暴力についてのセビリア声明/88点


 「戦争は人間の本能か」――この問いに正面から答えたのが、本声明である。

 世界中から、人類学者、動物行動学者、生理学者、政治学者、精神医学者、心理学者、社会学者たちが集まり、この問題について研究して出した声明で、1989年、ユネスコの国際会議で起草された。

 アフガンへの攻撃といい、イラクへの戦争計画といい、はたまた北朝鮮の核開発への突入といい、「まったく人間っていうのは、戦争をやめない生物なんだよ」という訳知り顔のつぶやきが、妙な説得力をもってくる。

 この声明は、つぎの5つのテーマをとりあげて、批判している。
(1)動物は戦争をするし、人間も同じ動物だから、戦争を終わらせることはできない。
(2)戦争は人間性の一部だから、終わらせることができない。
(3)人間も動物も暴力的なものがよりよく生きることができ、子どもを他のものよりも多くものをもつことができるのだから、暴力は終わらせることができない。
(4)われわれの脳のために、われわれは暴力的でなければならない。
(5)戦争は「本能」によって引き起こされる。

 だれでもが一度はもつような疑問だろう。
 そして、少し生物学の味つけでもされれば、もうイチコロだ。

 本声明は、その知見にくわしく立ち入っているわけではない。その結論部分だけをかんたんにのせて、ざっくりと批判してあるだけである。もちろん、普及用につくられたパンフレットには、やさしい解説もついているが、あくまで概略にすぎない。そういう具体的な内容を知りたい人には、少し物足りない文献かもしれない。

 しかし、ぼくが、この声明を高く評価したいのは、戦争を克服しうる歴史的なものとしてとらえる手がかりをこの声明があたえてくれたという点である。
 つい、われわれは、われわれをとりまく圧倒的な社会現象を、所与のものとして受け止め、どうしようもない無力感におそわれ、ほとんど自然現象と同じようにそれを受け入れてしまいがちだ。それを「歴史性」のうちにとらえること――いつのころから生成し、発展し、現在の姿を示しているものは、永遠不変ではなく、やはりその必然性を失うとなかで現実性を失うというふうに、考えることは、とても難しい。

 とくに、「戦争」はそうだ。

 だが、本声明を読めば、少なくともその石頭の思考の一角はくずせる。

 本文は解説をふくめてわずか33ページの薄いパンフレットなので、ぜひ一読されることをおすすめする。
 インターネットでも読むことができる。


(デービッド・アダムズ編集/解説 中川作一訳 杉田明宏・伊藤武彦編集 平和文化)

採点88点/100

2003年 1月 13日 (月)

メニューへ