森枝雄司『トイレのおかげ』




トイレのおかげ (たくさんのふしぎ傑作集)  子ども向けの科学解説パンフレット「月刊たくさんのふしぎ」の一つ。この雑誌は有名なのでご存知の方も多いと思う。つれあいの実家にたくさんある。

 といってもこれはつれあいの実家から持ってきたものではない。そして2歳になる娘に読ませるために買ってきたものでもない。同僚Aがトイレの話を書いた本に凝っていてそれを聞いた別の同僚Bが正月に実家に帰ったときに見つけてきたものだった。それをぼくが借りたのである。

 リンクしている「よしのずいから天井をのぞく」のホームページ版の方に、「かわや」のコーナーがあって、自身のトイレ観察考やトイレ関連文献がいろいろ載せてある。
http://www.geocities.jp/mmitsuya3/kawaya/kawaya.html
http://www.geocities.jp/mmitsuya3/kawaya/kawaya-books.html

 冒頭に北京の有料公衆トイレのことが書いてある。
http://www.geocities.jp/mmitsuya3/kawaya/kawaya-96beijing.html

 「個室」トイレを選んだつもりが、何と順番待ちの人たちと目をあわせながら用を足すというものになってしまっている。同コラムは「なお、これはあくまでも1996年の話である。最近の中国の変化は劇的なのでその後だいぶ変わったことと思いたい」と締めている。
 正月に実家に帰ったとき、父がインドに行ってきてその「不衛生」を罵っていた。民族性なのだ、という非難である。こういうものというのは、経済発展によってあっさりとその習慣を覆されるのはないかなあと思いながら、父親の話を聞いていた。

 さて、『トイレのおかげ』であるが、冒頭にスペインの「ウンコをする人形」を紹介。つれあいは「何これー」と笑いながら見ていた。
 トイレにまつわる古今東西のエピソードをつらねていて、これを読むことで、今の自分の「トイレ観」というものが実は歴史的なものに他ならない、ということを子どもに実感させようとするものだ。

〈トイレについて調べはじめたころ、「水洗トイレ=いいトイレ」だと思っていました。……ところが、こうしていろいろなトイレを見てまわったり、調べたりしているうちに、そうとばかりは言えないような気がしてきました。
 水洗トイレは多くの水を必要とし、もし水不足で水が出なくなったら、とたんに使えなくなってしまいます。……それに資源を活用するという意味から考えると、人のウンコを動物のえさにしているほうが、ずっとすぐれていると言えるでしょう。
 だから、「どんなトイレがいいか」なんて、かんたんには言えなくなったのです。しいて言えば、その地域のくらしにあったトイレが、一番いいトイレだと言うことでしょうか〉(p.38)

 この〈人のウンコを動物のえさにしている〉トイレは、フィリピンのルソン島北部の山岳民族の写真が載せられている。ブタに食べさせるものだ。
 人糞肥料もそうなんだけど、環境的な視点からすれば絶対にいいはずではあるが、現代の日本でこれができないのは何故なのかをあれこれ考えてしまった。たぶんかなり基本的な話のはずだが、そういうことを考察したものが手近になかったので、簡単に自分で考える。

(1)衛生上の問題。人糞肥料は別として、人糞資料を豚に食わせる場合、人糞がそのままさらされ、一定期間蓄積されることもあるので、公衆衛生上問題がある。
(2)悪臭公害になる。都市環境のなかにはまずおけない。

 たとえば、オフィスビルの地下を隔離された豚小屋にしてしまい、その隔離小屋に豚を飼えばいいのではないだろうか。
 そして次の問題は、(3)「人糞で育てられた畜肉を食べるか」ということだ。
 読売新聞08年12月22日付には、「エコフィードを利用して生産された豚肉や鶏肉、卵を購入したいか」という質問に、「購入したいと思わない」が21%あったことが報じられている(民間の調査研究機関「エックス都市研究所」調査)。エコフィードは残さ飼料、いわば残飯をくわせているのだが(実際には加工食品の製造過程で出るクズのようだが)、それでさえ2割も拒否感がある。ましてや人糞飼料となればもっと拒否率はあがるだろう。
 人糞肥料でできた野菜も同様だろう。昔のような方法ではなく、衛生上のことをクリアしたとしても、なお抵抗感が残るに違いない。

悲鳴を上げる中国農業:日経ビジネスオンライン(登録必要)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090507/193943/?P=3

 結局、この案が現代日本では実現しないのは、「抵抗感」のせいなのか。お前は人糞飼料の畜肉、人糞肥料の野菜を食べるかといえば、衛生問題さえクリアされていれば食べるけどなあ。




福音館書店
「月刊たくさんのふしぎ」1996年12月号
森枝雄司:写真・文 はらさんぺい:絵
2010.1.7感想記
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