『このマンガを読め! 2008』
「ダ・ヴィンチ」BOOK OF THE YEAR 2007





※『このマンガがすごい!2008』の短評はこちら

このマンガを読め! 2008  『このマンガを読め! 2008』と「ダ・ヴィンチ」BOOK OF THE YEAR 2007を比較してみた。いやー、前者が「通好み」、後者がより「大衆むけ」、という大ざっぱな性格付けはあるんだろうけど、漫画部門をみるかぎりではここまで重ならないというのはすさまじいことではあるなあ。

ダ・ヴィンチ 2008年 01月号 [雑誌]  なにしろベスト20のうち重なっているのは、吉田秋生『蝉時雨のやむ頃』のみなのだ。

 『このマンガを読め!』は専門家比率が高い。『このマンガがすごい!』も比率は決して小さくないので、選考は似てくるのだが、これほどではない。極左。
 対して「ダ・ヴィンチ」の方は、雑誌に添付したアンケートへの返答と、E-mailのアンケート会員、書店、同誌関係の文筆家、そして「株式会社マクロミルのアンケート会員(一部)にも回答」をもらったという(「ダ・ヴィンチ」08年1月号より)。総回答数4982だから、かなり一般的な選考結果に近づくことになる(それでも本好きの読者が多い雑誌だから、多少の偏りは出てくるのだろうが)。『名探偵コナン』や『ゴルゴ13』『ONE PIECE』が入ってくるあたりがいかにもである。
 『このマンガを読め!』の方に、ジュンク堂池袋本店の売り上げランキングが載せてあるが、「ダ・ヴィンチ」はこれと似た傾向を示す。しかし、そのなかでも微妙に違ってくるものがあり、そこに「ダ・ヴィンチ」読者層の特性が現れる。甲斐谷忍『LIAR GAME』や若杉公徳『デトロイト・メタル・シティ』が「ダ・ヴィンチ」ランキングには入ってこないのだ。

 「ダ・ヴィンチ」の選考では、2位に『おおきく振りかぶって』が入ったこと以外には、15位に『もやしもん』が来るまではまったく同意することができないものだった。ぶもー。




水木しげるは描いていない?



 さて、『このマンガを読め!』の方は、やはり巻末の呉智英・中野晴行・いしかわじゅん・南信長の座談会が圧巻である。
 どの話題も面白かったが、とりわけ(1)水木しげるの最新の受賞漫画はアシスタントがほとんど描いていること、(2)麻生太郎は『ローゼンメイデン』は読んでいないであろうこと、は貴重な話だった。

 (1)については、水木の作品がアングレーム国際バンド・デ・シネフェスティバルでベストコミック賞をもらったことにふれたなかで、中野がこの作品が受賞したと紹介するところから始まる。


中野 『のんのんばあとオレ』。
水木さんがほとんど描いてない作品だよ!
いしかわ それを言っちゃあ、おしまいだよ(笑)。
公然の秘密ですよ(笑)。俺は水木さん個人は好きだし、受賞は非常にめでたいことなんだけど、逆に言えば、あの絵の、ああいう作品が水木マンガだと国際的に認知されてしまうのはまずいよな。チクマ秀版社で復刻された『河童の三平』の、あの絵が水木さんの味なんだよ。
いしかわ 『のんのんばあ』はアシスタントの絵だもんね。
水木さんはほとんど手を入れてないんじゃないかな。水木さんの自伝の活字本があって、それを元にアシスタントが描いてる。
いしかわ 構成もしてないのかな?
構成や主キャラぐらいはやってるかな。

(『このマンガを読め! 2008』p.153〜154)

 授賞式にも行かず、そもそも受賞自体をしばらく知らなかったと呉は笑いながら話している。
 いやー、「公然の秘密」なのかどうか知らないけど、ぼくは全然知らなかった。みなさんは「もうとっくに知ってたよ」的な事実なんですか?

 夏目房之介は、『マンガ学への挑戦』のなかで、「集団制作と自己表現」という節を立てている。
 つげ義春にたいする批評が、つげ個人の「自意識」「表現意識」にからめたものが散見されたために、夏目はそもそも漫画の集団制作性を見ないとまずいですよ、という批判を行なっているのである。

「分業化は、それだけ効率的ではあるが、線の一本一本まで作家個人の意識が反映されるか、ということでいえば、やはり類型化しやすいだろう。/こうした集団制作の場合の作家意識は、つげ義春とまったく同様には語れないだろう。/しかし、表現作品である以上、誰かが表現のアイデアや修辞法をリードしてまとめざるをえず、まとめてゆく作家たちの集団的意識が、つげの作家意識と本質的にまったく異なるものなのかどうかという点になると、明確な答えがない」(夏目p.92〜93)

 こういう問題意識で水木の作品をみたとき、「ほとんど描いてない作品」を水木個人にからめながら批評するのは非常に危険だ。しかし、「構成や主キャラぐらいはやってるか」どうかは「ほとんど描いてない作品」と判断する上でけっこう重要な分岐だと思えるのだが、呉は最後にあいまいにして逃げをうっている。肝心なことがわからんではないか。
 ちなみに、さいとう・たかをはもはや『ゴルゴ』そのものを描いていないということで有名であるが、最近さいとうがペンを入れているということがこの座談会のシメで語られていて、その描写のおかしさに笑わせてもらった。(ちなみに、座談会の情報だけを読めば、水木は『のんのんばあとオレ』だけを「描いていない」というふうに読めるので注意をする必要がある。)


  • ※このエントリを書いた後に、京極夏彦がインタビューで話しているという情報のメールをいただきました。

    「ほぼ日刊イトイ新聞/京極夏彦はいつ眠るのか。」
    http://www.1101.com/suimin/kyogoku/2007-12-18.html

    糸井「あの、緻密な絵だって、水木さんじゃなくても、描けるようにしてますもんね。」
    京極「ええ、あれは『システム』なんです。あの緻密な絵を、週刊誌の連載でいったいどうやって描いてたんだろうと思うじゃないですか。……まず、いわゆる『アシスタント』を雇わない。……画学生をスカウトしてきて、自分の撮った写真だとかいろんな資料を見せて、納得いく絵をとにかく描かせる。で、それをストックしておく。今でいうところの『コラージュ』ですね」

     メールをくれた方は単に分業システムの問題であって「描いていない」「公然の秘密」的に言うのはどうなんだと、座談会の言い草を批判されていました。
  • 98年8月27日放映のNHK「BSマンガ夜話」でいしかわじゅんが、「10年、20年の単位で水木さんは自分でペンで描いてないと思うんだよね」と発言している、という情報もいただきました。「手を抜いてるっていうんじゃなくてプロデューサー的立場」ともいしかわは述べています。夏目は全部かどうかはともかく、とエクスキューズを入れていますが。




麻生は『ローゼンメイデン』を読んでない?



 あと(2)であるが、麻生太郎が『ローゼンメイデン』を読んでいるかどうかは、なぜか麻生を支持するオタク層にとって大事なことであろうが(いや、この男が首相になるかもしれないという情報だけで「萌え株」が上下するというのだから、麻生が「萌え」を理解するかどうかは日本経済にかかわるのかもしれないのだ)、この座談会の情報では、どうも読んでいないようである。

ローゼンメイデン 2 (2) (バーズコミックス)  麻生はかつて別雑誌のインタビューで「麻生大臣が羽田空港のラウンジで『ローゼンメイデン』という漫画を読んでいたという噂が流れているのですが本当でしょうか?」と直撃されて、「あーはっはっは。本当かもしれないな(笑)。少女漫画だろ? 羽田空港で読んでいたかまでは、覚えてねぇけどなぁ」と答えていた(「メカビ」vol.01、p.40)。

 この回答からは、“『ローゼンメイデン』と自分のかかわりが噂になったので知識としては知っている”的ニュアンスは感じられるのだが、実際に読んでいる痕跡が見当たらないのである。
 「メカビ」誌側はインタビューの場に『ローゼンメイデン』を持ってきて麻生が読んでいるところを写真におさめている。
http://mekabi.weblogs.jp/blog/2006/05/post_0703.html

 「少女漫画だろ?」という発言はインタビューの場で渡された冊子をパラパラ見ても言えることではないか(しかもこの規定は同漫画に対して的確とはいえず、「少女漫画だろ?」という謂いはいかにもその場で見た印象という気がするのだが)。明確な嘘はつかずに、自分にとって有利な噂は否定しないでおこう、という政治屋らしい計算に読めるのだが、サヨたるぼくの邪推だろうか。

  • この問題についてさらに情報をいただきました。「日経ビジネスレポート」(07年12月16日配信)で麻生はインタビューを受けており、「若い人たちは、麻生さんのことを『ローゼン閣下』と呼んでいるみたいですね」との問いに答えて、「たまたま空港でね。『ローゼンメイデン』というのは少女マンガ風の作品で、どんなものかなあと思って読んでいるところを誰かに見られたんだな」と答えています。「メカビ」インタビューでは「羽田空港で読んでいたかまでは、覚えてねぇけどな」とあいまいだったものを、「日経ビジネスレポート」のインタビューでは「メカビ」の(あるいはその元ネタである2chの)筋書き通りに「既成事実」にしている感じがして、ますます「計算」くさいんですが、とにもかくにも麻生は「『ローゼンメイデン』を読んでいる」というのが彼の「公式見解」のようです。
  • もともとの2chの書き込みもぼくは詳細には知りませんでしたが、情報をいただきました。こちらで見られます。この「40」の書き込みです(←リンク先はもともとの実況板のスレではなく、その書き込みを引用したもの)。非常に描写が具体的なんですが、具体的であるがゆえにヤバい。たとえば前後の脈絡なしに麻生に「あなたはJALダイアモンドプレミアムラウンジを使いますか?」とか聞いたり、日時や領収書とかでウラをとれば面白いのに、とか思いました。


 この問題(?)について、『このマンガを読め! 2008』の座談でふれているのだ。

 呉は麻生と、ある雑誌で対談をしたらしいのだが、呉によれば「麻生太郎がマンガを実際に読んでいるかどうかってことだと、これは本当に読んでます。ただし、それは我々とは意味が少し違う。彼が好きなのは『ゴルゴ13』とか『島耕作』。『ゴルゴ』は、外務大臣として自分が体験した国とか、そういう話が出てくるから面白い。『島耕作』は彼のつき合いのある会社とかビジネスマンの世界だからっていう、そういう読み方だよね」(『このマンガを読め!2008』p.154)。
 そしていしかわがそれをひきとって、「『ローゼンメイデン』は間違ったって読まないよな(笑)」(同p.154)と結んでいる。

 いわば、麻生はオタク層、すなわち二次元の欲望を喚起できる人間とはかすりもしない読み方で漫画を読んでいるのである。

 しかし、『ローゼンメイデン』が愛読書、いや少なくとも、何かに駆られて全巻読んだという形跡は麻生からは一貫して感じられなかった。『ヴィンランド・サガ』の場合は掲載誌等の関係で読んでいる可能性はあるかもしれない。「ビッグコミック」系好みの麻生は基本的に「劇画派」なのだ。
 『ゴルゴ13』。『島耕作』。これならばいかにもなラインナップで、ただちに麻生と結びつく。落ち着くところに落ち着いたというわけだ。





『このマンガを読め! 2008』フリースタイル
「ダ・ヴィンチ」08年1月号 メディアファクトリー
2007.12.26感想記(同日11:00増補)
2007.12.27再補足
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