「おはよう奥さん」誌と「はてなブックマーク」の間に



 依頼をうけて、学研の「おはよう奥さん」という雑誌にオススメ漫画の記事を書いた。それはいいのだが、ぼくはそのときはじめてこの種の主婦雑誌を読んだ。

 正直びっくりした。
 なにがって、この生活リアリズムに。もっといえば、お金をためるという執念に。

 「主婦雑誌なんてそんなもんだろ」というかもしれない。まあ、ぼくも見るまではそんなもんだろと思っていたのだが、実際に見てみるとすごいわけである。

おはよう奥さん 2007年 08月号 [雑誌]  たとえばいま手元にあるのは、原稿依頼をうけて事前に買ってきた「おはよう奥さん」07年8月号である。「地球と家計にやさしい公共料金が減る暮らしの知恵」という特集があるが、「煮物をするとき必ず落としぶたをする」という工夫によって「ガス代年2406円トク CO2スギの木3.5本分削減」と勘定が提示されるのだ。
 へえ、と思った。
 そんなら落としぶたをしようか、と。

 しかし、この特集はさらに細かい節約にまで話が及ぶのである。
 レトルト食品はお湯ではなくレンジで温めると「ガス代年442円トク CO2スギの木0.7本分削減」。1人分のコーヒーならレンジでお湯を沸かすと「ガス代年529円トク CO2スギの木0.8本分削減」。パソコン使用後は電源をすぐに切ると「ガス代年664円トク CO2スギの木0.8本分削減」……。
 もっとも「セコい」のは「鍋は平らで大きめのものを利用する」と、「ガス代年139円トク CO2スギの木0.2本分削減」。

 漫画を大量に買い漁っている身からすると、年間139円の節約に経済的にどれほどの意味があるのだろうか、と思ってしまうのだが、大事なことは具体的な額ではなく経済的・エネルギー的に小さい行動様式を無意識に実行できるようになることだろう。いわば考えなくても行動してしまえる節約体質をつくることなのだ。

おはよう奥さん 2007年 10月号 [雑誌]  ぼくの漫画評が掲載された10月号には「ラクうま100円献立」という付録もついていたし、前述の8月号には「読者300人の手間なし勝負おかず」という特集があり、たとえば「なすのペペロンチーノ」は4人分で材料費はたった24円である。そして、たしかにカンタンそうで安そうだったので、ぼくも「なすとシーフードミックスの焼き肉だれ炒め」は頻繁につくらせてもらっている(4人分で材料費75円…)。

 そこまで節約をしていったい何をしようというのか?

 同月号の特集にやはり「貯まる家計 貯まらない家計 ここが違う!」という特集があるのだが、そこでは3つの家族の例が紹介され、「年収300万円台で103万円貯めた!」という「山口さん」は「クルマ」「マイホーム」の夢を実現しようとしている。

 非正規雇用が激増するなか、こういう特集は食い入るように読んでしまう。

山口さんの1ヶ月の収支
収入 夫の収入
250,000
妻の収入・その他
80,000
収入合計
330,000
支出 家賃
20,000
水道・光熱費
10,000
通信費・新聞代
12,000
保育料
43,500
食費
24,000
ガソリン代・日用品など
12,000
夫こづかい
15,000
医療費
2,000
レジャー費
2,500
妻こづかい
15,000
奨学金返済
16,500
保険 生命保険など
34,500
貯蓄 年金用積立
31,000
貯蓄
86,000
支出・貯蓄・保険合計
324,000
夫25歳会社員、妻26歳パート、3歳、1歳。年収396万円、年間貯蓄103万円、2DK賃貸アパート。

 まず、この特集は300万円台、400万円台、500万円台でケース分けされていて、300万円台のところでは最初に6家族の家計簿があからさまに公開されている。年間貯蓄が12万円にしかならない家から140万円になる家まである。
 4人家族で300万円というのはキツかろうと思うのだが、それでも100万円ためるというのは一体。12万円しか年間貯金ができないNさんと103万円ためた山口さんを比較してみる。家族構成はほぼ同じ(夫婦+小さい子2人)。

 まず家賃が大きい。2万て。Nさんは5万円だ。
 2万円だが2DKである。
 山口さんは京都府、Nさんは山形県なので、住宅事情がそれほど大きくかわるとも思えないが。はじめ山口さんは公営住宅なのかと思ったが違う。民間賃貸である。

 もうひとつは、Nさんがクルマのローン返済に毎月3万2000円も出していることが苦しくしている。「その他の交際費」とか「消防代」(?)で2万円出て行くのもキツそうだ。


 この特集で年間140万円ためている家は市営住宅に入っている。

Nさんの1ヶ月の収支
収入 夫の収入
250,000
児童手当
15,000
収入合計
265,000
支出 家賃
50,000
食費・日用品・子ども費
45,000
水道代
4,500
電気代
3,200
ガス代
7,200
携帯電話
13,000
インターネット費
1,300
新聞代
3,000
ガソリン代・灯油代
25,000
その他の交際費など
10,000
消防代
10,000
夫こづかい
20,000
クルマローン
32,000
貯蓄
10,000
保険 生命保険
9,000
自動車保険
6,500
支出・貯蓄・保険合計
249,700
夫31歳、妻27歳、3歳、1歳。年収358万円(うちボーナス年40万円)。年間貯蓄12万円。賃貸住宅。

 ぼくなどはこういうものを読んでしまうと「やはり生活での節約は限界があって、公営住宅の建設促進と、クルマをもたない生活(と都市)の設計しかないのではないか」と感じてしまうのだ。
 公営住宅や家賃補助の形で支援ができれば、非正規雇用であっても暮らしていける。また、少なくとも地方都市では、クルマがなくても生活できるようにすればこうした苦労からは解放されるはずである。

 だが、生活の節約術を身につけることは、実額は大したことがなくても放蕩な行動様式を抑制する手がかりになる。自分でできる生活防衛策としてはやはり賢明かもしれない。山口さんの節約術をみると涙ぐましいが正しいものが多い。

「お菓子も子どもと作ればおうちレジャーに ふだんは水筒持参で子どもと公園へ これでレジャー費月2500円」「蛍光灯はいつも1灯だけ点灯に!」「夫こづかいはサイフに入れず袋で家に置いてムダ遣い防止」……。うーん、やっぱりスゲェ。



 こういう雑誌を読んでいると、世界は一体何によって組成されているのか、と思ってしまう。

 というのは、最近「はてな」の「注目エントリー」や「人気エントリー」を読んでいるとクラクラしてくるからだ。ニコニコ動画をめぐる話題が過剰で、しかも話題がさまざまに分岐してゆき追いかけるのでも大変だからである。いや、誰も追いかけろと頼んだわけではないが。

 もともとは漫棚通信ブログ版が、自身のエントリを唐沢俊一に盗用された問題について「とりあえず終了」宣言をしたために、それにまつわってぼくは一文を書こうと思っていたのだが、つい関連してニコニコ動画問題に深入りするうちにヘトヘトに疲れ果ててしまったのである。

 お前らの世界はニコニコ動画とウェブの技術の話しかないんですか。ブクマが100以上ついている記事はそんなんばっかりじゃねーの? 「おはよう奥さん」みたいな世界って、一体この「はてブ」のなかでどこにあるのか?

 だから、増田(はてな匿名ダイアリー)で「はてなブックマークがアレすぎませんか?気持ちはわかるけれども。いくらなんでも。」というエントリがあり、「今日の見ると本当にオタとコンピュータ好きな人とアレな人(モテない、鬱、やせたい、嫌韓、ロリ、後ろ向き全開等)のためのエントリーしかないなー。日常では一日何分も考えてないような事柄が、ここでは生活の全てのような勢いだ。みなさんは本当に一日中二コ動やアニメやプログラミングのことばかり考えてるのだろうか? 増田も含めて、なんか息苦しさを感じてしまう。得たいの知れないどんより感。もっとぶわーーって空飛びたいよおって感じというか、おれたちゃフリーダム!って感じがほしいんだ」という記事をみたとき、我が意を得たりと思ったね。正直。
http://anond.hatelabo.jp/20071027074318

 「ソーシャルブックマークの存在すら知らないような人達に情報収集力付けさせてブックマーク作らせたら、どんな話題をひっぱってくるだろう」ってホント思ったよ。

「あなたが25歳の若手社員に勝てない理由」(日経BP)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20071029/285680/

 この記事で「実際に1カ月ほど前に記者が会った、ある大手IT会社の40歳代の執行役員は、ニコニコ動画のことをまるで知らなかった」「ネットから登場した新しいものの代表が、ニコニコ動画である」と書いてあるのを見ると、サヨの会議で「これからはメールの時代ですよ!」とか「これからはブログの時代ですよ!」とか時代ごとに言ってきた人を思い出す。
 「確かにここ1、2年の間に入社してきた社員はITに関するスキルがそれ以前の世代に比べて圧倒的に高い」とか「デジタル・ネイティブ」とか新しい世代がニコ動やネットに慣れているのは当然の話で、たしかに将来はそういうビジネスモデルが主流になるのかもしれんのだけど、問題は将来じゃなくて今だ。

 佐々木俊尚『グーグル』には、そのへんの中小業者のおっちゃん・おばちゃんが「アドセンス」によって巨利を得る話が出てくるのだが、大事なことは「25歳の若手社員に勝てない」年配の「あなた」と、「デジタル・ネイティブ」だという「25歳の若手社員」の知恵を結合することなのだ。

 つまりすてきなおはよう奥さん」読者と「はてなブックマーク」を結合することなのである。年配の「あなた」は「すてきなおはよう奥さん」読者のようなリアル生活のことを微に入り細に入り知っているはずだ。そういうリアル生活には疎いがニコ動やはてブには強い「25歳の若手社員」が知恵を出し合えばいいだけの話である。「勝つ」とか「変化」とか、そんな話ではない。

※まちがえた。ライバル誌を書いてしまった(笑)。この二つ、間違えまい、と必死で注意してきたのに。(07.11.1午後2時訂正)


 領域が小さくても利益があがるビジネスの話ならまだありえる話かもしれない。しかし、とにかく過半数をとらないと話が始まらない「政治」の分野においては、ニコ動とかはてブとか言っている間に逆においてけぼりを食ってしまうのである。リアル生活では別のことが進行しているのだ。





2007.11.1記
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