山根隆志・石川巌『イラク戦争の出撃拠点』


 そういえば、いま有事法制の7法案が新たに審議にかかっているために、またぞろぼくの漫画にたいする検索がはげしくなっている。
 2chでも久々にとりあげられ、「おめでたいやつだ」などと罵られた。

 よほどぼくの漫画、カンにさわるんですかねえ。ごめんねぇ、そんなのつくちゃって。

 ただ、「北朝鮮や中国が攻めてくるから有事法制を」式の議論がどれほど「能天気」なものかは、たとえば、この本(『イラク戦争の出撃拠点』)を読んでみて少しは認識してほしいものだと思ったのだが(まあ、それ以前に法案を一度くらいは読んでほしい)。

 この国がいかに他国を「攻める」という拠点になり、有事法制とはそのための法整備なのだ、というリアルな認識を。(くわしくはこちら



「沖縄の海兵隊は、日本防衛に当てられておらず、第7艦隊の即戦海兵隊として、第7艦隊の通常作戦区域である西太平洋、インド洋のいかなる場所にも配備される」

 このワインバーガー国防長官(1982年当時)の米上院歳出委員会での証言が、ある意味で、この本のアルファでありオメガである。

 在日米軍全体が日本の防衛のためではなく、アメリカの世界覇権のための道具でしかない。そのことを、湾岸戦争以来の在日米軍の動きを見ながら検証していく。2003年のイラク戦争、1990年の湾岸戦争、1996年の「砂漠の攻撃作戦」、1998年の「砂漠の狐作戦」、そして2001年のアフガン爆撃、である。

「在日米海軍司令部の報道官は3月24日、横須賀基地(神奈川県)を母港とする空母キティホーク、ミサイル巡洋艦カウペンス、ミサイル駆逐艦JSマケイン、厚木基地の第5空母航空団など、在日米軍の将兵8500人がイラク攻撃に参加していることを明らかにした。空母キティホーク戦闘群とは別に、横須賀のフリゲート艦バンデグリフトと同ギャリーは中東部隊として展開した。/米軍の準機関紙『星条旗』3月27日付によれば、空軍は、三沢基地(青森県)の第35戦闘航空団からF-16戦闘機と米兵500〜600人、嘉手納基地(沖縄県)の第18航空団の戦闘機F-15と米兵500人が中東地域に派遣された。沖縄の海兵隊の一部も派遣され、在日米軍の派遣総数は約1万人に及んだ」。


 イラク戦争の先制攻撃の第一撃は横須賀配備の巡洋艦カウペンスからのトマホークである。
 バグダッド市民を「誤爆」し殺害したミサイルは横須賀配備の空母キティホーク艦載機から発射された。
 キティホークから出撃した戦闘機は、クラスター爆弾による攻撃をくり返した。
 「5月6日、横須賀に帰港したキティホークのパーカー艦長は、出撃回数は5375回におよび、86万4000ポンド(約390トン)以上の爆弾を落としたと自慢した」。


 ぼくたちの国の政府は、イラク戦争を「支持」したわけだけど、それは単に政治的な支持をあたえたというのにとどまらない。
 すでに自衛隊を派遣する以前に、ぼくらの国は、あの侵略戦争の重要な出撃拠点を提供してしまっているのだ。

 ほかのところでも書いたことだけど、ぼくらの国の近代史をみれば、「戦争」は、「攻められた」歴史ではなく、圧倒的多くは自分たちが「攻めにいった」歴史である(沖縄戦ですら、それは侵略戦争の結末である)。
 「日本を守ってくれるために在日米軍がいる」などという能天気な話は、この本を読むだけでも瞬時に崩壊してしまうだろう。

「われわれは、自らの利益のためにそこに駐留しているのである。慈善ではない」(1991年下院予算委員会でのチェイニー国防長官(現副大統領)の発言)



 この本でとりわけ重要なのは、朝鮮半島情勢のために在日米軍基地がどのように機能しているか、という解説のくだりである。
 イラクでもかなり野蛮な仕事を在日米軍はおこなってきたわけだが、これですら本格任務ではない。

「在沖海兵隊の最大の焦点は、現在、北朝鮮情勢であって、イラク戦へ少数を出しはしたが、まとまった派遣はしていない」(在沖米海兵隊司令官グレグソン中将 03年2月23日付「星条旗」)

 有名な米軍の「作戦計画5027」(OP5027)も、概要ではあるが、ここに掲載されている。「この戦争プランの最大の特徴は、公然と述べてはいないようだが、リーク報道から読みとれるのは、“先制攻撃”である」。
 そして、「この戦略は在日米軍と、日本の国を挙げての協力なしに実施できない仕組みになっているからだ。……94年の第1回朝鮮半島危機にあたって、同年四月、在韓米軍が防衛庁に、同庁の表現によると『K半島の情勢緊迫によるNK事態がらみの支援』として1059項目に上る支援要請リストを送付してきたことは記憶に新しい。……輸送、施設、整備、衛生、宿泊、給食などの協力と提供、基地や港湾の警備、通信支援、機雷掃海、捜索・救難業務、船舶曳航、情報提供の多岐にわたった。民間の空港、港湾それぞれ11カ所の使用許諾も含まれていた」

 有事法制そのものである。
 有事法制が「攻めてきたときの備え」などではなく、「攻めるときの備え」であることは、こんな簡単な一事をもってしても明瞭である。

 本書は、第三部で思いやり予算の検証をおこなう。
 日米地位協定の条文を素直に読めば、在日米軍の駐留経費負担は日本側はできないはずである。それがどのような論理によってなしくずしにされていくかが克明にわかる。現在、中小企業のための国家予算の1.3倍の額にふくれあがっている。以下は思いやり予算、つまりに日本の税金でまかなわれているものだ。

寝室4つ、浴室3つ、234平米の超豪華住宅(政府の4人家族の最低住居水準としているのは50平米)
●18〜25人学級の豪華学校(日本の学級編成は40人)
タキシード、蝶ネクタイ、ゴルフ場マネージャー、マニキュアリスト、教会、アイスクリームメーカーまで支出

 「アイスクリームメーカー」が極東の安全のために必要なわけだ。
 きっと、「こわい北朝鮮の特殊部隊」がきたら、「タキシード」を着て「蝶ネクタイ」をしめた「マニキュアリスト」が、「アイスクリームメーカー」を片手にやっつけてくれるのだろう。


 「思いやり予算」の命名者である金丸信は言った。

「思いやりですよ。思いやり。日本の安全を守ってくれる在日米軍に、思いやりの気持ちを持とうじゃないですか」※

 在日米軍が日本の安全を守ってくれていると信じている2ちゃんねらーは、この疑獄政治家の言い分にすっかりだまされた野党政治家と、えらぶところはない。



※金丸『わが体験的防衛論 思いやりの日米安保新時代』

山根隆志・石川巌
『イラク戦争の出撃拠点 在日米軍と「思いやり予算」の検証』
新日本出版社
2004.5.16記
メニューへ