ライトオピニオン誌「m9(エムキュー)」で連載します




m9(エムキュー)  発行元は晋遊舎。
 同社は『嫌韓流』や「スレッド」のイメージが強いだけに、ぼく自身、声をかけていただいたときにはちょっと意外な気がしました。
 ただ、本誌に「ライトオピニオン誌」と銘打ってあるのは「右派的意見雑誌」という意味ではなく(笑)、「小説に対するライトノベル」と同じ意味での「ライト」であり、多くの若い人に届きにくくなっている論壇的言説ではなく、というニュアンスをこめている——そんな話を編集の方からお聞きしました。また、右と左の垣根を越えている、という立場についても企画書で拝見しました。

 政治の言葉が硬直していること、そして漫画をはじめとするサブカルチャーのなかに欲望にみちた言葉があること——その両者を統一できないだろうか、サブカルチャーを泳ぐのと同じような気持ちで政治が語れないか、というのはぼくの年来の課題であり、「オタクコミュニスト」などと自称したのは、その分裂を生きている自覚でありました。

 なので、この雑誌の趣旨はとても面白そうだと思い、すぐ引き受けたのです。いや、もし「右よりの雑誌です」と言われてもやっぱり面白いから引き受けてましたけどね(笑)。

 つうか、この雑誌の趣旨、どこかで見たことあるな、と思ったら、ぼくが編集委員をつとめることになった超左翼マガジン「ロスジェネ」にそっくりなんですね。もちろんアプローチの角度はまったく別なんですが。
 「ロスジェネ」にはかなり早い段階からかかわっていたんですが、もちろんそれは内々に議論している最中でした。さていよいよ世の中に出そうかというときになって、晋遊舎から企画書をつけてお話があったので、ぼくの方がびっくりしてしまいました。
 おいおい、企画が漏れてるよ。じゃなくて、どっちも同じくらいの時期に、期せずして同じようなことを考えたわけです。
 しかも、「m9」のほうは、ぼく自身の連載以外は知らなかったので、出来あがった表紙をみてまたびっくり。赤木智弘氏は「ロスジェネ」でもメイン対談をやっているのですが、「m9」の方でもメイン対談をやっていて、ここまでかぶるとは、と笑ってしまいたくなりました。
 そこまでのモロカブリ状態を知っていたのは、おそらく全関係者のなかで赤木氏ただ一人だったということでしょう。

 まあ、この雑誌不況時代に、このカブリ方は実は悪いことではなく、人々のアテンションを引き出す上ではむしろ好材料じゃないかと思います。「右と左の垣根をこえる」というテーマ自体は、実は論壇的にも旬な話題の一つだと思いますし。

 さてぼくの連載ですが、連載といっても漫画評ではありません。
 体験的社会時評といえば聞こえはいいですが、いい加減なことを書き散らしているといいますか(笑)。うそ。ちゃんと書いてます。タイトルは「ご冗談でしょう、マルクスさん」。「オタクなサヨクが平凡な日常から社会を考える」というサブタイトルがついています。

オタクコミュニスト超絶マンガ評論  第1回目は、「痴漢えん罪」についてです。
 ぼく自身がその恐怖を味わった体験から話を起こしていますので、ぜひご一読ください。
 そして、連載にはイラストというか1コマ漫画がついています。『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』でイラストを書いていただいた、サイト「るるてん」の、きあさんが引き受けてくれました。そして1回目の漫画も絶好調で、きあさん節が炸裂。ぼくは大いに楽しみました。いやー、このテーマでは、あまり軽々に楽しんではいかんのでしょうが。
 このままでは、絶対に本文以上に人気が出ると思います。

 さて、この創刊号には連載記事だけでなく、「この下流マンガがすごい!」ということで記事を書かせてもらいました。真鍋昌平『闇金ウシジマくん』をとりあげたのですが、これまでの格差・貧困論とともに、いわゆる「下流の人々」を描いた漫画との違い(古谷実『わにとかげぎす』との比較)、派遣問題を描いた形になった漫画との差(松田奈緒子『少女漫画』との比較)、そして『ウシジマくん』最新シリーズにみる「正社員における貧困」など新しい論点を論じていますので、こちらもぜひごらんください。

 発売は08年4月26日です。




「m9」がなくなってしまいました m9(^Д^)プギャー



 08年9月某日。ぼくが本職の仕事をしていると、晋遊舎の編集のQさんから携帯に電話。「実はですね…」と暗い声。

 あっ、これは連載の打ち切りではないか、と漱石の『こころ』にでてくる「先生」ばりに「黒い光が、私の未来を貫いて、一瞬間に私の前に横たわる全生涯を物凄く照らし」ちゃったりしたのですが、その直後にQさんから「雑誌が3号で終わりということになりまして…」という言葉を電話口で聞いたとき、打ち切りでなくてよかったと一瞬安堵してしまったことを許してください! そして本気でメシのタネにしている人たちも許してください!

 第3号で終わりなので、次号はありません。いま本屋に出回っている号でおしまい。ジ・エンド。すばやすぎる、容赦のない決断です。出版社としては「次号で休刊します」的告知を出して、「思えば創刊時…」などと余韻に浸っている場合ではないようです。

 それはそうと、それが廃刊なのか休刊なのかはついに聞きはぐりました(※)。販売的に少々苦戦しております、というような話も聞いたことがあるのですが、まさかこうも早く決断されるとは。同社のエラい人たちは第3号の売れ行きの出足をみて判断しようとしたらしく、結果こうなったようなのです。

  • Qさんからその後メールをいただきまして、「休刊」だそうです。(9月17日追記)
     

 担当していただいたQさんにはこの場でお礼を申し上げておきます。どうもこんな未熟者に声をかけていただき、そして根気よく執筆につきあっていただき、本当にありがとうございました。そしておつかれさまでした(といっても後始末の方が大変なんでしょうけど)。




2008.4.19感想記(08年9月12日追記)
(同17日再追記)
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