『理論劇画 マルクス資本論』を出します




 以前紹介したことのある門井文雄氏が漫画を手がけた『劇画カルチュア 資本論』が「復刊」します(後述しますが、厳密にいいますと「復刊」ではありません)。今度はかもがわ出版からです。
http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/gekiga-shihonron.html

 4月中旬に刊行の予定です。

理論劇画 マルクス資本論  掲題のように書くとぼくが「著者」のように見えますが、著者は門井さんです。
 ただ、この本を出すにあたって、僭越にも「構成・解説」をつとめさせていただき、まさに「本を出す側」にいたので自分の著書が出るような感慨があります。

 エコノミストの森永卓郎さんが本書の「推薦文」を書いてくれました。

 すでにこの「復刊」については同出版社の松竹伸幸さんがブログで書いていますので、そのエントリーを紹介しておきます。漫画や紹介チラシも読むことができます。

http://matutake-n.blogspot.com/2009/01/blog-post_22.html
http://matutake-n.blogspot.com/2009/01/2_31.html
http://matutake-n.blogspot.com/2009/02/3.html
http://matutake-n.blogspot.com/2009/02/4.html

 厳密にいうと「復刊」ではない、と言いましたが、それはなぜかと言いますと、復刊にあたって、セリフ、ネーム(コマの構成)、ページ構成などをかなりいじったからです。その大役をおおせつかったのです。
 また、石川康宏・神戸女学院大学教授にもご協力をお願いいたしました。

 旧版が絶版になってしまった最大の弱点というのは(まあ出版社がなくなったこともあるのでしょうが)、旧版をお読みになったことがある人はわかると思いますが、一言で言って「『資本論』解説部分が非常に難しい」ということにつきます。

 『資本論』の言葉やロジックをそのまま用いているところや、その中からそれほど重要でないところが過度に強調されていたりして、『資本論』を学んだことのある人にはその意味がわかるのですが、初学者にはチンプンカンプンである部分がありました。
 もちろんそれだけだと「とんでもない悪書」になってしまいますが、すでに述べた通り、当時の資本主義の実態を生々しく描いた部分は白眉ですし(今回もこの部分はほとんどそのまま生かしました)、何より小牧治『マルクス』(清水書院)を下敷きにした伝記部分は非常にわかりやすいものでした。また、前も述べた通り、ともかく『資本論』を門井さん自身が読み込んだときの格闘や感動がそのまま伝わってくるような、濃厚な『資本論』の空気があることが類書にない特長です。

 そこで、ぼくの役割というのは、セリフや構成を現代の入門者にとってわかりやすく直すということになりました。
 そのために、伝記部分はともかく、『資本論』本体を漫画化した部分はほぼ全面リニューアルとなったのです。

 その場合、門井さんに描き直してもらうことも考えたのですが、体調などの理由でそれがかないませんでした。門井さんの承諾を得たうえで別の漫画家さんにお願いするという道もありましたが、門井さんの旧版の雰囲気が残るのか疑問でしたが、何より時間がありませんでした。

 そこで、コマやページをいじったり、セリフを直すという方式になったわけです。絵は描き足せませんから、余分になったページから使うなどしてしのぎました。
 少年時代に、「週刊少年ジャンプ」を切り貼りしてセリフをなおし、自分独自の漫画をつくったことがありますが、あの興奮にも似てなかなか楽しい作業でした。

 この作業が果たして、マルクスのメモをうまくまとめたエンゲルスの「名編集」のようになったのか、あるいは、マルクスとエンゲルスのメモを超恣意的に改竄して並べ直してしまったアドラツキーやカウツキーのような「迷編集」といわれるのか、そこは読者の判断におまかせしたいと思います。
 ただ、ぼくとしては、この直しによって、全体のロジックがとおり、かなりわかりすくなったうえに、『資本論』の空気を残したものになったと自負しています。

 「『資本論』の空気を残したもの」というのは、くり返しますが門井旧版の非常に大事な特長です。
 マルクス経済学はかなり体系化がすすんでいるので、マルクス経済学の基礎をわかりやすく書いた本はいろいろあります。しかし、『資本論』の文体や空気を伝えながら、入門書になっている本というのはほとんどありません。それが本書の「歴史的意義」です(言い過ぎ)。

 くわえて、「解説」では、現代の日本にとのかかわりも書きました。現時点(3月6日時点)で書いてあるものを書き出してみます。

解説1:金融危機で一挙に二〇〇兆円もの損失が生まれた理由
解説2:資本の目的はもうけにある。人びとのためではない
解説3:資本家にもいい人がいるという議論があるけれど……
解説4:日本の最低賃金を『資本論』で検証すると?
解説5:マルクスの時代にも派遣業者はいたのか?
解説6:日本の労働時間は『資本論」の世界そのままだ!
解説7:“大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!”
解説8:時代を超えてよみがえった資本の悪知恵=派遣法
解説9:マルクスが予見していた正社員と派遣の分断策
解説10:豊かさの一方の貧困 生産力を社会のために使えば解決


 この作成秘話についてはまたいずれ書きます。興味があるかどうか知りませんが。

 「派遣切り」「格差と貧困」が話題になるなかで、小林多喜二の『蟹工船』がブームになりました。
 同時にマルクスへの注目が集まっています。格差や貧困、派遣切りの「原因」について書いた本や評論家の解説は山ほどありますが、こうした問題の根源を、大きな思想家の言葉によって確かめたいという思いが強いのでしょうか、マルクスへと遡る流れがあるのです。「ドイツでは、9週連続で、『資本論』がベストセラーだそうです。それは、資本主義を打倒しようとかいうものでなく、経営者、資本家の目から見ても、マルクスに頼らなければという気持ちが生まれているからなのですね」(松竹さんのブログ)。

 しかし、マルクス本体を読んだことのある人は、大変少なく、『共産党宣言』くらいまでは手を出せても、『資本論』に挑める人は非常に少なかったのが現実です。
 識者の中でさえ、マルクスについて語っている人がいますが、ぼくからみて「あ、この人はマルクスを読んだことがないな」と思うような人はけっこういます。そういう識者のみなさんも、ぜひこのアンチョコをお使いください(笑)。

※日刊スポーツの早野透のコラムでとりあげられました。
※2009年4月、発売とほぼ同時に重版が決定しました。
※三省堂神保町本店の人文書の売上第1位になりました。





2009.3.6感想記(その後いくつか追加)
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