高校生への有事法制の講義録
これはわたしが、ある高校生のあつまりで1時間ほどの時間で「講議」した有事法制についての中身です。
講演時期は2002年5月ごろです。有事法制が国会に提出され、この年の7月には、その国会では成立が断念されます(継続審議)。その直前にした講議ですが、この段階では「今国会通過」が確実視されていた時点のものです。
![]()
みなさん、こんにちは。私は紙屋といいます。
この講議の3つの獲得目標
さっそく、有事法制の話をしたいと思います。
この話が終わったとき、第一に、有事法制ができるとみなさんの生活がどうなるのかを具体的にイメージできるようになること、第二に、なぜこんな法案が出てきたのか、そのねらいがわかること、第三に、そのために自分たちは何をしたらいいのか、どうしたらいいのかがイメージできること、この三つのこと(もう一度いいます)がハッキリみなさんの頭に浮かべば、私の話は成功です。それがぼんやりしていたら、失敗です。
そして、みなさん自身が私の話を聞いて、他の人にうまく伝えられないとなれば、さらに私の話は失敗です。その点を気をつけてお話しますので、どうぞ注意してみてください。
ところで、有事法制って、とても聞き慣れない言葉ですが、「有事」って一般的に辞書でひくとどんな意味になっているか知っていますか?
辞書をひくと、「戦争などの非常事態のこと」とあります。「法制」の方は「法律と制度のこと」だそうです。つまり、戦争などの非常事態がおきたときの法律や制度、ということになります。
はじめに、みなさん、有事法制をすすめたい側の人間の頭になってみてください。
ふだん、私たちの生活にはたくさんの法律や条例、ルールがあります。でも、戦争になったとき、戦車がすすむのに、いちいち信号を守っているわけにはいかない。あるいは、兵隊が移動するとき、いちいち電車の切符をおさえてキャンセル待ちでならんでいたら、やられてしまう。
そこで、軍隊が動きやすいように、国民の自由や権利を制限し、またはそれを守るややこしいルールを「非常事態」だということで、大幅にゆるめてしまおう――というのが、有事法制をすすめようという人たちがよくいう言い分です。
これが正しいかどうかは、あとで考えましょう。
そこで、第一の問題に入ります。
いったい「有事法制ができるとみなさんの生活が具体的にどうなるのか」ということです。
ここでは、私のつくったマンガと法案の文章にそって、お話します。ですから、この講議を聞いていると、このマンガビラをばっちり使えるようになります。
有事法制ができると私たちのくらしは具体的にどうなるか
いま出されている法案は、3つあります。武力攻撃事態法案、安全保障会議設置法案、自衛隊法等改正案(めんどくさいので以下自衛隊法改正案)の3つです。
これは実は、有事法制が必要としている法律全体の、一部でしかありません。政府は、このあと2年かけて、もっとたくさんの有事法制のための法案を通そうとしています。そのことは武力攻撃事態法案の第21条、22条にかかれています。今回はまだ入り口にすぎないのです。
ところで、この武力攻撃事態法案は、正式名称を「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」といい、政府は、「平和安全法案」と呼んでいます。
悪いものは悪いと言っては、やってこない
これは気をつけてほしいのですが、悪いことをするときは、これは悪いですよとあからさまにわかるようにやる人はあまりいません。みなさんはちがうかもしれませんが、私たちの世代は、正義のヒーローをテレビでみて育った世代で、悪玉は必ず「デビルサタン」とかいういかにも悪そうな名前で、見るからに悪そうな格好をしていました。ウルトラマンでも、偽ウルトラマンが出てきたときは、目が三角につりあがっていていかにも悪どそうでした。テレビを見ているちびっこにはすぐ悪者だとわかるんですが、登場人物はまったく気づかない。「きょうのウルトラマンはなんだか変だ」とか言っているわけです。
しかし、現実は違います。都合の悪いものを「都合の悪いものだ」といって持ち出す人はあまりいません。「はーい、これは平和と安全のための法案ですよー」といってもちだすのが常です。
「現時点から、地球が8分の1自転した時間経過において、東経139度45分、北緯35度40分の地点で、P波と……」といわれても、おおかたの人は、その日も同じように会社や学校にでかけるでしょう。しかし「3時間後に、東京で震度7の大地震が起きる!」といったら、大パニックになるでしょう。権力者はできるだけわかりにくい言葉をつかいます。これを「わかりにくさの法則」といいます。別にだれも言ってませんけど。だから、有事法案を読んだという高校生の記事を新聞で私は読みましたが、やはりその人は「むずかしい」といっていました。わざと難しくしているのです。みなさんは、この「わかりにくさの法則」を見抜く力をもってほしいと思います。
ちょっと脱線しました。
「有事法制ができるとみなさんの生活が具体的にどうなるのか」ということでしたね。武力事態法案8条には国民は、戦争に協力することに「努めなさい」と努力義務であることをハッキリ書いて、さまざまなことを協力させようとしています。
これは大半は、自衛隊法等改正案に出てきます。
土地や家屋の使用
まず、「土地や家屋の使用」です。
マンガをみてください。まさおくんの通っている私立大学が自衛隊に使われ、まさおくんが家に帰ると家がぶっこわされています。(●自衛隊法改正案103条)
ここでも「わかりにくさの法則」がはたらいています。「使用」っていうと、なんだかお手洗いを貸すとか、ちょっと土地を使って家庭菜園でも開くかのような呑気さがあります。実際には、まったくちがうのです。「家屋の形状の変更」っていうのもそうですよ。よくヤクザやチンピラが、車を鉄パイプでボッコボコにしておいて、「ごめーん、ちょっと形がかわっちゃった」というセリフをいいますよね。いろんな思い出のある庭や家が突然崩されてしまうわけです。
何のためにこんなことが必要なのかといいますと、いろいろ目的はありますが、主に陣地をつくるためなんです(●自衛隊法改正案77条)。あとでいいますけど、政府や自衛隊はどこかの国が侵略してくるなんていうことはまともに考えていません。なんのための陣地かといいますと、アメリカが北朝鮮を攻撃したとき、その反撃のミサイルがとんでこないように、対空ミサイルやレーダーをつくる場所が必要なんです。そのために陣地がほしいんです。
「大学が閉鎖されるなんてウソっぽい」ってこのマンガをみていう人がいますけど、中央大学や明星大学は山の上にあり、レーダーやミサイルの陣地をつくるには格好の場所なんです。けっして非現実の話ではありません。
自治体の病院などを勝手に使えるように
マンガにもどりましょう。
マンガでは、病院が傷ついた米軍兵士にうめつくされ、病院に入れなくって困っている人がかかれています(●自衛隊法改正案103条)。これも「大げさな」という人がいます。
ところが、沖縄の「琉球新報」があばいたところによると、朝鮮で米軍がからんだ戦争がおきたとき、つまり有事のことを想定して、重傷の米軍兵士1000人を治療できるように、米軍はすでに日本政府に求めていたのです。
さいきんでも、北海道の矢臼別というアメリカ軍の演習地で、病院がどれくらい使えるかどうかをアメリカ軍がくわしく調べていくという事件がありました。
このコマなんか、いちばん起こりそうな話なんです。
民間人や公務員が強制動員
次に、マンガでは、大工のひろゆきくん、トラック運転手のよっちゃん、そのほか、医者・看護師をはじめ、資料であげたたくさんの分野の人たちが、戦争に動員されます。「業務従事命令」という「命令」で、強制されることになります。(●自衛隊法改正案103条)
医者や看護師は、もちろん傷ついた兵士の手当のためです。
トラック運転手や船乗り、パイロットは、武器や弾薬、それから兵隊を運ぶためです。もちろん、戦争中は、こういうものを運ぶのはれっきとした軍事行為ですから、標的にされます。
土木関係者は、陣地をつくるためです。
これも、非現実的な話ではなく、すでにどんどん組み込まれています。また、組み込まれた例が過去にたくさんあります。
1950年に、朝鮮戦争がおこりましたが、そのとき日本の看護婦さんたちが、九州に大量に動員され、そこで傷ついた兵士の看護をさせられました。
日本通運――ペリカン便ですね――は、いま米軍の武器や火薬を運ぶ仕事をさせられています。この場合、いまは企業と国とはたんなる契約関係、いやなら契約しない、という関係ですけど、こんどは命令になります。
→●有事法制は身近にすでに体験できる。あるいはおばあさん、おじいさん。
物資の統制
それから、マンガでは、ジャイアンににた軍人が、物資を統制していますね。これは法案では「物資の保管」という言葉になっています。「保管」。まるで、ちょっと倉庫においておく、そんな言葉の響きですよね。ここにも「わかりにくさの法則」が働いています。
「保管」とは、フリーズ、凍結することです。いっさいの移動や販売を禁じて動かなくさせることです。「物資」とは燃料から食料、トイレットペーパーまで、すべての品物をふくめたものです。しかも条文をみると(●)生産から、出荷、売る、運ぶまで、すべての段階で命じることができます。
みなさんの生活に必要なお米やガソリン、灯油、そして薬、こういうものをぜんぶ軍隊や戦争最優先で確保し、勝手に売ったり動かしたりしてはいけない、といわれているのです。これには罰則までついていて、違反すると懲役刑、つまり刑務所おくりか、最低でも罰金ということになります。
それから、法案には「物資の収用」もできることになっています。「収用」。これはとりあげることです。
さらにこのマンガではかかなかったけども、特別サービスで、新しいマンガを書いてきました(●)。
みなさんの身近にかかわる分野で、こんなことがおきるという問題です。
電波や報道も統制される
たとえば、みなさんはケータイを持っていますよね。この電波を政府がぜんぶ統制することになります。その理由は、戦闘のさいには、軍隊は、大量の通信を使うので、多くの電波を軍事用に使いたいからです。
それから、みなさんが見ているテレビ。テレビも、NHKや民放までが統制されることになります(●武力攻撃事態法案第6条、22条)。ある日テレビをつけたら、戦争報道一色になっているというわけです。
空港や港の閉鎖などなど……
その他にも、前のマンガにもどると、戦闘機や軍用機をとばしたりするために、空港や港を閉鎖してしまうこともあります(武力攻撃事態法案22条、自衛隊法改正案115条)。みなさんが、旅行どころか、おじいさんが危篤ですぐ会いにいかなきゃいけないときも、動けなくなります。
法案をみると、自衛隊法の改正案のところに、道路法とか港湾法とか森林法とか、法案の名前がずらっと並べられて、ぜんぶそれに特例をもうけるようになっています。マンガのオチにあるような、戦死者の火葬を、みなさんの家の横の公園や、みなさんが通っている学校でやるというのも、その一つです。ふだんは、病原菌や住民の感情からいって、こんなことは許されないので、ちゃんと死体を焼く場所は決まっています。みなさんもおじいちゃんやおばあちゃんが死んだとき、斎場といって、焼き場にいったことがあるでしょう。ちゃんと場所が決まっていて、順番があるんです。ところが、戦争でたくさんの死者が出たら、そんなことにかまっていられない。どんどん死体を燃やして埋めるんです。
こういうふうに、戦争や軍隊の行動にとって、いちいち面倒な法律やルールにしたがっていることは、まどろっこしくて仕方がないのです。それでぜんぶ、特例をもうけて、すっとばしてしまいたいのです。
以上が、有事法制ができると、みなさんのくらしがどうなるのか、というイメージでした。イメージしてもらえましたか? 国民生活のあらゆる分野、あらゆる人、そして物資が、戦争のために協力させられ、動員させられるのです。
反対した人は刑務所送りに
大事なことは、マンガをまたみてほしいのですが、「いやです!」と協力を断った人が刑務所送りになっていることです(●自衛隊法改正案124条)。これは物資の保管命令にそむいた人、あるいは立入検査を拒んだ人に懲役か罰金を科することになっています。
土地の使用や家の破壊は、強制的にやってしまえば罰則がなくてもできます。さからえばいまの刑法で、公務執行妨害罪にすることができます。
トラック運転手やパイロットの動員は、企業の指示に労働者が従わないと、国がやらなくても、企業がクビや罰を労働者にあたえてくれます。
だから、罰則をもうけないと協力がえられない分野は、実はこの物資の保管だけなんです。いくら保管命令をだして「おい、みんなコメやガソリンを売るなよ!」と大声でいっても、そのコメやガソリンを売ってしまわれては終わりだからです。
この条文をもうけることで、すべて協力しない人を強制できるしかけの穴がふさがることになります。こうやって、実際には、強制と罰でおどすしくみをつくっておいて、武力攻撃事態法案の8条で国民の協力を努力義務にしてしまうとどうなるでしょうか。
これは、戦争協力が国民の義務であり、協力しない人は犯罪者、非国民だ、という思想にほかなりません。政府は「こんどの法案は、みなさんの心の中や思想を統制したりするようなことはありませんよ、最小限度のことだけ制限させてもらうんですよ」といっていますが、実際には、戦争反対、平和がいちばん、戦争へは協力しない――こういう思想の持ち主を罰するという、とんでもない法案なのです。
有事法制とは、国民が戦争に動員させられ、それに協力しないという平和思想の持ち主は、犯罪者にされるという法案です。
憲法で人権や地方自治がきめられているのは「戦争をおこさないしくみ」
さて、ここで、マンガの中でひとコマだけふれられていないコマがありました。法学部のこずえさんのコマです。こずえさんは、「えっ、でもそんな土地のとりあげなんてすぐにはできないわよ。いくつも手続きや裁判が必要なはずよ。憲法で私有財産は保障されているのよ」とジャイアンに似た自衛官に疑問をのべています。
そうなんです。実は、軍隊がこの日本でものすごく動きにくいのは、この国に、いっぱいルールや法律があるからです。それは何のためにつくられているかというと、私たちの人権、つまり人間を人間らしくするための権利、それを守ったり、豊かにするために、あるんです。
さっきのこずえさんの例では、みなさんのお家の土地を勝手に国がとりあげてはいけないことになっています。もしどうしてもとりあげないといけないというときは、いくつもの手続きや裁判が必要になります。
いま、八王子や青梅、あきる野市の方で、圏央道という高速道路をつくっていますが、自然をこわし、渋滞をまねくというので、住民が反対して、立ち退きをしないでいます。国は土地をとりあげたがっていますが、そのためには意見を聞く会を何度も開かないといけませんし、環境の影響がないかちゃんと調査もしないといけません。そして、長い裁判をえて、そのすべてに勝って、ようやく土地をとりあげることができます。もうその計画がもちあがってから、20年近くたっています。
どうしてそんなしくみができたのでしょうか。
それは、いまの憲法ができる前、いまから50年、60年も前のことですが、太平洋戦争のときに、やっぱり有事法制をつくって、国民の財産を勝手放題に使い、取り上げたことがあったのです。私の実家のお寺にはことごとく鐘がありません。戦争の時、金属が足りないから、といって、ぜんぶ出してしまったんですね。それを溶かして鉄砲の玉にするということで。犬も強制的に出させられました。軍用犬にするという理由で(●)。
こういう勝手放題に財産をとりあげられるというやり方が、戦争を生んだというので、戦争の後にできた憲法、いまの日本国憲法には、財産権というものがしっかり明記されるようになったのです。
実は、財産権だけじゃありません。プリントをみてください(●)。
いまの憲法というのは、戦争の原因をとりのぞいた国や社会のしくみをつくろう、というので、戦争の原因になったものをとりのぞいて、平和の国にするという立場からつくられています。
たとえば、基本的人権は30も条文を書いています。そして、その最初に、「侵すことのできない永久の権利」だと書かれています。「基本的」とついているのは、そういう意味です。(戦前は法律でいくらでも切り縮められた●)
戦前は戦争をおこすさいに、戦争反対をとなえたり人を好き勝手に牢屋にぶちこみました。だから言論や集会・結社の自由がしっかり書き込まれていますし、牢屋に勝手に入れられない権利(人身の自由といいます)もくどいほど書かれています。
また、さっき、ケータイや放送を統制するという話がありましたが、戦前は戦争に反対する人をみはるために、勝手に軍隊や政府が手紙をあけたりしていました。だから「通信の秘密」という項目があるのです。
それから、労働者や農民はとても貧しいままでした。だから「朝鮮や中国の土地を奪って、そこに新しい農地や産業をつくろう」という政府の宣伝にのせられてしまいました。だから、わざわざ生存権などというものを書き込んだのです。
いちいち説明しませんが、憲法のさだめている基本的人権のなかで、何一つ、戦争の反省でないものはありません。基本的人権を抑圧してしまったために戦争を生み出してしまい、だから、どんなことがあっても、「永久に侵すことのできない権利」として宣言することが平和の国に生まれ変わるためにどうしても必要だったのです。戦争だから人権は制限されても仕方ない、のではなく、戦争だからこそ、いっそう保障されなければならないのです。人間が人間らしくくらせる社会になるほど、戦争とはかかわらない国になる、と考えたのです。
国のしくみもそうです。
むかしの憲法は、天皇一人でなんでもかんでも決められる独裁のしくみでした。戦争をはじめるのも、やめるのも、天皇にしか権限がありませんでした。だから、戦争を国民が望んでも、いや、政府が望んでも止められなかったのです。したがって、日本国憲法になってからは、こういう天皇独裁のしくみはやめたのです。では誰が一番えらくなったのでしょうか。むろん、国民です。そして、国会がその最高機関だとされました。
だから、総理大臣がいちばんえらいんじゃないんです。国会が最高で、総理大臣はその中から選ばれるというしくみになりました。
だから、総理大臣だからといって、なんでもできるどころか、やれることはものすごく限られているのです。みなさんの区や市に区長さんや市長さんがいますよね。あの人たちと、総理大臣はどちらが偉いかというと、一見すると総理大臣のような気がしますが、実は対等なんです。憲法は、わざわざ地方自治という章をもうけて、つまり地方のことは国がやるんじゃなくて、地方で治める、としたんです。だから、たとえば神戸の市長さんが核兵器をつんだ船は神戸の港に入らないでください、というルールをつくると、総理大臣といえどもそれをやめさせることはできないんです。
民主主義であればあるほど、戦争とは無縁の平和な国ができるという考えにもとづいています。
これが日本国憲法がめざした「平和国家」の道です。戦争の原因となるものを、すべて日本社会からとりのぞく、こういう立場でつくられたのが日本国憲法です。
有事法制はこの「戦争をおこさないしくみ」を解体する
ところが、こんどの有事法制は、その国のあり方を根本からひっくり返してしまう法案になっています。
武力攻撃事態法案3条には、戦争がおきたら、憲法の保障する自由や権利を制限する、と書いています。
それから、総理大臣には、地方の市長さんや知事さんに命令し、もし市長さんや知事さんがそれを拒否すれば、それらをとびこえて、直接やっちゃえるようになります(●武力攻撃事態法案15条)。この法律を使うときには、国会がOKをだす必要はなく、総理大臣の判断でできるようになります(●武力攻撃事態法案9条)。つまり戦争になれば、総理大臣にあらゆる権限が集中する独裁のしくみができるのです。
戦争の原因を注意深くとりのぞくことをめざした国から、戦争することをすべてに優先させる国に変える――つまり国のあり方を根本的に変えてしまうのが、この法案のねらいなのです。
私がこの法案を「戦争国家法案」だという理由はそこにあります。単に戦争とか国家とか、いかめしい言葉をただならべたのではなく、平和国家であった日本を、戦争を最優先にする国家にしてしまうから「戦争国家法案」だといっているのです。
「有事法制ができたら、私たちのくらしはどうなるのか、日本はどんな国になるのか」イメージできたでしょうか?
![]()
では、第二のテーマに入ります。「なぜこんな法案が出てきたのか、そのねらいは何か」ということです。
なぜこんな法案がでてきたのか――そのねらいは?
いままでお話ししたことを聞いて、こういう人もいると思います。「たしかに人権は制限されるし、国のあり方が大もとから変わってしまうかもしれないけど、実際に日本が侵略されたら、それも仕方ないじゃないか」。
私は、こう思う人は、ある意味でまっとうだと思います。そして有事法制賛成とか仕方がないという人の大半は、こういう気持ちです。自民党や公明党は、それをいいことに、こういう宣伝をいっぱいしているわけですけど。
日本本土への大規模な侵攻はありえない
しかし、そのマンガビラの裏の文章を見てください。
まじめに考えて、日本を攻めてくる国なんかあるのだろうか――こういうふうに、共産党の議員が国会で質問しました。そうすると、有事法制をすすめたいはずの政府の大臣は、「北朝鮮」とか「中国」とか答えるのかと思いきや、「想像ができないかもしれない」と答えたのです。その後、くり返し国会で聞いていますが、答えはだいたい同じです。
自衛隊の最高幹部だった人も、去年論文を出して、「今日から見通しうる将来において、わが国に対する本格的な武力攻撃が生起するとは見られない」といっています。
政府は、戦後数十年にわたって、有事法制の研究をしてきましたが、「日本に北朝鮮が攻めてくる」なんていう想定はほとんどありませんでした。
すべて「米軍有事」を想定してつくられている
じゃあ、どういうことを想定しているかというと、次の三つです。
一つは、アメリカ軍が北朝鮮に攻撃をしかけて朝鮮半島で戦争がはじまるというケースです。
二つ目は、朝鮮半島で戦争や紛争がおこり、米軍がそれに介入するというケースです。
三つ目は、中国と台湾の間で武力紛争がおこり、米軍がそれに手を出すというケースです。
たとえば、戦後の有事法制研究のはしりになった最初の研究(三矢研究といいます)は、「196X年X月、第二次朝鮮戦争ぼっ発」というシナリオでした。
日本が北朝鮮に侵略されるなんていう想定は、一つもありません。
どれも、アメリカが中国や北朝鮮にたいして、攻撃をしかけたり、または介入するという話ばかりです。実は、これを助けるのが、有事法制のねらいなんです。
背景にはアメリカ政府の要求がある――日本は米軍の兵站をになえ
1999年の3月、いまから3年前ですけど、国会で明らかになった自衛隊の内部資料によると、朝鮮半島の有事――やっぱりここでも朝鮮半島の有事なんです――を想定して、アメリカ軍は、日本にたいして1059項目の支援を求めてきたといいます。
また、その次の年、アメリカのアーミテージという政府の偉いさんが、レポートを発表しました。この人はこんどのアフガン戦争のときに、日本に「ショウ・ザ・フラッグ」といって、軍隊を出すように求めて日本政府が大慌てしたことで有名な人です。それくらい、日本とアメリカの関係に影響のある人です。このなかにも、日本とアメリカがアジアにかかわっていくさいに、どうしても有事法制が必要です、と書かれています。
どうしてアメリカはこんなことをくり返し求めるのかというと、朝鮮や台湾で戦争をおこすさいに、自衛隊はもちろん、日本全体がしっかりとミサイルの陣地もつくってくれるし、弾薬や武器も運んでくれるし、核兵器をつんだ船もどんどん入れてくれるような協力してくれる国になっていないと、戦争ができないからです。
1994年の朝鮮危機で日本に有事法制がなかったことの幸い
1994年、いまから8年前、北朝鮮が核兵器を開発しているかもしれないとアメリカがいいだした事件がありました。それで、もうアメリカは北朝鮮に戦争をしかけるというので、韓国にいるアメリカ大使も引き揚げの用意をさせ、核兵器を使うのがいいか、それとも他のやり方がいいかとアメリカ議会が報告書を出すまで緊張が高まりました。しかし、けっきょくアメリカが戦争をしかけるのをあきらめたのは、日本の自衛隊と日本国民が戦争に協力するしくみがなかったからだというのです。それで、平和の使節をおくって、戦争以外の方法をとることにした、というのです。この話を自民党のえらいさんが、マスコミにもらしたというんですね。(●資料をしめす)
まさに、アメリカのおこす戦争に国民を強制的に動員する――ここに有事法制のねらいがあるということがはっきりみえてきます。
これまでの法律ではできなかったことを突破する
1999年に、まず、自衛隊がアメリカ軍といっしょに戦争をする法律、ガイドライン法とか周辺事態法とかいいますが、これが通りました。これは日本に直接攻撃がなくても、――いいですか、ここがミソですよ――日本に直接攻撃がなくても、アジアや太平洋のどこかで何かがおこったら、そこに自衛隊が出かけていってアメリカの戦争の手助けをするという法案です。これがガイドライン法とか周辺事態法とかいわれるものです。
なんでこんな法律をつくったのかというのは、さっきの朝鮮や台湾でアメリカが日本をお供にして戦争をやりたがっている、ということを聞けば、みなさんはぴーんとくるんじゃないかと思います。
しかし、これには、自衛隊員じゃない国民や、企業、あるいは自治体を強制的に手伝わせるしくみがありません。「いやですよ」といわれたら、ストップしてしまいます。
そこで、アーミテージさんが、レポートをだして、「有事法制を早くつくって、国民を強制的に動員できるようにしなさい」とけしかけたんですね。
そして、こんどの有事法制法案ということになったんです。
武力攻撃がなくても強制動員できるように
じっさい、この有事法案には、いつ国民を強制動員するのか、というときに、一つは「武力攻撃が実際にあったとき」、二つ目は「武力攻撃のおそれがあるとき」、三つ目は「武力攻撃が予想されるとき」(●武力攻撃事態法案2条)というふうにいっています。
細かい区別はおいておきますが、つまり実際に武力攻撃がなくても、そういうおそれがあるんじゃないかとか考えられるんじゃないかということであれば、強制的に動員できるようになるんです。
それで野党の議員が国会で質問しました。「この有事法案のでいう武力攻撃が予測されるとき、というのは、ガイドライン法でいわれている『日本に直接攻撃がなくても、アジアや太平洋のどこかで何かがおこって自衛隊が米軍といっしょに出かけていくとき』っていうのと同じじゃないか」と。
そうすると、政府は「たしかに重なります」と答えたんですね。
つまり、日本になんか攻撃がなくても、アメリカがアジアで戦争をおこす。「ひょっとしたら報復攻撃が日本の米軍基地にもあるかもしれない」という話になる。それ武力攻撃が予測されるぞ、ガイドライン法で自衛隊が出かけろ、それ、有事法制を動かして、国民は戦争に協力しろ、という話なんです。
国を守るためでもなんでもないんです。
だから、もし有事法制の話をしたときに、「たしかに人権は制限されるし、国のあり方が大もとから変わってしまうかもしれないけど、実際に日本が侵略されたら、それも仕方ないじゃないか」という人がいたら、ぜひこう話してください。「日本が侵略されたらという心配はわかる。でも、こんどの法案は、日本を守るためのものじゃなくて、アメリカの戦争に日本国民を強制動員するためのものなんだ」。こういう人たちとも手をくんでいける可能性があるんです。
いまそこにある危機――米の北朝鮮への戦争計画
ここでみなさんによく考えてほしいのは、遠い将来の話ではない、ということです。
アメリカのブッシュ大統領が、アフガニスタンに残酷な戦争をしかけたのはよくご存じでしょう。
そして、同じようなやつらが世界にはいる、といって、イラク・イラン・北朝鮮という名前をあげて、「悪の枢軸」、つまり悪のいちばん中心になっているやつら、という意味ですが、と叫び、いまそのうちの一つ、イラクに戦争の準備をはじめています。
それだけではありません。この3つの国をはじめ、中国やロシアをふくめた七つの国に、核兵器を使う計画をもっていることが、アメリカの新聞で暴露されました。
いま、戦争の危険――なんの道理もない戦争です――が迫っています。そういう道理のない戦争に、日本の私たちが手を貸すのかどうか、それが問われているのです。いや、それだけではなく、自衛隊員として戦場にいくのは、あるいはトラックで武器や火薬を運ぶのは、看護師として動員されるのは、他でもないみなさんたち自身の世代です。あなたがたの世代自身が、そのことを自分に問いかけ、考えてほしいと思うのです。侵略の銃をとるのかどうか、アジアの人たちを殺す弾薬を運ぶのかどうか。
あなたは無法な戦争を自分で手伝うのか
あるジャーナリストがいっていたことですが、自分たちが侵略されることは考えても、自分たちが侵略することには思いが及ばない、と指摘したことがあります。すでに私たちの国は、ベトナムへの侵略戦争のときにアメリカに基地を貸してしまいました。こんどは、直接戦争の当事者となって、道理のない戦争をいっしょにすすめる側にたつかもしれないのです。そのことをぜひ考えてみてください。
アメリカはなぜそんなに戦争をしたがっているのか――世界の覇権
ところで、アメリカは、なぜこんなに戦争を広げたがっているのでしょう?
大ざっぱなことだけ申し上げておきましょう。
アメリカの大企業は、世界中に出かけていっています。マクドナルドが安い農産物を買い叩いて、それを世界中で売りさばいていますし、ギャップという服のメーカーは、発展途上国のめちゃくちゃ安い人件費を使って服を安くつくっています。これはほんの一例です。
アメリカの大企業がこんなふうに世界にでかけていったとき、その国が安定していないと困ります。農産物を買い叩くなといってデモをおこしたり、子どもを働かせているアメリカの大企業は出ていけという運動がおきたらどうなるでしょう。また、アメリカと仲の悪い政権や、アメリカのいいなりにならない政権ができたらどうなるでしょう。アメリカの大企業はもうけをむさぼれなくなります。
そこで、世界じゅうにアメリカのいうことをきく政権をつくっておきたいし、軍隊を世界中において、にらみをきかせておきたのです。タリバンというのは、そういう意味ではアメリカにとっていいなりにならない政権でした。イランも、いまの政権の前には、すごくアメリカべったりの政権があったのですが、革命で倒されてしまい、アメリカとは仲の悪い政権ができてしまったのです。つい最近では、南アメリカのベネズエラというところで、アメリカがてこ入れをしてクーデターをおこさせたのですが、失敗しています。
こういう力の支配を世界中にしいておけば、アメリカの大企業は安心して世界中に出かけられるわけです。これが、アメリカが世界中で気に入らない政権を倒そうと躍起になり、戦争を広げようとしている理由です。
日本がアメリカのいうことを聞くのも、たんにアメリカの圧力だからというだけでなく、アメリカの軍事力のそばにいれば、日本の大企業がやはり出かけていって、安心して活動できるからなのです。そのために、危険な戦争の分担もやりましょうといっているのです。
このことがいいことか悪いことか、それは別の機会にゆずって、いまは、こういうねらいをもっているということだけを頭においておいてください。