有事法制賛成派のPさんと反対派のわたしとの対話

Pさんは、わたしの参加しているメーリングリスト(ML)で、
ほかの参加者に案内されて「議論」をしにこられたかたです。
このサイトで紹介しているQさんもVさんも良心的なかたでしたが、
Pさんは格別に誠実でていねいなかたでした。
しかも、このMLでは、一人で「有事法制賛成派」の役を買って出て、
わたしとの議論だけでなく、ほかのML参加者(ほとんど反対派)からの意見を独りで
ていねいな語調で反論しつづけた、希有なかたです。
ちょうど囲碁の「5面打ち」みたいな、一人で何人もと同時対局するようなかんじでした。


わたしがもし「賛成派」の多いMLでやってみろといわれたら、
とうていできるものではないとおもい、その熱意・誠実さに頭が下がるおもいでした。

以下はMLの投稿を、Pさんの了解をえて編集したものです。
ほかのかたの名前やほかのかたへの返信がまざっている部分は削除しました。
ご了解ください。

(この対話は2002年8月ごろにML上でおこなわれたものです)

 X県在住の23歳の男、Pと申します。

 政治活動等に関わった経験もなく、未熟な点
や失敗など多くしてしまうと思いますが、悪意等
はまったくありませんのでどうかよろしくお願い
いたします。

 それではまず、以前紙屋様がQ様と有事
法制に関するメールのやりとりを紹介していた
のがとても印象に残っています。もしもよろしけれ
ば、今一度わたしと有事法制についての話し合い
をしてはいただけないでしょうか。

 わたしは有事法制賛成派です。

 しかし自分の意見に未だ自信というか、正しい
という確信を持てていません。ですから紙屋様と
話をして行きながら、自分の考えをもっと明確に
していきたいと思うのです。

 話し合いに入る前に、まず前提としてですが、

 「有事法制反対派の方々も、有事法制賛成派
(もしくはPだけかもしれませんが)原則として
日本が戦争に参加することを望んでおらず、
平和を望んでいる」

 ということでいかがでしょうか。

 それでは今回はこれにて失礼いたします。

 紙屋様に限らず、応えていただける方がおられ
ましたら自分がなぜ賛成するのかという理由等を
述べたいと思います。(確信が持てないのはどう
見ても憲法違反なことなのですが・・・しかし私は
第九条は維持するべきだと思っているのでいき
なり自己矛盾に悩んでいます。答えが見つかる
といのですが・・・/苦笑)
 
                     P

 紙屋です。

 Pさん、はじめまして。
 こういうお話をもちかけていただいたことを感謝いたします。大いに歓迎します。

 国会で有事法案がいったんストップになったいまこそ、よくよく議論すべきときだ
とおもっています。


 「共通の議論の土台をつくる」ということがねらいでQさんとのやりとりもはじま
りました。
  Pさんとのあいだでも、言い合いやツッコミ合戦にならずに、おたがいに問題を
考えあっていくというスタンスでやりとりができるとうれしいですね。

 自由な議論ですから、わたしもPさんのお話をきいて、考えを変えるべきだとお
もえば、こだわらずにできるだけ変えてみようとおもいます。



 Pさんが「前提」だとおっしゃった

>有事法制反対派の方々も、有事法制賛成派も
>(もしくは Pだけかもしれませんが)原則として
>日本が戦争に参加することを望んでおらず、
>平和を望んでいる

という点ですが、すくなくともわたしはある種の反対派であり、この前提はそのとお
りだとおもいます。もちろん、ほかの方々の気持ちまで代弁はできませんが。

 わたしもあまり専門的なことはわからないので、おたがい手探りではじめましょう
か。それから、必要以上にながく議論することはないとおもいますので、あるていど
メドがついたら、いさぎよく議論はしあげたいですね。

 ではよろしくおねがいします。わたしのほうからなにか発言したほうがよければ、
そのようにいたします。

 こんばんは、Pです。

 紙屋様、応えていただき
本当にありがとうございます。それでは有事法制
に賛成する理由を述べていきたいと思います。

 端的にまとめて一番の理由を述べてしまいます
と、「戦争はどちらか片方の国・勢力がどれほど
避けたいと思っていても、もう一方の勢力がどうし
ても戦争をしたいと思っている限り避けられない」
のではないかと思うのです。第三次ポエニ戦争の
カルタゴ、淀君の大坂城豊臣西軍、ネヴィル・チェン
バレンの英国等が歴史の例にあると思います。
そもそも非常に理不尽なものが戦争だと思うの
です。

 こちら(日本)から戦争をしかけないために、
私は憲法第九条はあのままの形で必要だと思っ
ています。また九条を改正すれば、さらなる拡大解
釈等が起きてしまい歯止めが利かなくなるのでは
ないかと思います。

 対して、相手側から戦争をしかけられた場合の
ために、有事法制という準備はしておくべきだと
思うのです。臨時的に中央集権の体制を作り、
一刻も早い戦争の終結を目指すべきだと思うの
です。地方分権体制の方が民主的だと思います
が、軍事的には中央集権体制の方が強力である
ように思います。パレスティナの悲劇を読んで
「かわいそう」と思う一方で、その前に「日本が
こうならないように」対策を打っておくべきなの
ではないかと思うのです。

 この場合、争点は「日本が武力攻撃を受ける
場合など本当にあり得るのか」かと思います。

 私は「あり得る」という考えです。
 理由は「国防のため」です。人間も国家も武装
するのは恐怖のためであり、財産や自由を守り
たいためだと思います。自衛隊、あるいは日本に
駐留している米軍が、北朝鮮あるいは中国に
とって脅威である以上、われわれ同様それの
脅威を取り除きたいと思うのが人間なのではない
でしょうか。(実際には現在の中国がそのような
理由で日本を直接攻撃することはほとんどあり
得ないと思いますが、半島で南北が休戦を止め
た時、米軍の不沈空母と化した日本が北朝鮮
軍によってその拠点を叩こうとすることは考えら
れると思うのです)

 明治の日本は、朝鮮王朝そのものにに攻めな
ければいけない理由はなかったのですが、南下
してくるロシアにそなえるため(つまり国防のため)
半島を鎖国のままにはおいておけないと考えて
いたように思います。

 そして他に「周辺」有事というものがあります。
 これについての考えを述べます。

 法律に明確に規定することは、相手側に対し
て抜け穴・狙い目を提供することになるからだと
思いますが、実際に周辺の有事とは朝鮮半島
と台湾(台湾海峡)のことを指していると思います。

 この二地域で武力が使用される事態が絶対に
あり得ない、とは思えません。どちらが挑発した
とか、どちらが先に仕掛けたとかは関係なく、この
二地域のどちらかで武力行使の事態が起きて
しまえば、米軍はそれぞれとの同盟関係から参加
することになると思います。
 
 この場合の争点は「日本が米軍に追随する形
で戦争に参加するか」だと思います。私は憲法
九条がある限りは日本が自主的に隣国の戦争
に参加することはあり得ない、という立場をとり
ます。とはいえ逆に、隣国で戦争が起きている
状態でこれを傍観するのは国際信義上でも「
唇亡ぶれば歯寒し」という考えからしても得策
ではないと思いますので、非軍事的な衣料品・
医療品・食料品等・資金の支援、難民の受け入
れなどは行なうべきだと思うのです。

 「戦争にならないような外交を尽くすべきだ」

 という意見を聞きます。隣国の友好国が存亡の
危機にある時に「我関せず」という態度では世界
の諸国から信頼を失うのではないでしょうか。
 「私達の危機の時に日本はなにもしてくれなか
った」では日本の危機の時に見捨てられてしまう
ように思います。そのための周辺有事法制だと
私は思うのです。

 最後になりましたが、私は一概に北朝鮮及び中国
を敵視する者ではありません。この両国とも可能な
限り友好関係を結ぶ(もちろん言うべきことは言うの
ですが)べきだと考えています。特に北朝鮮への食
料支援は行なうべきだと思っています。「自国民を
食べさせることができないから」というのも戦争開始
の理由になると思うのです。拉致問題については、
一刻も早い南北の平和的統一によってのみなし
とげられると考え、その実現に日本は力を尽くす
べきだと思っています。

 以上いかがでしょうか。失礼いたします。

                      P

 追伸−最終的には、世界の全ての国と人々が
核兵器を含むすべての武器・兵器を捨て完全
非武装を成し遂げなければならないと思っていま
すが、まだまだ実現には何百年もかかってしまう
だろうと私は思っています。しかし、それを目指す
ことは必要であるとも思っています。


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