大西祥平・吉本浩二『勝ち組フリーター列伝』



 本書、『勝ち組フリーター列伝勝ち組フリーター列伝 』は、フリーターの中から「勝ち組」になったといわれる7人を取材して漫画化したものである。

  1. AVの転売からおもちゃオークションにいたるまでセコいトレードで年収1000万円にのぼりつめた人
  2. わらしべ長者のようにステップごとにもうけの幅をあげていき、最終的に「能力」=文才と料理の才能を売ることで年収3000万円となった魚柄仁之介
  3. 2億円かせいだデイトレーダー
  4. 洞窟で43年間くらした人
  5. それほど高くない収入ながら持ち家を沖縄で手に入れた人
  6. 「ギャル革命」で有名になったギャル社長
  7. フリーターから区議になった民主党議員


 企画にするために「勝ち組フリーター列伝」という共通項を無理やり探し出して、作中で取材した大西と吉本が教訓めいたことを叫ぶ体裁になっているのだろうが、こういうくくりや説教ははっきりいって余計だ。
 商業的なことを度外視すれば、「へんな人・すごい人列伝」で十分である。大西が(あるいは編集が)選んでくる人が抜群なのであろう。事実だけで十分面白い。

 1.の人は、田舎から専門学校進学、パチスロ・麻雀にあけくれ、卒業後地元でレンタルビデオ屋でバイト(月収9万円)という地点から出発。バイト先で「副業」的に5〜6年前の少しだけ古いAVを売って8500円の利鞘をかせぐところから「転売」生活を始めるのである。
 この人は「セコさ」が涙ぐましい。
 転売の前に一回AVを自分で「楽しむ」とか、食玩のおもちゃの転売でシークレット・フィギュアが出そうな箱を見分けるために、コンビニに計量器をもっていくなど、「セコさ」が全体をつらぬいている。
 しかし、裏返せば、ものすごい努力をしているということであり、そのセコさが大きな利益を生み出す源泉になっているのだから、大したものである。

 ぼくの友人の知り合いが、大学で捨てられる機器のマニュアルを拾っているので、友人がそんなものを拾ってどうしようというのだ、と聞くと、友人の知り合いは「ネットオークションで売れるのだ」と答えたという。セコい。
 しかし、ある種の労力さえ惜しまなければ、確実にそれはお金になるものだから、まさにそのセコさは利益の源泉なのである。

 オチが来る前に、大西がこんなエゲつないモノの転売で稼ぐなんていいのか、みたいなつぶやきをするのだが、それが余計だというのである。オチでこの人はそんな人じゃなかったということになっているが、どうでもいいことである。
こまねずみ常次朗 4―日掛け金融地獄伝 (4) 吉本は、『日掛け金融地獄伝 こまねずみ常次朗』でも原作つきで青木雄二そっくりの絵柄と作風で描いている(主人公の常次朗が勤める会社の社長は青木そっくりである)。このタッチは言葉や絵柄で内面を表現するのが難しいタッチである。物語の進展やエピソードの巧拙が「事実」「リアリティ」の精度を左右するので、セリフだけで「いい話」みたいにしようとするのは無理がある。
 だから、『勝ち組フリーター列伝』で、セリフで感動させようとしているところ以外、すなわち、事実そのものが面白いので、この漫画は十分楽しめるのだ。


 あと、4.の洞窟生活43年は、勝ち組とかいう話以前に、サバイバル技術が面白かった。一般的なサバイバル・マニュアルでもそういう類の話はあるけども、こちらは実話なので情報の緊迫感が違う。
 ヘビを集めるために、髪の毛や鳥の毛を焼くと煙にひかれてやってくるんだとか、「中でもマムシはうまかった!!」などとその捕獲・調理術を披露する様は「面白かった」。本人は必死だったんだろうが、読んでいるこちらは完全に他人事だから。

 最後7.の「フリーターから民主党区議へ」という話だが、少なくとも2007年の現在、大都市において「民主党」のお墨付きをもらうことは、もうそれだけでかなり確実な「勝ち組=当選」キップを手に入れることを意味する。
 もちろん、今度の統一地方選挙でも民主党候補はゴロゴロ落ちたんだが、それでも「民主党」とハンコが押してあるだけで、本人がどんな人物であってもそれだけで最初から票を期待できる(別に奥田がダメな議員だとか優秀な議員だとかいう話はおいといて)。たとえ猫や杓子が立候補しても、「民主党公認・推薦」とあればそれだけで最低当選ラインの3分の2くらいは出ると思うね(無根拠)。

 奥田は毎日のように駅頭に立つという「努力」をやってきたというから(中野区民だったぼくも奥田は見た)、これが「トップ当選」の原動力になったことは間違いない。しかし、それを差し引いても、自民・公明・共産といった組織政党からは考えられない票が民主党候補には組織なしで出る(自民でも小泉旋風のような場合は同じことがおきるが)。非労組系の民主党候補って、ホント、何も組織がないのな。選挙事務所の様子とかみていても、ママゴトのようなやり方をしているのだが、それでも票がドカンとでるのだから、おそろしい話である。

 無垢な気持ちで政治を変えたいという人から、山師のような人間まで、ありとあらゆるタイプの人を吸い込んで、民主党は「二大政党」の足腰を地方でつくろうとしている。それゆえ、暴行とか経歴詐称などといった不祥事も目立つのだが、実は民主党から都市部で立候補する、というのは穴場ともいえる「勝ち組」コースなのかもしれない。いや有権者にしてみりゃ、猫や杓子がそんなふうに議員になられた日にはたまったものではないが。





大西祥平:原作 吉本浩二:作画
小学館ビッグコミックススペシャル
2007.7.24感想記
この感想への意見はこちら
メニューへ戻る