読んだ本などの短評 2010年上半期

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小畑健・大場つぐみ『バクマン。』7

 編集者(港浦)との対決がハンパでなく、よく描けている。少し対立して、予定調和的に方向性を決めてしまう、というような展開ではなく、ずっと対立と確執を続けるのがリアル。そしてギャグ路線で新たな発想に踏み出していく感覚も、読んでいて「これなら確かに面白くなりそうだ」という手応えを与えている。

 大場つぐみは『DEATHNOTE』でも感じたが、パズル(ゲーム)をつくる要素に長けている。少年漫画の「勝負」という要素をゲーム的勝負に変換している。

 本作では作家の才能、読者のウケ、編集者の戦略をパズルの条件にして、それを組み合わせて「勝利」する楽しさを演出している。単に編集者との確執の「体験」だけでは、こうは描けるものではない。

(集英社ジャンプコミックス/1〜7巻/以後続刊/10.3.11記)



河原和音『青空エール』4

 うわーん、大介が最高度にキモいよー。いくらさわやかな男子高校生が描きたいとはいえ、これでは「さわやかさのお化け」である。『君に届け』の風早君さえ超越している。

 他方で、つばさの悩み方はグッと来るよね。それと、同性の友人たち。部活動のみんなが普段は厳しいけど、失恋したつばさをなぐさめて演奏してくれるシーンとかは、それ自体にはリアルさのかけらもないんだけど、ものすごくうまい理想化(妄想化)だと思う。

 失恋して「つよくなるんだ」と決意するつばさ。最近とみに思うのは、個人の内面を輝かせること、そして強い個人に憧れるというイデオロギーは、それ自体には何の罪もないし、実際に素晴らしいことなんだけど、あっと言う間に「自己責任」論へと転化しがち。これは湯浅誠のいう「溜め」を理解していないせいであろう。80年代にこうした「輝ける個人」のイデオロギーの洗礼を受けてきたことを、最近渡辺美里を聞き直して強く感じた。我が内なる「渡辺美里」。

(集英社マーガレットコミックス/1〜4巻/以後続刊/10.3.11記)



小橋ちず『Sweep!!』1

 田舎の女子高生がカーリングを始めるという漫画。当方、カーリングについてまったく知りません。オリンピックがあったのでちょっと見てます、というレベルでさえなく、ニュース報道さえ見ていません。ルールも完全無知。

 こういうスポーツ・専門漫画は『ヒカルの碁』のようにまったく知らない地点から始めるか、『テレプシコーラ』のようにある程度才能があるという前提で始めるか、分かれるところですが、『Sweep!!』は前者。しかし、このカーリングを始めるまでのくだりが冗長すぎる。鄙びた温泉街同士の対決、とかどうでもいいわ。それからチーム競技だから仕方ないんだけど、いっしょにやる友だちのエピソード、「なぜその友だちがチームに加わるか」の描き込みが中途半端だ。

 でも、競技が始まってからは、俄然よい。主人公の里子が「フロ掃除」が上手く、「囲碁」が得意、というところから、隠れたカーリングの才能を持っている、という少年・少女漫画的展開がぼくの好み。見学のつもりが何かの間違いっぽく試合に出てしまう、というところで1巻が終わるのも上手いと思う。

 こういう作品って早く競技本編に入るべきだと思います。率直に言って、たぶんいきなりカーリングのルール説明があったとしてもぼくなんかはヒかなかったと思います。「囲碁」とか「フロ」とか伏線は確かに必要なんだけど、長々と最初にやる必要はないんじゃないなかあ。

 いずれにせよ、2巻を愉しみにしています。

(幻冬舎コミックス/以後続刊/10.2.23記)



幸田育子『今度は愛妻家』

 薬師丸ひろ子が出ていた映画があったという事実を知らなかった。主人公のカメラマンの妻である「さくら」のグラフィック的形象、キャラクターがなかなかよくて萌えた。こんな、「秘かにつくす」系の女性がいいんですかと言われそうだけど、いいと思ったんだからしょうがねえだろ。ガタガタ言うな!

 しかし、あまりにも「感動させます」的要素が多すぎて、物語そのものにはノレなかった。蘭子や「オカマ」のブンちゃんは、原作ではなにがしかの役割を持っていたのかもしれないが、1巻という分量で展開される物語においてまったく余計なものだと思われる。

(集英社/10.1.26記)



上野愛・金成陽三郎『デカルトの憂鬱』

 自分を殺したのは誰か? その動機は? を探す「新感覚ミステリー」(オビより)だそうであるが、1巻ですべてを終わらそうとするわりにはいろんなものがツメこみすぎていて、どうにも性急な展開。まったくノレなかった。

 「月刊『コーラス』で毎月大反響を呼んだ衝撃作」ってオビにあったんだけど、ホントかよ。いや、もしホントに「大反響を呼んだ」としてもだよ、この出来でこのオビはないだろ。

 女性漫画誌のオビには不信感が強いんだけど、ますますそれがふくらんだ一冊であった。

(デカルトの憂鬱 見知らぬ私/集英社/10.1.26記)



市川春子『虫と歌』

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)  「ひとりで勝手にマンガ夜話」で雑誌発表時にとりあげられていて、最近でも「漫棚通信ブログ版」や「漫画偏愛主義」がとりあげていたが、当該書を読んでみてぼくにはあまり響かなかった。

 この本のどこがいいのか、これらの評に聞いてみたい、という気持ちでそれらの評を読んだ。

 「普通の言葉をつなげただけなのに、なぜか不思議と胸にしみてくる」(漫画偏愛主義)、「本書でヒトならぬものたちは、少年や少女の姿をしてそこに佇んでいます。描かれていることは、洗濯物を干したり、草に水やりをしたり、縁側で麦茶を飲んだりする日常の集積ですが、その裏には彼らの生や死、さらに性の大きな問題が見え隠れしています。しかも物語性と詩的表現をともにそなえている」(漫棚通信ブログ版)、「うたの生が霞んでいくのと同調するかのように描かれ無くなっていく線、そしてフキダシのみで構成された一頁、彼の視力喪失も含まれているだろう死の描写は、間違いなく市川春子のものである」(ひとりで勝手にマンガ夜話)。

 残念ながら本書については、「はっきり言って、説明不足?」「展開が唐突すぎてよくわからない所が多かった」「読解力云々とは関係ない読みづらさがあります」「高野文子の作品を模倣」「登場人物のセリフや感情に同調できるだけの説明と材料があまりない」といったアマゾンのカスタマーズレビューの低評価の方にうなずいてしまう。
 「漫画偏愛主義」の松尾慈子や「ひとりで勝手にマンガ夜話」の白拍子泰彦らが、本書所収の「日下兄妹」の評価を高くしているのもまた疎遠な感覚を受け取ってしまうのだ。

 白拍子は「虫と歌」の絵柄の高野文子との異同について論じているけども、高野の魅力が十分に胸に落ちてこないぼくは、こうした作品群の読解に難をかかえている。なぜこのように読めないのか、と考えてみるのも面白いかもしれぬ。

(講談社/市川春子作品集/10.1.11記)



河内遙『ケーキを買いに』

ケーキを買いに (Fx COMICS) 「エロス的ヘンタイ的日常!?」がオビです。セックスとかハダカとかいっぱい出てきますけども、ぼくを煽情するようなエロはほとんどありません。
 ケーキ屋の女性店員が、四半世紀以上前に学校のトイレで男同士でフェラをやってもらっていた男子生徒にそっくりだったという話とか、セックスの最中に暴力をふるわれたいがために恋人にアルコールを飲ませる話とか、そういう。
 エロい気持ちを煽られるというものではなく、若い時にもつ恋愛やそれに類する感情を、先鋭的に表現したいがために選ばれているエピソード、現実のデフォルメなのです。だから、漫画全体に「前衛臭」が漂っていて、ぼくは今ひとつ好きになれません。
 たとえばですがきづきあきら+サトウナンキ『セックスなんか興味ない』のほうがわかりやすいんです。
 でも、ぽっちゃりした女性を好きになる話っていうのは、本作「シュークリーム」という短編でも出てきますし、『セックスなんか興味ない』にも出てきて、ぼくはこればっかりは河内の方がよかったですよね。イケメンのメガネ男子がぽっちゃり女子にいいように振り回されている感じがわかりやすくて好きです。

(太田出版/10.1.8記)



『しあわせ出産!』

しあわせ出産! (akita essay collection)  『ご出産!』シリーズ的なものを期待。無痛分娩が意外と安いじゃないか、と思った。安彦麻理絵と言ってることが違う! 魔夜峰央は手抜きもいい加減にしろ。

(秋田書店/10.1.6記)



花沢健吾『アイアムアヒーロー』2

アイアムアヒーロー 2 (ビッグコミックス)  つれあいは1巻と大きく評価を変え「ただグロいだけ」と低評価。ぼくは1巻よりもパニック度がまして、逆に面白かった。
 『このマンガを読め!2010』なんかでも、「一巻かけてタップリと日常を描き、突如始まる非日常」(関善之)とか「日常世界が少しずつ浸食されていくさまが描かれる」(南信長)みたいな評があって、これはつれあいと同じで、日常が十分に描かれることにこの作品の価値を見出しているんじゃないかなと思った。
 ぼくはもう本当に単純に2巻はホラー・パニックものとして楽しんだわけだけど。
 結果的に古谷実が描くような世界とどれくらい距離ができるのかを見るのが愉しみである。

(小学館/10.1.6記)



市橋俊介『漫画家失格』

漫画家失格 (アクションコミックス) ペヤングを3回にわけて、大量の水といっしょに食べているうちに「満足」するという方式に共感。隅に書いてある「満足と言うよりギブアップに近いかも……」にはさらに共感。
 だんだん売れて300万円くらいの年収になっていくくだりあたりが、調子づいた感じで素敵。
 結婚と離婚があまり「ネタ」化していない。本人にとってまだ傷の大きい問題なのかと逆に思わしめる心憎い演出(じゃないと思うが)。

(双葉社/10.1.6記)



豊田徹也『珈琲時間』

珈琲時間 (アフタヌーンKC) 『アンダーカレント』の豊田徹也が帰ってきた。短編集。短編だと戸田誠二っぽくなるなあ。
 「訥々と流れる人生の最も絵になる部分を鋭利なナイフで切り取り、12ページに抽出した短編は全17編。そのすべてが、ロースト時間を変えた珈琲豆のように異なる味わいを持つ」とは朝日新聞(09年12月27日付)での山脇麻生の評。うーん。そこまで言えるか? 
 面白くはあるんだけど、この人のよさが今ひとつ出ていない感じがする。

(講談社/10.1.4記)



元町夏央『熱病加速装置』

熱病加速装置  朝日新聞の評をみてすぐ買いに走った。「母親の再婚相手の連れ子である義姉に強烈な思慕と情欲を抱いてしまった高校生男子の煩悶と家族愛への渇望を描いた」(09年12月27日付、南信長)なんて書かれて買わないわけにはいかないだろ!

 もちろんエロいので買おうと思った次第。そして「てんねんかじつ」という短編を読んでみて実際にエロかった。叙情とか熱病とか家族愛とかそういう切り取り方はできるけども、義姉とのセックスの仕方が何ともいやらしくて、ポルノとして消費した。

(小学館/10.1.4記)



井浦秀夫『弁護士のくず』9巻

 『AV烈伝』の描き手だけあって、エロいシーンが抜群にエロい。萌える絵を見てエロい気持ちになるというのとはまるで違う。シチュエーションが共感できる、とかいう類のものでもない。こういう感情は何と命名すべきなのかな。

(小学館/10.1.4記)