もちろん、それはまだほとんど開花していないので、このまま奈落に転がっていってしまう作品なのかもしれないのだが。

 あと、ときどきに入るウンチクは、常識や謬論を粉砕してすすむので、小気味よい。たとえば、CMの影響で頭皮をクシでたたく=マッサージだと思っている人がいるけども、クシで叩くと柔らかいはずの頭皮が固く分厚くなり、頭皮が生えにくい環境になる、とか。こういう方向でもこの漫画が発展していってほしい。別にぼくは今ハゲに悩んでいるわけじゃないが、「常識をくつがえす」面白さがあるのだ。こういうものをもっと増やしてほしい。いま、少なすぎる。

 最大の問題は、この二人(麻衣と翔太)の関係はどこまでいっても寸止めなんだろうな、という失望感をいだかざるをえないこと。まあ、これは漫画としての瑕疵ではなく、少年誌だという制約なのかもしれないが、ぜひともそのへんの制約をこえてほしい。北河トウタはエロ漫画も描いてるし! 雁須磨子のように、イクところまでイッテしまう関係をぜひ描いてほしいものだ。無理だろうが。
 性的でない体の部位をさわっているうちに、性的な交歓が徐々におきてしまう、というのは、ぼく的には、ほら、もう完全にアレだから。






原作:福本岳史・漫画:北河トウタ『ハゲルヤ!』
1巻(以後続刊)
角川書店発売 富士見書房発行
角川コミックスドラゴンJr.
2006.11.16感想記
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