小原愼司『菫画報』/80点



菫画報 1 (1)

 佐倉高校の新聞部の星之スミレを主人公とし、その友人琴子、後輩の上小路、先輩の「部長」などとの日常(非日常)を描く。1話完結形式。

 作者は黒田硫黄の友人だときくけど、黒田硫黄が大学の寮的空気を濃厚にまとわせて登場してきたのにたいして、小原愼司は「高校文化部」の体液を満腔から滴らせている。あ、いや、『菫画報』そのものが高校新聞部の話やんけ、というツッコミはあるでしょうけど。だいたいそれ以外の作品は1、2本しか読んだことないのにね。



小原愼司『菫画報』1巻(講談社)より

 登場人物はいわゆる狭い意味での「リアリティ」を感じさせない、破天荒で極端な人物ばかりだが、まぎれもなく、80年代から90年代初頭にかけての進学校の文化系クラブの雰囲気。画風からしてそうである(上図参照)。だから、実はもっともリアリティをそなえているキャラたちばかりなのだ。
 80年代の高校文化部というのは、学園紛争のような政治からは遠ざかっているくせに、たえず血わき肉おどる“サブカル”的な欲望をもとめてヌルい日常を送っている。それは学校新聞のネタさがしのように日常の作業のなかであらわれるときもあるし、図書館の「図書」への耽溺によって空想や妄想として飛翔するときもある。下らないネタを学校新聞に掲載して教師に叱られたり、探偵小説の世界に何日もハマりこんでいるときもあるのだ。

 星之スミレのはじけ具合は、それをもっともよく体現している。

 だから、スミレをみると、なつかしい。涙が出てくるほどだ。

 一番好きな話は第1巻の「第三報 あたし紙芝居見た事ないわ」。
 スミレが小さいころよく見ていた自転車紙芝居のじいさんに出会う。そのスタイルはスミレの時代とまったく変わっていないが、いまはもう子どもたちはふりむきもしない。このじいさんが新しいものに挑戦しようとつくった新作の話がギャグ的には非常にバカバカしくて笑える。けっきょく文化系の各クラブと共同して新しい台本をつくり、深夜、非合法に酒を売りながら、あやしげな雰囲気のなか、ガードの下で新作の紙芝居を演じる。客層がまったくかわったが大好評を得るのである。
 ここには、小原一流のギャグもあれば、高校文化部らしいアングラな臭いもある。そして何よりさり気なく人間の共同によって新しい「文化」をつくってしまう話にしあげているところに、この作者の良質な一面を見る。

 スミレの造形をはじめ、作者の「性的なまなざし」を十分にこめているが、それは幾重にも梱包されて、1グラムたりとも漏れてこない。そういう作風自体もまた高校生っぽいはにかみ方だと思う。
 


講談社アフタヌーンKC(全4巻)
※画像は引用の原則をふまえているつもりでいます
80点/100 年配者が読んでも楽しめる度★★☆☆☆
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