杉田聡『クルマを捨てて歩く!』/80点


 いかに乗用車としてのクルマをもたないことがすばらしいのかが、書いてある、シンプルな本です。
 目次をのぞくとわかります。ちょっと引用。

第一章 クルマを捨てると時間が増える
第二章 クルマを捨てるとお金が増える
第三章 クルマを捨てて歩くと体力がつく
第四章 クルマを捨てると人間関係がよくなる
第五章 歩く楽しさを実感する方法
第六章 子どもはクルマなしで育てたい
第七章 クルマを捨てると環境がよくなる
第八章 今すぐできるクルマ追放作戦
第九章 クルマを捨てる決心の固め方

 この本のいいところは、フツーの人の目線で書いてあること。むずかしい環境論や交通論じゃなくて、じぶんの生活をどうすればいいのか、という話としてかいてあって、それがやがて社会にひらかれた視線にまで、ごくしぜんにかわっていけます。

 たとえば、まずこんな身近な話から。

 サラリーマンの平均年収は465万円、うちクルマの経費は年60万円。
 もしクルマをすてれば、年316時間ぶんの賃金は自由になる。
 あるいは、クルマをわりと多くチェンジする人なら、生涯に3000万円もの経費がうくから、家が買える。

 こういう数字の話ばっかりじゃなくて、歩くとどんなに楽しいかを、自分や、自分の子どもとの、北海道での体験を語っています(筆者は北海道なのにクルマをもっていません)。
 とくに、子育てのとの関連で、クルマがどんなに不要かを論じている場所は、興味深いものです。
 みんなが親にクルマでむかえにこられるなかで、高校生の息子は、そういうのを拒否してバスで帰った話とか、保育園送迎にクルマでのりつけることの傍若無人さとか。

 あとは、歩くことの楽しさですね。
 筆者は、きみのわるいはずの蜘蛛がどんなに美しい造型美をもっているかとか、機械にたよらずに歩けた自分への達成感とかを書いています。
 ぼくも、職場の帰り道は、毎日あるいています。5キロほどのみちのりですけど。ぼくは自然を見るというより、ずっと考え事をしながら歩くんです。机の上じゃなくて、基本的に歩いて思考するし、それが好きな人間なんですね。

 そして、この本は、ゆっくりと、目を社会にてんじていきます。
 家庭からだす二酸化炭素は、クルマがいちばん多い。
 じぶんの近所で、子どもたちの通学路を安全にするために、クルマ止めを行政にもうけさせよう、というちょっとした運動をする話もでてきます。

 ぼくはコンビニ依存症のようなもんですが、コンビニはクルマによる「ジャストインタイムの輸送」でなりたっています。いまの産業の下ざさえをクルマは担っていて、ほんとうにクルマ依存社会をかえるためには、そこにきりこまないとだめなんですが、そういうむずかしいことは、ぬき。そこがとてもイイ本です。

 この筆者の別の本、『男権主義的セクシュアリティ』(ポルノ・買春批判)はちょっと骨のおれる本ですけど。いろいろ書ける人なのね、と思いました。


(講談社+α文庫)

採点80点/100

2003年 1月 22日 (水)

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