読んだ本と見た広告の短評

できたら、もちっと長めに書きたいものもあるんですが。

●=マンガ、○=マンガ以外の本、▲=広告、△=その他

【げんしけん 3巻】●

 『げんしけん』1〜2巻の感想はこちら
 ヲタサークル「現代視覚文化研究会」につどうヲタと、ヲタ初心者笹原のヲタ化、非(反)ヲタの春日部(女)の格闘ぶりを描く。今回は、エロゲー話が中心をしめる。

 エロゲーを擁護する斑目。「言っとくけど『現実では不可能な事ができる』とかそんなレベルじゃねーぞ!! そもそも記号の集合体にすぎないゲーム世界を脳内補完により肉欲の対象にするのはただの性欲よりはるかに高度な精神活動なんだよ!!」
 思い出すのはフロイトの悪名高き暴論、「コイトス(セックス)はオナニーの貧弱なものにすぎない」。なら、あれですか、二等辺三角形とか楕円とか、幾何学的図形を妄想してするオナニーが最高精神レベルのオナニーですか。

(木尾士目/講談社アフタヌーンコミックス/以後続刊)
2003.12.30改稿 ★★★☆☆


【ぼくは、おんなのこ】●

 標題作は、ある日世界の男と女が入れ替わってしまうという話。
 これを読むと、何だな、評論家の「砂」が言っていたとおり、志村という漫画家は、ずっと女性性にこだわりつづけ、それ精査してつぶさに批判しようとしていたことがよくわかりますね。
 最終話「sweet16」で、家庭教師先の女子高生の膝にくずおれる女子大生が顔をふせながら「女の子やわらけー」というシーンには、志村の絶妙なセリフのセンスを感じます。

(志村貴子/エンターブレイン/ビームコミックス)
2003.12.30記 ★★★☆☆


【生きるススメ】●

 ネット上で発表していた漫画が出版社から声をかけられて出版。どんな感じの漫画かみたい人はこちらをどうぞ。
 商業的な漫画が追放していたようなものが生き残っている短編漫画の数々。商業誌からはたぶん「青臭い」「よくあるアイデア」「ひねりがない」みたいな理由でこうした作品と思想は排除されてきたんじゃないかなあ。それだけに、これほど素朴な話が読んだ人に新鮮な感動を与える。
 自分の漫画の出来に悩みながら、漫画家のアシスタントをつとめる、という短編「花」では、漫画家が死にのぞんだ闘病のなかでひたすら描きつづけるという描写が出てくる。ふっと、そんなことにひきずられて読んでしまう。「自分は死を定められた病気に直面した時、これほど思い定まった行動ができるだろうか」みたいなことを。
 そんな問いさえ忘れていた、という、商業漫画の海で溺れかけている諸子にこそ読まれるべき漫画だ。

(戸田誠二/宙(おおぞら)出版)2003.12.25記 ★★★☆☆


【G戦場ヘヴンズドア 1・2巻】●

 たいへん不愉快な漫画である。
 島本和彦『吼えろペン』のような自嘲がなく、周囲の大家や編集者たちの悟り切ったような態度が、どれも癇にさわる。とりわけ阿久田鉄人。主人公2人の、苦悩する割には超絶した才能も共感できない。
 が、勢いがある。絵も人をそらさない。「聞け! オレの言うことを」をてなかんじ。そういう勢いに呑まれてみてもいいかもしんない、と思わしめる。

(日本橋ヨヲコ/小学館IKKIコミックス)
2003.12.20記 ★★★☆☆


【宇宙のステルヴィア 1巻】●

 すいません、表紙に萌えて買ったために失敗した典型でした。
 最近そういうのが流行っているのかどうか、あるいは、昔からよくある設定なのかどうか知らんけど、「宇宙への憧れ」、「宇宙飛行学校での学園生活」「友情」って、これじゃあまるで『ふたつのスピカ』みたいですね。
 ボケやツッコミが「お子ちゃま」なのが、もうだめぽ。きわめて余計です。現実にこういうテンポでボケとツッコミやる人がいたら、友だちになりたくないです。ええ。
 ただ、「ある片面的に発達した才能が開花を待っている」という設定は、わずかに期待がもてます。だから★は2つ。よけいなギャグなどかまさずに、正面から正直にやってみると意外とイイかもよ。

(原作:XEBEC 作画:秋月亮/メディアワークス 電撃コミックス)
2003.12.15記 ★★☆☆☆


【さくらん】●

 「調子でてねえな」なんていって、すまん。安野モヨコ。
 こりゃあすごい漫画だ。吉原の花魁の話。
 こういう女が描きたい! っていうのがホントよく伝わってくる。『花とみつばち』って途中でそういうものがわからなくなったってことかいなあ。インタビューでは『花とみつばち』のほうは、「ハー苦しいなあ。こんなに苦しんで描くマンガはないなあ」「サクラ(登場人物)描くのは楽しかったときもあったけど、後半はそれも苦しくなってきて、何もかも苦しかったですね」といってるし。(河出書房新社『文藝別冊 総特集 安野モヨコ』)
 廓というゆがんだ人間支配の枠組みのなかでは、教養と愛情が奇妙な形で最高度の発達をとげる。「女になるにのにまずヘタイラ(高級売春婦)にならなければならなかった」(エンゲルス)というように、その裾野に広がる悲惨や土台となる支配を捨象しさえすれば、売春窟こそ、愛情や生き方が、すなわちセクシュアリティそのものが、独特の先鋭化された形をとるのだ。
 ところで、吉原についてはこのサイトが手早く、かつ面白くわかる。


(安野モヨコ/講談社イブニングKCDX)2003.11.28記★★★★★


【エマ 3巻】●

 うーん、最初はたんなるメイド萌え+メガネっ娘萌え、かとおもっていたが、かなり昇華された作品としてその風貌を整えつつある。
 「階級の違いをこえて愛しあうふたり」という近代の課題をそのまま再現させている――逆に言うと現代日本では意味のないテーマをとりあげているのは、この本がまさに産業革命終焉期のイギリスの雰囲気を楽しむため「だけ」につくられているからだろう。
 エマといいシャーリーといい、森は、キャラに「知性」をかぶせようとする。昨日の鶴田とは別の意味で、これもまた自画像の屈折した反映なのかしら。
 ところで、「あとがき」によれば、森は「女」だそうであるが、またしてもぼくの予想ははずれた。ホントに女なのか!? この萌えっぷり、にわかに信じられん。演技じゃないんですか。


(森薫/エンターブレイン ビームコミックス)2003.11.27記★★★☆☆


【Forget-me-not】●

 (いわゆる)女性的美徴である長い髪、強い光を放つ印象的な眼、意志的な(?)大きい鼻、そして「巨乳」と、いつもの鶴田キャラだ。鶴田の描く主人公ほど、読者であるこちらの目が釘付けにされてしまい、ページごとにその姿を追ってしまう強い吸引力をもった造形を、他に知らない。
 『エヴァ』の葛城ミサトを見て以来、“ヤリ手ではあるが、私生活がだらしない女性”という形象が、意外といろんな漫画作品に見受けられることに気づく。本作品の主人公・伊万里マリエルもその典型。『苺ましまろ』の伸恵でさえそうだ。これもひとつの「萌え」なのだろう。
 斎藤環あたりに怒られそうなことを書けば、そうした「ズボラ」女主人公とは、ズボラな男読者どもの(ぼくもふくめて)自画像ではなかろうか。自画像と欲望対象の一体化したものが、「ズボラで美しい女主人公」なのである。

(鶴田謙二/講談社KCデラックス)2003.11.26記★★★☆☆


【S.O.S SUPER OBSERVANT STALKER】●

 『ギャラリー・フェイク』の三田村館長やそのなかの各種の挿話、あるいは『ごめんあそばせ』の主人公・鬼龍院ひな子、そしてこの『S.O.S』の女刑事・るいをみると、細野は凛とした女性、権威的な女性、とりわけ「婦人警官」に萌えるらしい。本作品と『ごめんあそばせ』の精神の昂りようは、良く似ている。
 審美眼をもつ『ギャラリー・フェイク』のフジタも、『S.O.S』の狂気のストーカー・ファントムも、その高飛車な女性キャラたちに奇妙に「愛される」、細野自身の人格そのものである。それだけではなく、おやじのように腰がいたくなる主人公・るいは、これまた細野の分裂した人格でもあるのだ。

 作者の人格が多重に分裂し配置されたようなキャラのわかりやすさ、対象への欲望――という斎藤環の指摘した日本的漫画の特徴は、細野においてもっとも典型的な姿を現す。

(細野不二彦/双葉社)2003.11.19記★★★☆☆


【貧農史観を見直す】○

 NOVAうさぎのぬいぐるみをゲットできた今日の喜び! 関係ないけど。
 タイトルから想像される、「江戸時代の農民は極貧だったという見方を覆す」という読後感は正直、ない。この問いに直接答えているのは第3章「農民は貧しかったか?」であるが、“必ずしも重税が貧窮の原因ではない”という結論が得られるだけで、貧困であったかどうかということには正面から答えてはいない。
 ただ、江戸時代の農村観を時代劇的なものから、もっと豊かにするうえでは非常に役に立つ。とくに農業知識の発達は刮目すべき。なかでも農書のさかんな刊行は他国に例がなく、つい「わが国の高い知的水準」などというナショナルな話にしたくなってしまう。
 江戸期の資源リサイクルは、日本のNGOが垂涎しそうな話題だけど、すでにマルクス=オールコックがとりあげていることが一つのヒントになっているのではないか。

(佐藤常雄+大石慎三郎/講談社現代新書)2003.11.14記★★★☆☆


スクナヒコナ 1巻】●

 主人公・紺ちゃんのいらだちに既視感が。
 昔知り合いだった女性がこんないらだちの仕方してたなあ。男のいいかげんさをひとつひとつ暴いていくみたいな。そのとき、その女性の方が基本的には正しいんだ。
 以前の南にはこういう調子はあんまりなかったように思う。ダメな男といっしょにダメな自分があるような。
 むろん、この作品の作風のほうが、ぼく的には好きで、以前よりも生活のしっかりしたところに立脚して世界をみているような感じがする。南Q太、大人になった? (4巻の短評はこちら

(南Q太/祥伝社/以後続刊)2003.11.13記★★★☆☆


【花とみつばち 7巻】●

 最終巻。インタビューで読んだとおり、安野モヨコ、調子でてねえなと思いました。
 なんか迷ってるっつーか。そもそも最終回をつくるのがいつもヘタという説も。

(安野モヨコ/講談社ヤンマガKC)2003.11.13記★★☆☆☆


あの山越えて 3巻】●

 忙中閑あり。というわけで、そっと更新。
 田舎で、「人が老いて死ぬ」という事態は、おおむね即物的にうけとられる。「大往生だね」とかなんとかいわれて。親せきも近所も事務処理をするように物事がすすんでいく。
 そのなかで、人はどこで涙を流すのか。死者への追慕をいつ果たすのか。
 この巻で、主人公のお義母さんの実家の親が亡くなるエピソードがこのことによく応えている。峠で実家の方の明かりをながめ、もう本当に「帰る」ところはなくなったのだと義母が涙を流す。全体の抑制がきいたタッチのなかで、このシークエンスはひときわ感動的だ。

(夢路行/秋田書店/以後続刊)2003.11.9記★★★★☆


【ギャラリー・フェイク 29巻】●

 ある大手書店で同書が平積みされているのを見た青年2人の会話を立ち聞き。
 A「この本ってさぁ、IQが高くないと読めないんだよ」

 B「は」
 A「だからぁ、IQが高くないと読めないんだよ」
 B「へー」
 きみたち、まちがっとるよ。
 ヲタク的断片知識を知性ととりちがえるという傾向は、ネットの普及とともに、ますます広がっている。彼/彼女らにとって「物知り」が「頭がいい」ということなのだ。
 細野の作品群は知性の上に立脚した作品ではなく、滴るような欲望の上に聳え立っている。しかも見事に。
 バス運転手の日常的勤労と勤勉の価値を見直す「ART2. 父の値段」は、単純ながら、イイ話じゃ。


(細野不二彦/小学館ビッグコミック、以後続刊)
2003.11.7記 ★★★☆☆


【ラヴ・バズ 1巻】●

 志村貴子は『敷居の住人』1〜2巻を読んで、つまらなさに挫折し、『どうにかなる日々』で評価をあらため、『放浪息子』で開眼した。『ラヴ・バズ』は失踪した人気女子プロレスラーが子連れでジムに帰ってくる話。
 読めばわかるが、会話の〈間合い〉が独特で、ほかにこのような作家を見ない。そして、その〈間合い〉は、笑える――ということで定評がある。『あずまんが大王』と似ているというネットのレビューを読んだが、あくまで『大王』における間合いは、1要素でしかない。志村では作品世界の中心にある。

 主人公の激しいヘタレぶりと、志村的〈間合い〉が完全シンクロした作品で、逸品になりそうな予感。

(志村貴子/少年画報社ヤングキングコミックス、以後続刊)
2003.11.5記 ★★★☆☆


【スコット・リッターの証言 イラク戦争】○

 読んだのはイラク戦争開始前だが、いま改めて読み返す。
 大量破壊兵器はいっこうに出てこない。アメリカのことだから、すぐでっちあげをやるだろうと思っていたが、なかなかそうもいかんようだ。「化学兵器用トレーラー発見!」の報も、よく見りゃ風船用だったり。もういまでは米英の高官自身が「出てこんぞ」といってるし。「ああいえば世論にうけがいいから」みたいなことをいった米高官もいたなぁ。(出てくる可能性は依然あるとは思うが)

 リッターは、サダム・フセインは「恐怖と暴力による支配を行っている」とその体制について基本評価をのべたあと、国連査察官として「イラクにおける大量破壊兵器の能力は九〇〜九五パーセントまで廃棄された」とのべ、査察継続を要求した。卓見。これほどの卓見が、なぜ少部数しか出版されず、『私はサダム・フセインの原爆を作っていた!』あたりが洪水のように本屋に並んでいたのか。ふし〜ぎだ〜♪
 おととい、テレビ討論で自民のアベと公明のフユシバがあいかわらずVXガスと炭素菌の話をしていたが、疑惑のまま1万人の民間人を殺したオトシマエ、戦争支持したお前らがとれよな。そんなにイラクへ兵隊だしたいなら、お前らが行け。

(『元国連大量破壊兵器査察官スコット・リッターの証言 イラク戦争 ブッシュ政権が隠したい事実』ウィリアム・リバーズ・ピット、スコット・リッター/星川淳訳/合同出版)
2003.11.5記 ★★★☆☆


【あたしンち 9巻】●

 「BSマンガ夜話」を見て以来、けらえいこが、この作品を苦渋の面持ちでひねり出しているところを想像してしまう。また、「このエピソードはオットがつくってるんだろうなー」などいう具合にも思いをついめぐらせてしまう。
 本巻も出来栄は上々だが、苦労してひねり出したのだろうというものが散見された。

 爆笑したのは15分時計をすすめるNo.8。カレンダーのエピソードが秀逸。また、なんかイイと思ったはプレゼント交換用にバッグを手作りするというNo.4のオチ。さらに、No.21の、学校で突然、幼少時の悪夢を思い出したときのみかんの顔。あの顔、絶対ぼくもやっている(職場で、路傍で、部屋で)。
 アイドルとこたつで……というのはオットの考えたエピソードじゃないかなー。
 むせるクセがあるというのもわかる! 「自分一人 動物としてピンチ」は大爆笑。


(けらえいこ/メディアファクトリー、以後続刊)
2003.11.4記 ★★★★☆


【天才柳沢教授の生活 21巻】●

 復調しつつある、のかな。19巻について辛い評価を書いたが、ぼくの不明だったかもしれん。アレン中佐の父親と貝塚峯太郎の話がメイン。なかなかに面白い。
 でもあいかわらず、山下が何を書きたいのかはわからん。

 前はバーディーが余計になり、いまや柳沢教授自身が余計になりつつある。

(山下和美/講談社モーニングコミックス、以後続刊)
2003.11.4記 ★★★☆☆


【先生がいっぱい 1巻】●

 『ショムニ』とちがって、コケにされている十日町武士は戦後民主主義の虚妄だとでもいいたげだな、お前。『GTO』は全方位で権威をコケにした。『甲斐せんせい』はまっすぐに教育実践をあつかった。
 しかし『先生がいっぱい』は、戦後民主主義的な言説だけを攻撃している。杓子定規な教育をコケにするなら、やりかたがあろう。
 なんか腹立つなあ。
 ただ、筋は読ませる。だから一つ星じゃなくて二つ星なのだ。

(安田弘之/小学館ビックコミックス、以後続刊)2003.10.22記 ★★☆☆☆


【リボンの騎士】●

 夏目房之介が“手塚は、男女の中間にあるもの、その変化の過程にあるものにエロスを感じる”というむねの解説をしていたが(「BSマンガ夜話」)、その代表作のひとつ。
 ああ……。もうだめ。すごいエロス。サファイアが、きっぱりした男や女だったら、とうていこんな気持ちは感じまい。とくに騎士姿のサファイア。もう犯罪です。ビーナスが変身したブタもかわいいけど。
 
 男vs女の戦争や、女性の王位継承など、描かれた当時は、戦後民主主義的に迎えられたのかもしれないけど、むしろいまでは性同一性障害とか、性=生をめぐる最先端の表現にも読み直せる。

 1巻の解説では1953年〜1956年に『少女クラブ』に連載されたとあるが、2巻の巻末には1963〜1966年の『なかよし』が初出とある。50年代の手塚の線とは明らかにちがう。手塚がよくやる、書き直しらしい。

(手塚治虫/講談社漫画文庫 全2巻)2003.10.15記 ★★★☆☆



【鉄腕バーディー 1・2巻】●

 昔描いたもののリメイク。テロリストをおいつめる宇宙の捜査官。高校生と融合し「変身」する設定。
 バーディーは女性の筋肉質的肢体をもっていて、作者によるその美しい描写には惚れ惚れする。
 

 昔気質の言い分だといわれそうだけど、最近、警察的権力がそのまま善として無前提に描かれる作品が増えてきてないか。いや、警察を悪として描けとかいう意味じゃなくて、その無媒介な知性のありようがなんか気になるんスけど。

(ゆうきまさみ/小学館)2003.10.9記 ★★★☆☆


【眼前の敵】●

 「戦争コメディ」というオビ。
 戦争というより、軍隊。軍隊というのは、建て前のカタマリのようなものでできているから、いしいにとっては実にいじりやすかろう。


 彼の作家ネタや政治家ネタよりも断然光っている。

(いしいひさいち/河出書房新社)2003.10.9記★★★☆☆


【ヘーゲル大論理学研究 1巻】○

 「批判とは、なにかものを外部からたたくというのではなく、いままで普遍的だと思われていたものが、じつはもっと普遍的なものの特殊なケースにすぎないことをあきらかにすることです。そのものを普遍的なものの一モメントにおとし、没落させる。これが批判ということです」

 至言。こういう批判を心がけたいものだと思います。

(見田石介/大月書店/全3巻)2003.9.30記
★★★★☆


【きせかえユカちゃん 1・2巻】●

 以前、この作者は『のまれちまうぜシュガウエーブ』を紹介しました。
 「クッキー」連載の少女漫画ですが、あなどるなかれ、楽しめます。
 スタイリッシュでモデル体型のユカちゃんが、家族や友だち、教師とくり広げる爆笑な日々のエピソード集。
 感性、価値観、倫理観がこれだけまともですがすがしいのに、破天荒な話、というのは、すごい才能です(←そりゃ、「お子さまむけ」なのに笑えるってことだろ)。こんなのも描けるし、『のまれちまうぜシュガウエーブ』のようなものも描けるっていうのが、すごいんです。
 全巻そろえるってとこまでは勇気がいりますけどね。

(東村アキコ/集英社りぼんコミックス/以後続刊)2003.9.26記
★★★★☆


【二十面相の娘 1巻】●

 はい、小原慎司の最新作です。タイトルのとおりですね。
 少女の造形といい、探偵(怪盗)ストーリーといい、『菫画報』で抑えた小原の欲望を解放させた作品です。
 もちろん、俗にいうところの「いやらしい」「Hな」シーンなんて、ひとっつも出てこない、「名作」テイストの冒険活劇なんですが、よるべのない少女を囲い込むことを無意識に合理化するというストーリーからはじまり(最近では森薫『シャーリー』もコレでした)、「戦闘的美少女」の要素を持つ主人公の活躍にいたるまで、全編これ、とっても欲望的です。
 作品の最終評価は2巻以降をまたねばならないけど、『菫画報』ほど面白くありません(ギャグが、という意味ではなく)。

(小原慎司/メディアファクトリー/以後続刊)2003.9.25記
★★☆☆☆


【霧の日常】●

 『人生漫才』(全8巻)が「ぶ〜け」誌に登場したときは笑わせてもらいました。とくに第1話。小さな(おそらく田舎の)広告代理店が中小企業の広告の注文を受けて、主人公がむちゃくちゃポップなのをつくってしまうという話はよかった。あの調子で全巻いってほしかったのですが、失速しました。
 こんどは漫画家の主人公の霧(キリ)と、そのアシスタント、恋人などをめぐる、タイトルどおり「日常」を描いてます。  
 よく少女マンガ、女性マンガ誌のなかにある「ギャグマンガ」と銘打ったもののなか(つまらないものが多いが)では上質な部類に属し、生々しさ(たとえば首のうしろにあるイボのようなホクロの描写とか、コクゾウムシの幼虫が米びつで波打ってる様子とか)は他のマンガにはないテイストなんですが、絵の露悪趣味が定向進化していて、好きになれませんでした。
 末尾についている「ロバがしゃべれば」という小品は最悪。

(柏屋コッコ/集英社クイーンズコミックス)2003.9.24記
★★☆☆☆


【W3(ワンダースリー)】●

 1960年代に描かれた手塚治虫の代表作のひとつ。知り合いから、「BSマンガ夜話」のビデオといっしょにかりて読みました。
 地球を破滅させるかもしれないのに友人となった宇宙人をたすけるという「地球<友情」というものすごいスケールの友情を結末においています。逆に、宇宙人たち(ワンダースリー)が自分たちが追放されるのにもかかわらず地球を救うところはなんだか泣けてきました。  
 「BSマンガ夜話」で、岡田斗司夫が「ボッコ」という宇宙人が変身したウサギにすごい色気を感じるといっていたが、同感。手塚の描くマンガはどこかにエロスがある。

(手塚治虫/秋田漫画文庫)2003.9.23記 ★★★☆☆


【パルチザンの理論】○

 パルチザン、とか、ゲリラとか、そういうアモルフな組織のスタイルについて書いてある本かなあと思って買ったのだが、まるでちがいまちた!
 それまでは王朝間のゲームであり、しっかりしたルールにのっとっていた戦争は、ナポレオンにたいするスペインのゲリラを契機に「現実の敵」、つまり、マジな敵、ルールにのっとらない敵にかわる。しかしそれはあくまでその地域から敵が出ていけば終わりだった。レーニンや毛沢東によってそれは「絶対的な敵」へと高められ、絶滅戦争にまでつきすすむ、だからヨーロッパ公法の再建を、とナチに協力しなすったカール・シュミットさんはおっしゃる。
 ぜんぶ正しいとは思わんし、わからんところも多いんだけど、おそらくシュミットが危惧したような点はすでに今日、多くの左翼が克服している。しかし、同時多発テロのような形で、まったく別の勢力からこの問題が登場してきている。

(K.シュミット/ちくま学芸文庫)2003.9.22記 ★★★☆☆


【ラバーズ7 第1巻】●

 これだけじゃあ、わからんなあ。2巻以降をみないと。
 やくざの経営するコンビニで高校生がバイトして、卓球で勝負するって、どんなシチュエーションやねん。
 「萌える」ようなキャラもドラマも出てこんしのう。主人公のなつきが全然キャラ立ちしてこないのだな。ただ黙っているだけで。
 それにしても「女子高生が肉奴隷に!?」ってオビ、やめてくれよ(じっさいにはそんなシーンも状況も出てきません)。恥ずかしくて買えんぞ。

(犬上すくね/小学館SUNDAY GX COMICS)2003.9.22記 ★★☆☆☆


【映画に毛が3本】●であり○

 黒田硫黄の漫画による映画批評。
 スゲェ。映画を漫画で描くというんじゃなくて、評論を漫画で描いてる。しかも高水準で。
 「マグノリア」という映画の奇妙さを「新生物」という「絵」にしてしまったり、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のもどかしさを「カジキマグロ」で描くなんて人間じゃねえよ。
 鈴木京香(「39」)、ミーナ・スヴァリ(「アメリカン・ビューティー」)の描写の、もんのすごい香気。くわえて、サマンサ・モートン(「ギター弾きの恋」)のかわいさ!(「恋の純情巡航ミサイル」というのが笑える) でも、いちばんキャラが立って、いちばんチャーミングなのは、狂言回しの黒田硫黄本人なのだ。

(黒田硫黄/講談社)2003.9.20記 ★★★★☆


【ヒカルの碁 23巻】●(以下、ネタバレっぽいものあり)

 23巻は最終巻。これでうち止めだが、すでに第一部(佐為編)で、この漫画の結論は出ていた。今回の結末は、それをなぞったにすぎない。
 こっちは、ヒカルの勝つところを見たいのだ! 安易といわれようが。
 それにしても。
 若い棋士たちが研鑽する姿ってシビれるなあ。「進藤、芹澤先生から研究会に誘われたんだが、行かないか?」とか。くーっ。昔、友人たちと「適塾」のマネやったことがあるけど、ああいう空気ってあこがれるよね。って、それ、松下政経塾っぽい? だめ?

(ほったゆみ原作 小畑健漫画 梅沢由香里五段(日本棋院)監修/集英社ジャンプコミックス)2003.9.17記 ★★★☆☆


【論文「消費税増税に反対する」】○

 「ヨーロッパは消費税が高いんだからもっとあげてもいい」への見事な反論。
 税率をみると日本は5%、イギリスが17.5%.、
スウェーデンが20%、イタリアが25%。なるほどよそは高い。 
 ところが、国税収入にしめる消費税の割合は、日本22%、イギリス22%、イタリア22%、スウェーデン22%。どうなってんの?
 それは食料品に非課税だったりするからだ。つまり課税ベースが非常に狭いのだ。国民生活に最低必要な分野には消費税はかけない。
 厚生労働省の試算通り30%にしたら、死ぬよ。まじで。

(池田幹幸/「前衛」03年10月号)2003.9.17記 ★★★★☆


【のまれちまうぜシュガウェーブ】●

 10月号ヤングーユー掲載作品(連載)。
 岩館真理子のとぼけた味と吉田基巳(『恋風』)のショボさをミックスしたような作風。少なくともこの作品は。セリフ回しのテンポは黒田硫黄……とまでのスゴさだとはいわないが、同じ方向のセンスを感じる。

 主人公の、おとなし気なメガネの女の子・森ちゃんに、ものすごい色気を感じるなぁ。この人の作品、『きせかえユカちゃん』を読んでみたくなりました。

(東村アキコ/集英社ヤングユー連載)2003.9.9記 ★★★★☆


【ふたりのイブ】●

 筆者の初の短編集。
 この人が「ヤングユー」で『天使の成長痛』というタイトルの通りの、看護師の成長を描いた作品を発表した後、いまのハイテンションな『白衣でポン!』が始まった。

 そのタイトルの変遷をみるだけでも編集者の介入ぶりと、本人の何がしかの思い切り、踏み切りが伝わってくる(「カタいんだよな。もっと笑いのとれるもん、いこうよ」みたいな)。しかし、たかさきは本当は『天使の成長痛』みたいな作品を描きたいんだろうなと、『白衣でポン!』のなかにふっとあらわれるペーソスの効いた話をみるにつけ思っていた。感動する話、真面目な話が描きたいのだ。商業誌の連載作家にとって、実はそのことのほうが多分に欲望的な行為なのである。本短編集は、その欲望を遂げた作品だといえる。

(たかさきももこ/集英社ヤングユーコミックス)2003.9.7記
★★★☆☆


【恋愛強化月間】●

 今度こそ期待が持てるかも、と思っていたおれが馬鹿だった。
 かれんの漫画はいつも最初はいいんだ、最初は。仕事や夢へのリアルでひたむきな思いが伝わってくる。しかし、やがて女性が依存する“デキる”オトコが登場。このタイプのオトコを理想化する手口は、稚野鳥子『クローバー』などと同じ。やがてオトコとのセックスが濃密に描かれる。ああもう。
 これが『君からのレジュメ』だったが、今回の『恋愛強化月間』もおなじ〜(脱力)。
 何だろうね、この作者。格闘技や男性の肉体美にも異様なこだわりをみせるし。
 濃厚なセックス描写、格闘技美への執着――いまどき肉体崇拝。おまえは言語や思想に絶望した戦中派か。★★☆☆☆

(かれん/集英社クイーンズコミックス/1巻、以後続刊)2003.8.12記


【あの山越えて】●

 田舎の農家に嫁いだ女性教師の話。田舎にはいやなことがいっぱいあるはずだ。しがらみとか、因習とか、頑迷固陋な考えとか。ぼくの実家も田舎だけど。
 でも、この物語みたく、お姑さんも、お舅さんも、夫も、そのほかの人たちも、こんなにさばけた会話がかわせるなら、田舎の生活ほどすばらしいものはない、なんて思えてくる。
 ぼくのつれあいは「絵がヘタ」と一刀両断したけど。★★★★☆

(夢路行/秋田書店1〜2巻/以後続刊) 2003.8.9記


【お父さんは時代小説が大好き】●?

 吉野の読書エッセイマンガ。冒頭の「咳をしても一人」は誰の句だったか? はなかなかにおもしろいね。ついわしも乗ってしまったテーマだった。「山頭火かなあ」なんていうのが、すぐでてくる答えとして期待されるとこなんかはツボだね。答えは読んでのお楽しみ。★★★☆☆

(吉野朔美/角川文庫) 2003.6.25記


【太陽のイヂワル 惣領冬美傑作短編集】

 うーん、あんま面白くない。ラストの「虹色のヒラメ」なんかも、子どもの時ヒラメを虹色に塗れた「自由」な感性が、子どもの頃は本当に自由だったはずだが、同じもののはずなのに、たんなる放縦や場当たりへと変わっていくという、なんだか味わい深そうなテーマのはずなんだけど、よーわからんのだ。読んでいていても。★☆☆☆☆

(惣領冬美/講談社モーニングKC)2003.6.24記


【日朝関係の克服 なぜ国交正常化が必要なのか】○

 いやー、すごい。いまこういう時期にこういう本をかいて出版できるだけでも、その勇気を買うね。
 具体的提言まで載せていて、参考になりまくりでした。★★★★☆

(姜尚中/集英社新書0193A)2003.6.20記


【ぷちナショナリズム症候群 若者たちのニッポン主義】

 W杯に熱狂するっていうのはナショナリズムなんかね、ってけっこう不安に思ったりもするところだよなあ。「けっきょく、じわじわ階層化してない?」「歴史の『切り離し』をやっちゃってない?」と論じる筆者。コトバや用語がソフトでも、それは悪い意味での従来的な左翼的焦燥を焼き直しているだけのような気がする。(いまブッシュの戦争という世界に、一路絶望だけしているようなメンタリティーと同じ)
 っておもってたら、拉致事件での世論の熱狂化だもんなあ。けっきょく香山は鋭かったってことなのか。わからん。★★★☆☆

(香山リカ/中公新書ラクレ62)2003.6.1記