平和とはなにか(1)





積極的平和論

 戦争のない状態を、ふつうは「平和」といいます。
岩波小辞典 現代の戦争 ただ、最近の学問研究のなかでは、たんに戦争のない状態だけでなくて、「たとえ戦争がなくても人間社会に存在する貧困・不正・差別・抑圧などの状態が存在する限り、それは“平和ならざる状態”(平和の喪失)と捉えるべきとする考え」(前田哲男編著『岩波小辞典 現代の戦争』)が有力です。
 これを「積極的平和論」といいます。
 インドのスガタ・ダスグプタはこのような状態の解消をとなえましたし、ノルウェーのヨハン・ガルトゥングは、貧困や差別や抑圧を「構造的暴力」とよび(戦争を「直接的暴力」とよんだ)、この直接的暴力と構造的暴力のない状態を「平和」というふうに定義しようと考えました。



「飢餓」という構造的暴力を考える

 たとえば、国連食糧農業機関(FAO)の1999年の統計によると、8億2800万人の人が「慢性的な栄養不良」とみられており、このうち「深刻な飢餓状態にある」とされた人々は世界で3000万人もいます。

 この人たちは、戦火によって餓えを強いられているという人たちもたくさんいますが、ほかの「構造的な原因」でこうした状態におかれている人たちもたくさんいます。
 まさに、このような状態こそ、ガルトゥングの指摘した「構造的暴力」にさらされている状態なのです。

 国連で飢餓問題にとりくんできたジャン・ジグレールは『世界の半分が飢えるのはなぜ?』(合同出版)という本のなかでこういっています。

世界の半分が飢えるのはなぜ?―ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実 「地球は世界人口がいまの二倍になっても、それを養う能力を持っていると推定されている。現在、世界の人口は六〇億人くらいだが、国連食糧農業機関(FAO)は、『農業がこのままの水準で発達していけば、地球は問題なく一二〇億人を養える』(一九八四年)と報告している」

 なのに、なぜ飢餓問題がおきるのでしょうか。
 原因はさまざまあるのですが、ジグレールは、次のようにのべています。

「こういう事実を知っているかい? 世界で生産されているトウモロコシなどの穀物の4分の1は、豊かな国の牛のエサになっているっていうことを。先進国では肉の食べ過ぎで生活習慣病になる人が増えつづける一方で、世界中の大勢の人たちが栄養不良のために飢えて死んでいるっていうことを」

「自由主義市場で売り買いされている農産品のほとんどが投機筋の動きに影響を受けていることを知っているかい? アメリカのシカゴにあるミシガン湖のほとりには、輸入業務用の貯蔵倉庫が立ち並んでいる。『シカゴ穀物取引所』と名づけられ、世界の主要農産物が売買されている。そこでは、ひとにぎりの金融資本家が農産物を買い占め、貯蔵倉庫にため込んでは市場価格を操作しているんだ。国際的な穀物の商取引は、すべて『穀物メジャー』といわれる商社、むかしでいえば穀物商人の手ににぎられている」

「穀物の収穫量は十分だ。しかし、その取引価格はシカゴの投機家の手によって人為的に操作され、国連や国連食糧計画(WFP)、さまざまな人道援助団体、あるいは慢性的な飢えに苦しむ国ぐには、穀物メジャーによって決められた価格で買わざるを得ないということが問題なのだ」

 こうした問題の解決こそ、「構造的暴力」の解消、つまり「積極的平和」にたどりつくものなのです。



あなたの買っているバナナは?

  また、別の例を一つあげましょう。
 あなたが買い、飲む「コーヒー」あるいは「バナナ」。これがどのような人たちによって、どれくらいの賃金で生産されているかご存じでしょうか。
地球が危ない!  たとえば、フィリピンのバナナ農園で働く労働者の賃金は、日本の賃金とくらべると本当にタダみたいなものです。コーヒー生産も、そういうものすごい安い労働や、ひどいときは「子どもの労働」によって成り立っている場合があります。(参考:地球危機管理委員会編『地球が危ない!』)

 そのような安い発展途上国の労働を前提にして先進国に、「エスニック」な食べ物や服、飾り、ときにはサッカーボールや靴までもがあなたの手元にとどいている可能性があるのです。



フリーターと「平和」

 いや、「貧困・抑圧」はべつに、よその国、アフリカやアジアの国々のことを考えるだけなく、もっと身近な問題で考えることができます。

 さいきんNHKスペシャルで「フリーター漂流」という番組が放映されました。
 法律違反、というほどではないけど、ものすごく安い賃金で、まるで使い捨てのように若い人たちが働かされ、携帯電話の組み立てをやらされている、という話です。

 日本の大企業はずっと正社員をリストラし、社員を新たに雇うことを控えてきました。かわりに、安い賃金で働かせる「請負」「派遣」「アルバイト」「パート」という「不安定」な雇用の人たちを働かせてきたのです。これはたんなる経済現象ではなく、大企業や財界が意識的にとってきた戦略的方針でした。
フリーター亡国論  34才までの年収で見ると、正社員は300万円台ですが、こうした非正社員(フリーター)の場合は150万円前後になっています。つまり安い賃金で働かされ、都合が悪くなると雇われなくなる、という状態におかれているのがその人たちなのです。
 ここでも「貧困」「差別」「抑圧」などの形に人々がおかれています。いま賃労働をしている若者の2人に1人がこうした不安定雇用(非正規雇用)、すなわち「フリーター」だといえます(内閣府の定義、総務省の統計より)。
 こういう状態を解消すること自体も、「積極的平和」をつくっていくことだといえます。


 しかし、日本においては、こうした「構造的暴力」の問題にとどまらず、もっと直接的な「戦争の危険」というものがせまっています。
 そのことをさらにみていきましょう(つづく)。


参考文献:
●地球危機管理委員会編『地球が危ない!』(幻冬舎)
●ジャン・ジグレール『世界の半分が飢えるのはなぜ?』(合同出版)
●丸山俊『フリーター亡国論』(ダイヤモンド社)
●「フリーター漂流
●前田哲男編集『岩波小辞典 現代の戦争』(岩波書店)