kashmir『○本の住人』



○本の住人 1 (1)  「まるほんのじゅうにん」と読む。
 サイト「ネコにテルミン」の人なんだが、そう言った方が通りがいいとは限らないので、そう換言しても意味ないんだけども。


 メガネ&ショートの小学校4年生の蓼科のり子(のりこ)が主人公。こいつは何の変哲もない小学生なんだが、その兄は児童向け絵本、というか意味不明の奇書を描いているペド疑惑のあるオタク。そしてこの兄妹をとりまく異常な同級生や編集者たちの織り成す4コマ漫画なのである。

 と、いま主人公ののりこを「何の変哲もない」などと書いたが、もちろん実際には「変哲」ありまくりで、こんなリアル小4はいない、というくらいの「苦労人」だ。つか、単に20代くらいのオタク男のツッコミを体現しているキャラクターで、リアル小4女子がこんな鋭いツッコミを入れてくれるなら、毎日その小4女子と飲みに行って笑わせてもらえるだろう。

 ばらスィー『苺ましまろ』の美羽を彷佛とさせるのは、本作に登場する主人公の同級生・ちーちゃんである。むろんツインテールという共通項だけではないことは言うまでもない。

 のりこにボールがあたる寸前、ちーちゃんがジャンプしてキャッチ!
 のりこの危機を間一髪で救うものの、のりこが「あ…ありが」とう、と言う間もなく、ふりむきざまにのりこに強烈なパンチを一撃! 意味わからん!

「あぶなかった!! 当たっていたら
 ちょうど今ぐらいの衝撃だった!!」

という具合に、行動を貫く論理が、美羽ばりに脱臼しているのである。
 というか、美羽の場合は、実はもっとロジカルにボケていると思うんだが、本作のちーちゃんは、さらに徹底していて、言語概念を解体したりいたぶったりするところに生まれる可笑しみ、筒井康隆いうところの「言語姦覚」である。

 ちーちゃんの造形に典型的だが、作者はこの「言語姦覚」にすぐれている。どうすれば言語をいたぶれるのかがよくわかっているのだ。カバーをはずした表紙に書いている、「好きな言葉は?」にたいするちーちゃんの回答「真っ赤なトマトになっちゃいな!」などはただ者ではない


 1年生の歓迎会の劇の練習をのりこの家でやっているときの王子役のちーちゃん。
 姫役で倒れているのりこの手をにぎり叫ぶ。

「おお 姫よ!

 前立腺肥大は切らずに治せる!!!」

 あるいはこうである。

「おお 姫よ なぜこんな姿に!

 ほんのりと上気した桜色の唇!
 甘く芳醇な香りがまるで生き物のように鼻腔をさまよい……

 三郎はたまらず義母の胸をあらわにして叫んだ!!!

 KEEP TOILET CLEAN!

 そして眠っているのりこの首をしめるのである。
 終始一貫表情を変えずに奇行に走るちーちゃんの「狂人」ぶりがそれに輪をかけている。可笑しすぎる。

 キャラクターで遊ぶ漫画というのは、読者のほうがその空間に馴染んでしまえばこっちのもので、後はその定番・お約束を使えば使うほど読者と作者の馴れ合い快楽空間というのが醸成されていく。しかし、この馴れ合いをつくるまでが難しい。だいたいにおいて作品の当初はキャラクターの性格付けが安定せず、作者も性格を印象づけるような強引な展開をするもんだからわざとらしくなってしまうことも少なくない。そういう無理な努力が見えてしまうと、ぼくとしては萎えてしまうわけである。
 実は、本作もキャラクターで遊べるほどの馴れ合いができるまでの時間がけっこうかかっている。1巻で100ページほどあるうちの半分くらいまでぼく的にはエンジンがかからず、そのあたりから俄然面白くなっていった。

 クラス球技大会で、ちーちゃんが味方のピッチャーに飛ばす「ピッチャー!! 内臓疾患の疑いが」という意味不明の曖昧な野次が好きだ。




芳文社 MANGATIME KR COMICS
1巻(以後続刊)
2007.4.4感想記
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