「前区長の長女」という肩書き

 渋谷で都議の補選がある。定数2。
 民主党都議が婦女暴行で逮捕。自民党都議も途中で放りなげて衆院選に出た(落選)ため、渋谷選出の都議が一人もいなくなるという異常な事態なのだ。

 さて、その自民党陣営のポスター。「村上英子」というのが、自民党から都議出馬予定なのだが、ポスターの肩書きがすごい。

 「小倉基 渋谷前区長 長女」である。


 いくらなんでもこれはないだろう。
 この、「弁士」※の肩書きというところには、「この人はどういう人ですか」という問いに対する一言での答えが書かれているのだといってよい。ふつうは「区議会議員」とかいった役職名が入り、新人の場合は、「党青年部長」「党渋谷女性対策局長」とかいう党内肩書きとなる。新人でも、職業にインパクトがあるばあいは、「作家」「弁護士」「スポーツ振興協会会長」などといった肩書きがそえられる。
 いずれにせよ、そこには、「何者か」という問いに対する、全身全霊をこめた政治的回答が記入されているのである。
 それが「前区長の長女」。全人生をかけた答えが「前区長長女」だというのだ。
 いや、二世が悪いとかそういうレベルの話ではない。二世なら二世らしく、そのことはふまえたうえで、「党○○部長」と謙虚に書くのが世の中というものだ。しかし、英子は、臆面もなく「長女」と書いた。この人の全人生は、二世であること、「長女であること」の上に立脚していることを、自己暴露したのだ。

 香山リカが『ぷちナショナリズム症候群』のなかで、
「父親へのエディプス葛藤や母親も含めたエディプス三角が関与しないルートで、
 
『お父さんのこと大好きだし、せっかく名声や地盤があるのだから』
 という無邪気な理由でその跡を継ぐ。こういう屈託のない二世たちが、
 急激に増加している気がするのだ」
といっているが、その「屈託のなさ」の実例を見た思いだ。


 小倉基はもともと自民党の参院議員で、その後渋谷区長になったのだが、無謀な公共事業で世論の猛反発を買い、あげくに「長男の麻薬問題の責任をとる」といって3期目出馬をやめた男である。成人している以上、個人は個人だ。なんで長男の麻薬について、親のアンタが責任とるのか。しかも、今度は娘が「長女」という肩書きで立候補するという。およそ、流行の発信地「シブヤ」で起きている政治現象とは思えない前近代性である。
 しかし、小倉は区長をやめた後も、なにかと渋谷区政に顔を出し、未練たっぷり。こんどは、その長女が都議に出るというのである。身内の論理で辞めたのだから、身内の論理で出させてもらうぜ、という、いい度胸だ。蛮勇といってよい。なら麻薬麻薬とこちらもいわせてもらおう。
 小倉の応援演説を聞く機会があったが、「鬼ごっこの鬼をすすんで買って出るやさしい子で……」。って、オイ。

 関係ないが、思い出すのは埼玉・土屋前知事の娘、「桃子」状態である。桃子よ

 しかも、ポスターで村上英子のとなりに立っている女性は、自民党参院議員の小野清子。
 このおかたは、先頃、国家公安委員長(大臣)のくせに、右翼・暴力団にパーティー券購入やら献金やらをしてもらっていた人物であることが発覚あそばした、エラーいかたである。民主党が婦女暴行をおこしたということの逆キャンペーンで、女性候補、女性推薦、どピンクというポスターにしたのだろうが、完全に裏目に出た。しかも昨今流行りの「安全」「治安対策」(支援する会パンフより)が村上陣営のスローガンだから、二重に打撃となった。

 婦女暴行、世襲、麻薬、暴力団。
 渋谷ってどういうまちなんだ。
 北朝鮮にいかなくても、すごいものはここで見られる。





※このポスターは、タテマエとしては選挙事前運動のポスターではなく、「演説会の告知」のポスターとなっている(いわゆる「2連ポスター」)。したがって、ポスターに出てくる人は「弁士」というタテマエなのである。

2003.11.19記
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