藤原カムイ『卑弥呼 週刊マンガ日本史01』




 朝日新聞で広告を見て、執筆陣の豪華さに惹かれていたのであるが、何よりもつれあいの食指が動いていた。「あんた、学習漫画で歴史を勉強したって言ってたよね」と言いながら、娘のために買うのだと叫ぶ始末。

 まずは藤原カムイだというから恐れ入るのだが、さらに安彦良和、ふくやまけいこ、本そういち、六田登、村上もとか……と挙げればキリがない。
 いろんな意味で期待が大きいのは、星里もちるが「野口英世」を描くことになっているということだ! 右図(本書p.5より)をみてほしいが、この絵柄だけみると、違和感ゼロの学習漫画ですよ、これは(笑)。いや、星里先生のことだから、野口英世が若い女だらけのアパートに下宿したり、渡米先でアメリカ人女性と御都合主義的にキスしたりするシーンが満載なんだろうと確信しております

 ぼくとしては、ぜひ雁須磨子に「明智光秀」をやってほしい! 「ちょ……なんでおれおこられてるの」とか「んもう さるのことばっかりきになってるあたしもさあ どうかとおもうのよ」とか、手書きで欄外にセリフ書いてほしい。

 さて、そんなわけで期待大の本シリーズのはずなのだが、第1作「卑弥呼」を手にとって愕然とした。なんじゃこりゃー。
 そもそも書店ではなく、地元のASA(朝日新聞販売店)を通じて初めて買ったために、その大きさ、薄さをまったく知らなかったのである。
 ムダにデカく、かつ、薄い。
 「もうさー、こんなにでっかくなくていいから、そんでもってカラーでなくていいからさー、ふつうにページ割いて漫画描いてよねとか思った」とはつれあいの弁。同感である。

 さらに漫棚通信ブログ版で批判されていたように、肝心の漫画の中身はひどい。卑弥呼がなんかドラマっぽい、あるいはポエムっぽいことをほざいているコマがやたらに多くて、学習漫画として面白くないのである。

 ポエムなものの最後に、日本の未来が見えるわ〜的なことを卑弥呼が言って、日本の歴史が大ゴマにてパノラマで描かれるあたりなど(卑弥呼の瞳にマッカーサーが厚木飛行場に降り立つところとかが浮き出てきちゃう)、心底どうでもいいという気になってくる。いい加減にしろ。

 漫棚通信ブログ版ではムロタニツネ象の『卑弥呼』を大絶賛していて、たしかこれを旧版の表紙で読んだ記憶があるのだが、あまり覚えてない。(この作品については下記URLがくわしい)

まぼろしの女王「卑弥呼」 - 漫研
http://www.tsphinx.net/manken/room/gakn/h_himiko.html

 上記のレビューには、ムロタニの漫画が大人の目からみると、けっこうきわどい「関係」が描かれた大人の性愛ドラマだという指摘があるのだが、本書でも卑弥呼が戦争から帰ってきた弟に抱きついたり、手を握ったりするシーンが意味深に描かれている。
 それを読んだ子どもたちは姉弟の再会を喜ぶシーンなんだなとフツーに読みとばすだろうが、果たして彼・彼女たちが大人になったとき、「ああ、卑弥呼と弟はデキていたんだなあ」ということに気づくであろう。うちの娘も。

 子ども心には『魏志倭人伝』の中にある、〈男子は大小と無く、皆黥面文身す。古よりこのかた、その使の中國に詣るや、皆自ら大夫と称す。夏后小康の子、会稽に封ぜらるるや、断髪文身して以て蛟龍の害を避く。 今、倭の水人、好んで沈没して、魚蛤を補う〉みたいな風俗を小さなコマでこまごまと描くような描写こそ面白いと思うのだが、いかがであろうか。

乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)  こうした風俗へのトリビャルなまなざしというものは、たとえば最近の漫画でいえば、森薫『乙嫁語り』を見習っていただきたいものである。『乙嫁語り』を読むと、物語以前に、森が「中央アジア」風の服や民芸、生活を描きたくて仕方がないのだなあという愉しさが伝わってくる。そして、12歳の少年を20歳の女性が「手ほどき」するというアレがもうたまんないけど、それは別の機会に。

 もっとも本書『卑弥呼』ではこうした『魏志倭人伝』中の風俗描写について〈「魏志倭人伝」の記述は南方の島々の風習とも思われる内容も書かれており、倭人の姿をどこまで正しく伝えているのかは疑問が残っている〉とも書いているのだが。

 漫棚通信ブログ版では〈藤原カムイの描く卑弥呼はやたらとかわいい〉と書いているのだが、卑弥呼がやる気のないOLのように見えるのは気のせいだろうか。

 こんな有様になってしまったのは、他の学習漫画との差異化をはかろうとしすぎたせいだろうか。知らないけど。

 邪馬台国のことでぼくが興味があるのは、邪馬台国が大和朝廷になったのかということなんだが、東京にいたときにそれを歴史にくわしい同僚にぶつけたらニヤニヤされて「そんな素人くさい質問はしないほうがいいよ」などといわれたものだった! 本書ではp.43に一つのコーナーをもうけて説明してる。もちろん何もわかっていない、というスタンスだ。

 今もってこのことについてはまったく知らないのだが、どうもたくさんの論争があるようだし、特に東征神話が史実を一定程度反映したものかどうかをぼくとしては知りたいので、どんな論争や説があるかくらい、書いてくれても良さそうなものだが、ジュニア版にそれを期待するのは酷というものだろうか。

 いずれにせよ、漫画の質を次号では立て直すことを大いに期待する。つうか、直してくれないと困るよ! 全巻予約したのに!





『週刊 マンガ日本史 01』2009年10/18・25号
朝日ジュニアシリーズ
監修:河合敦・山口正 漫画:藤原カムイ
朝日新聞出版
2009.10.19感想記
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