ハイブライト編『メガネ男子』



 キタ!! ねえ、おれの時代、キタ!? キタよね。ね。ね!

メガネ男子  思えば長い道のりだった……。
 高校時代に好きだった女の子に今会っても「悪いけど、お前には1グラムも萌えない」とか速攻で言われるし、いまのつれあいが道で拾ってくれるまでは、長年フラレタリアートとして、フルジョアジーどものディクタトゥーラのもとで虫ケラのように扱われ、苦吟し、搾取され収奪されてきたのだ! 国民よ、立て! 立てよ国民!
 その長かりし冬、今終わりをつげる……。
 ほら、なんつうの。時代がおれに追いついたとかそういう。

 メガネをかけた男子に萌えるというコンセプトで、メガネ男子萌えの女性の座談会、メガネ男子名鑑120人、メガネ男子インタビュー、メガネ男子漫画などを満載したのが本書だ。
 メガネをかけたぼくがこの本を買うというのは、『3日で大もうけできる奇跡のブログ術』とか例えばそんなタイトルの本を買うのに似ている。すなわちタイトルが内包しているレジにおける自己言及性が死ぬほど恥ずかしかった。
 つい伝統的な自己乖離手段、「領収書お願いします」がノドまで出かかる。
 他にも、使い捨てコンタクトで買いに行く、などという戦術もありえたが、あいにく、その大手本屋に入ったときは次の仕事の予定が押していたので、この戦術はかなわず、メガネをかけたままレジに差し出しましたとさ。

 ああ、店員の女性。1秒でも早くカヴァーをしてくれないかな。ほらあ、そんなタイトルを上にして釣り銭の作業とかしないの! となりに並んでいる女が嘲笑しているダロ。つうか、店員のあんたも心の底ではこんなタイトルの本を買う俺を笑ってるんだろ? 「『おれの時代キタ!』とか思って買ってるワケ? ヴァーカヴァーカヴァーカ」みたいな。もうとにかく早くカヴァーを!
 どんな漫画でも決してカヴァー&袋を要求しなかったぼくであるが、こればかりは勘弁して下さいと地球環境に心のなかで許しを乞いました。

 どうにかこうにか購買。つりを受け取って足早に去ろうとすると、

「もしもし。お客さま、商品をお持ちください……」

 顔から火が出る
 もしこれで忘れていったらどうなっていただろう。

「♪ピンポンパンポーン…さきほど、1階新刊売場にて『メガネ男子』をご購入されたお客さ。プッ! 失礼しました。『メガネ男子』をご購入されたお客さま。お知らせがございますので、1階新刊売場までおこし下さい」

などと全館放送
 きっと、1階のカウンターには、買った馬鹿を一目みようと5000人をこえる観衆が殺到。そんなところにノコノコ現れたぼくはびっくり仰天し、哄笑の渦のなか、恥ずかしさのあまり、その場で辞世を詠んで切腹したであろう。

「めがねもえ
 うっかりわすれ これやこの
 つゆときえにし おたさよくかな」

 命があってよかった。

 「メガネ男子のどこがいいのか?」「メガネをかけている男なら誰でもいいのか?」などという野暮な質問には、この本全体が全力で答えているので、それで判断してもらうほかないのだが、明確に言説化しているのは、本書ではメガネ萌え女性7人が「メガネ男子愛好サミット」なる座談会。そこでわかる。

 まあ、要は人それぞれなのだが、うっすらとある共通性をみると、「メガネをかける必要があってナチュラルにかけている人」というのが前提条件としてありそうだ。また「三大ダメガネ」の基準などのネガティブリストを提案する人もいた(ちなみにその人の基準は〔1〕反知性、〔2〕キモいメガネ、〔3〕ダテメガネだった)。
 さらに「ちなみにメガネをあげる仕草、こう(人差し指で竿あげ)とこう(中指でセンターあげ)どっちが好きですか?」「こう(親指と小指で両竿あげ)ですよ! 手の大きさを感じるじゃないですかー。豊川悦司さんがこうやってメガネをあげたら、それだけで昇天ですよー!」などという摩訶不思議な会話も続く。

 これらのメガネ萌えの果てに『ハチクロ』の真山と野宮が比較されていることが、漫画好きの目に止まる。他の箇所でいろいろごたくはならんでいるけども、究極この二人に代表されるようなメガネ男子ではないかとあやぶむ。なぜあやぶむか。

 真山は「ちょっとカジュアルな黒ブチセルメガネ」。野宮は「クール&スタイリッシュなリムレスメガネ」。どっちもぼくじゃないじゃん! 「そういう、メガネの種類や形のことを言っているのではないのだ」とすかさずメガネ萌えの女子から反論がくるであろうが、どっちにしても真山メガネという記号が代表している「真山的なるもの」も、野宮メガネが代表している「野宮的なるもの」も、どちらともぼくは縁がないのである! くそ。

 ぼくのメガネ顔は、この本に載っている「名鑑」の有名人でいうと、ジョン・レノンとダニエル・ラドクリフを足して2でわったような顔。であればいいのだが、実際には、高橋源一郎と矢崎滋を素因数分解して√288で除したような顔である。あえていえば『げんしけん』の斑目。丸メガネだし(泣)





アスペクト
ハイブライト『メガネ男子』編集部
2005.10.5感想記
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