厚生労働省「よい保育施設の選び方 十か条」
宇仁田ゆみ『うさぎドロップ』1巻
先日保育園の入所申し込みをしてきました。
まったく空きが出ないので結局来年4月まで待つほかなく、この11月から市としては募集をはじめたのです。福岡市の保育所入所待ちの子どもは07年10月1日時点で636人にものぼります。
ぼくは、前、『ぽっかぽか』のレビューを書いたとき、「保育園の見学でここを見た方がよい」という募集をしたのですが、合計40通ほどのメールをいただきました。この場を借りてお礼を申し上げておきます。どうもありがとうございました。
http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/pokkapoka16.html
結局どういう意見が多かったかといいますと、一番多かったのは「働いている職員・保育士の様子をみてこい」、ほぼ同じくらいに「子どもが楽しそうかどうかみてこい」というものでした。
厚生労働省は「よい保育施設の選び方 十か条」というのを発表しています。
http://www1.mhlw.go.jp/topics/hoiku/tp1212-1_18.html
- まずは情報収集を
- 事前に見学を
- 見た目だけで決めないで
- 部屋の中まで入って見て
- 子どもたちの様子を見て
- 保育する人の様子を見て
- 施設の様子を見て
- 保育の方針を聞いて
- 預けはじめてからもチェックを
- 不満や疑問は率直に
いただいた意見の多くはこの10か条と重なっていましたが、それぞれ実体験にもとづく迫力ある文章だったので面白く読ませてもらいました。
さて、ぼくは4つ保育所を見学しました。
すべて私立です(ちなみに認可保育園は公立も私立も保育料は同じ基準です)。
4つめに行く頃にはけっこう面白くなってきていて、もっと行きたいなと思うほどでした。
A認可保育園
つれあいの職場のすぐそばで、自宅から近い保育園です。しかもサヨのお母さんたちからも評判もよい園でした。ぼくとつれあいが一緒に見に行った唯一の園です。
ぼくが田舎で通った保育園からすると園庭は狭いという印象をうけましたが、100万都市の認可保育所としてはまったく普通の大きさでした。子どもたちは異様なまでに元気に遊んでいました。
驚くべきことに、2階にも芝生と水浴びできる庭があり、見学したときは9月でしたので、1〜2歳児の子どもが水浴びをしていました。金網でかなり頑丈にとじこめられており、こういうのってどうかねとは思いましたが、つれあいはまったく気にするそぶりはなし。
見学の案内をしてくれた先生が、こっちが話してくれるのを聞いて、適切な長さで返してくれるという会話のキャッチボールができる方で、これは他の園との比較で後述しますが、
保育園の職員というのはとかくマシンガントークをしたがるなか、かなり貴重なことでした。
つれあいは、年長組でみんなが自分で布の縄をつくるとりくみをずいぶん聞き入っていたようで、どうも彼女にはそれが決め手になったようでした。そして目の前で、見学者であるぼくらを勝手に意識して、その縄で無言でいろいろ披露してくれる子どもがいたのがかわいかったです。
B認可外(無認可)保育園
ビルの一室。正確には2室。
異年齢集団での保育、といえば聞こえはいいですが、どうしても狭いスペースにごちゃりと集めた印象がぬぐえませんでした。園長はこの方針がいかにすばらしいかをマシンガントークするのですが、心をうちません。自分もオルグとか支持拡大でこんなふうになっているんじゃねーかなーと自戒しました。
園長が英語教育とか日本舞踊もやりますよ、とアピールするのは閉口。こちらはそういう気はさらさらありません。
園庭はありません。しかし、ほぼ隣接して公園・広場があります。ただ、やはり他人様のものなので、そこは認可園がもっている自由さとはやはり違います。
保育料は所得による区分がなく一律で、ぼくの場合ですが認可園より安かったですね。
ちなみに、認可外保育園であっても厚労省が一定の基準を出していてその基準をすべて満たしている保育所には、認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書」っつうのが出されています。この保育所はそれが出されていました。
強烈に感じたことは「親の働く都合」にぴったり合わせてくれていること。
まず、入所ですが、すぐにでもオッケー。募集要項には3カ月からとありましたが「2カ月からでもいいですよ」。
病児保育もあるうえに、夜は「時間越えても1時間くらいなら預かりますよ」。
また、0歳児には給食(離乳食)はなく、家から持ってくるのですが、「市販のものでけっこうです」。「親が食べているものをもってきてくれればすりつぶします」。
父母会に参加したいと思って「父母会はどうなってますか?」と聞くと「いやもう全然父母会は参加しなくていいですから!」。それでもしつこく聞きましたが「もうまったく自主的なものですから!」。ちがうちゅーの(笑)。
いやー、「本当に今すぐに働かなきゃいけない」っていう切羽詰まった状況ならぼくはここに預けたかもしれません。認可園というのは、たしかにいろんな条件がそろっていて、保育方針もなかなかご大層なものなのですが、いくら立派でも入所がこんなに待たされるのでは働く方はたまったもんではないでしょう。まあそれは個々の認可園が悪いというより、自治体がそれを増やさないことが問題なのですがね。
そういえば大阪府知事選挙に出るという橋下弁護士が記者会見で石原知事のパクリだと認めたうえで「認証保育、駅前保育をどんどんつくりたい」という公約をのべていましたが、本当にすぐ働きたいという親の要求からすればこういうものが一定ウケる素地があるわけです。
なんか、そのあと認可外保育所がいろんな意味で気になってしまい、家にチラシなどが入るとしげしげと見入ってしまいます。
引っ越し前に住んでいたところの近くにある認可外保育所のチラシが入っていて、そこは上記の基準を満たす証明書もありません。ときどき中をのぞくのですが、狭い1室でテレビをみたりおもちゃで遊んだりしているという感じで、外から見ているだけだと「保育」というよりただの「託児所」ですなあ。
インターネットで親の職場からいつでも様子が見られます!というスゴい売りもしています。さらに、日曜日の晩などに前を通ると子どもたちがいて、こういう日にも預けるというニーズがあるのだなあとしみじみ。
どこまでも「親の労働形態」「親の要求」に的をしぼった経営なのです。
C認可保育園
家から一番近い保育園です。うちの団地の人はここに通わせている人が多いようです。仏教系。
先生も子どもも普通。子どもはそれなりに元気です。
制服があるのと、年長の子はピアニカなどの楽器演奏の教育があり、英語の教育もあります。
年少はこまかくグループ分けし、年長は異年齢集団をつくってクラス分けをしているのが特徴でした。
やはりここも案内の職員がマシンガントーク。B認可外園や後述のD認可園ほどではありませんでしたが。
悪くはないと思いました。特別これに惹かれたということはありませんが、特別これがいやだったということもありません。毎日のことなので、何より家から近いというメリットは捨てがたい。
D認可保育園
ここは家から少し離れていますが、遠いというほどではありません。しかし、毎日通うとなると、ぼくが乗る駅からもつれあいの職場からも遠く、心配でした。
ここを見学しようと思ったのは、同じ団地のコミュニスト・ママが通わせていて、その話が面白かったからです。
そのお母さんが最初にその園にいったとき、子どもがペットボトルで泥水を飲もうとしていて「あの子、泥水を飲もうとしてますよ」と泡食って叫んだら保育士が「きっと泥の味が確かめたいんでしょう」と涼しい顔をしていたと聞いて、ぼくもつれあいも爆笑してしまいました。なんつうか、子どもに対する衛生観念が、いい意味で破壊されたといいますか。
ここは最も保育方針が明瞭でした。とにかく遊ぶなかで五感を使って体を動かして体をつくり、人間関係を学ぶということに最重点をおいているのです。たしかに行ってみると見学したのはもう十分に寒い11月でしたが、園児はすべて裸足で外で遊んでいます。
「砂遊びもすわってではありません。ああしてテーブルを使います。すわると行動範囲が極度に狭くなりますが、テーブルをつかって立って砂遊びをするとものすごく体を使います」という案内の職員の演説。
いやー、ここの職員のマシンガントークはすさまじかったですなあ。
B園やC園のトークは断片的な「いい保育」を話すだけなのですが、D園は理念から論理だって説明するので、話していることはいちいちもっともだと思えるような「聞かせる」ものがありました。
しかし、
長い。いい加減にしてほしいというくらい長い。
こちらが質問したけども、そのことにはさっくり答えるだけで、あとは長々と別の話をして(実は別の話ではなくつながっていたのだが)、最後にまた質問へ着地。疲れる。
父母会が盛んで、みんなで学習会をやったりしているということでした。
保育園でとりくんでいる署名などについても臆せず説明。立派です。
子どもはむちゃくちゃ元気でした。
しかし、いかんせん遠いということもあり、第一候補からは外しました。
よって、希望は第一にA園、第二にD園、第三にC園で提出しました(B園は市を通さずにすぐ入れます)。
というわけで、みなさんどうもありがとうございました。
『うさぎドロップ』を思い出す

祖父の隠し子という6歳の女の子をひきとる30男の話・宇仁田ゆみ『うさぎドロップ』1巻には、保育園の入所をどうするか悩むシーンが出てきます。このなかで「毎日の通勤」という要素を考える話が出てきますが、これがなかなかリアルです。
おそらく保育園に預けたら、ぼくが主に迎えをすることになるのでしょうが、ぼくは自動車も持っていないので、毎日駅から娘を拾って帰る、もしくは家に一旦帰って歩いて園に行くことを考えねばなりません。
そうすると保育方針がいくらよくてもD園のようなところに行くのは、難しいということになります。
また、保育園に迎えにいこうと思えば残業はできません。
『うさぎドロップ』の主人公は、重大な決意をもって部署を変えてほしいと上司にお願いします。部署を替えることによって主人公は多大な摩擦に遭います。いまの日本社会で男がこんな申し出をすればたちまちこんな摩擦に出遭うでしょう。
しかもこの主人公は配置転換がうまくいっただけまだ幸せです。
そういうことができない/しない会社がまだまだ多いのですから。
(『うさぎドロップ』についてはできれば後日感想を書きたいと思います)
宇仁田ゆみ『うさぎドロップ』祥伝社
2007.12.13感想記
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