「ヤングユー」2005年6月号を論評する覆面座談会




A:きょうは、集英社の女性漫画誌「ヤングユー」2005年6月号についての覆面座談会です。紙屋研究所の所員のみなさんにおこしいただきました。所員というのは、所長の人格が分裂したものです。Bが「ぼく=似鳥修一」的人格、Cは女性的辛辣人格です。
B:二鳥修一です。
C:ウソをつくな。ところで、この前、あたしの大学時代のサヨ友人たちと同窓会的に飲んだんだけど、「あの紙屋研究所ってものすごい文章量だな。何人くらいで寄稿してんの」とか聞かれました(笑)
B:「30人くらい執筆陣がいるんだよ」とかウソついてました。
C:「30人か! すごいな」とか驚かれて(笑)



途中から入り込めない「キャリアこぎつね」

A:まず石井まゆみ「キャリアこぎつね きんのもり」ですが。
B:読んでません。
C:あたしも(笑)。
A:おい! 巻頭カラーなんだぞ。
B:いや、別に石井の漫画が面白くないってわけじゃないんだよな。なんでかな。
C:「読みきり」にむかないんだと思うね。連載モノでも、途中からでもふっと読みたくなっちゃう絵柄とかセリフとかの漫画があるんだけど、石井のにはそういうのを感じない。途中から入りにくい。
B:あ、それはいえるかも。
C:じゃあそういうことで(笑)。
A:とんでもないですね。じゃあ、つぎに秋本尚美「ぬくぬく」ですが。
C:あいかわらずヌルいですね。
A:ヌルいのが味でしょ。
C:ちがうちがう。ほのぼのじゃなくてヌルいの。5ページもひっぱる話じゃないでしょ。
A:はあ。
B:じゃ次。
A:岩館真理子「アマリリス」ですが。
B:きれいでかわいいのに、おかしみが漂うという、岩館調が今日も健在。大変よいです。
C:「小心者の心の体操」というのは笑いました。



夜の情景が抜群「ハチクロ」

A:羽海野チカ「ハチミツとクローバー」は。
B:ついに前号で真山・リカの関係が動いたでしょ。期待してました。
C:あたしはもう美和子さん萌えでハアハア 今号は美和子さんが全開でしたし。
B:羽海野は夜の情景が抜群にいいですね。
C:羽海野においても歴史は夜動くわけです。情感のある情景に依存する羽海野にとって、ギャグでない世界は雨の中か夜に紡がれるんでしょうね。
B:これでヘタだったら困りますが、うまいので楽しめます。
C:暗がりで金木犀を見ながらビールを飲む。フンイキが伝わります。
B:「諸事情によりホイップちゃんの映像でお送りします」はじっくり見入った上で笑わせてもらいました。
C:オチでローレライシステムを発動させるあたりがやはりヲタですよね。
A:大久保ニュー「イタニティ トワコ」はいかがです。
C:面白かったが、壊れかたが中途半端だよね。有間しのぶの「モンキー・パトロール」を見習うべきだと思う。
B:絵柄がひきつける。絵柄でトクをしている感じです。



最高!「トルコで私も考えた」

A:高橋由佳利「トルコで私も考えた」は。
C:これいい! 最高!
B:トルコ語の身も蓋もなさがよく出てますよね。英語だと「クリーナー」というところを、「エレクトリック・シュピルゲ・マキナス」=電気・ほうき・器というあたりが。
C:「ウザクタン・クマンダ=遠くから指令」つーのも……。ま、それは読んでのお楽しみなんだけど。
A:高橋は、日本語もそうであるというわけでしょ。
B:そうなんだよね。ぼくもつねづね日本語というのは英語にくらべ「かなりベタ」だと思っていたんだが、トルコ語の話をされて、自分たちの言語もよく似ていると激しく思いました。
C:そこにハマる高橋がいい。
A:槇村さとる「BELIEVE」はどうでしょうか。
B:さくさく行ってテンポがよいですよね。
C:いやー……、あたしはいつも思うんだが、それってただテンポが早いだけで読者はおいてけぼりなんじゃないかなあと。
A:宮昌太朗が志村貴子の作品をさして「ちょっと油断していると内容がわからなくなる」(「STUDIO VOICE」VOL.354)と評していましたが……。
C:全然ちがう話。そうじゃなくて槇村のは、ただ不親切なだけだよ。とくに最近は鬼気迫るカンジでアップテンポになっている。ココロが不自由なのでは。
B:むちゃくちゃいってるなあ。
A:えー…では次の作品。「チャレンジ倶楽部」。今週はかれんでした。



エッセイ漫画は女性はだれも得意なのか

B:愛・地球博行ってましたね。人がこないマイナーパビリオンをまわるという。
C:けっこう面白かった。うちのアニキにも似たところがあって、つくば科学博いったときも、有名パビリオンじゃなくて産業館とかまわって新技術とかみてやんの。
B:ぼくも面白かったですよ。ヨルダンのパビリオンで死海の塩水のプールを上から眺めるだけとかね(笑)。女性漫画家ってやっぱエッセイ漫画は基本的にうまいよね。
A:もん「おしゃべりニューヨーク」はどうですか。
C:スパイク・リーの弟の話だった。あたしは興味ないからパス。
A:はは。じゃあ、スズキ サワ「いよぉ!ボンちゃん!!」は。
B:白骨温泉に確認入湯に行くという設定があまり生かされていませんでした。
C:まあ漫画は並に面白かったけどね。



谷地は焦点を変えてみたら

A:谷地恵美子「すぐりの季節」は最終回でしたね。
C:うーん。面白くなりかけていたんだけどね。あれもう終わりなの、という感じ。
B:谷地は、またしても髪の長い好青年ですね。主人公の無垢さも(笑)
C:恋愛に焦点をおかずにもっと才能の開花みたいなことをぐっと掘り下げればいいのにと思う。面白くなってきたのはそこだったんだから。
A:上野愛「永遠のイヴ」は。
B:この人しらないんですが、最後までは読ませる力はありました。だけど、親がしそこなった恋愛を娘がするという設定以外には面白みがありませんでした。
C:そうかなあ。あたしは、ペンダントが埋まっていたのを掘り返して泣くあたりはイイなあと思ったんだけど。
B:いや、運命の人と別れていまの父親と「仕方なく結婚したんだろうか それで仕方なく私が生まれたんだろうか」という問いはあまり解決されないまま、放置プレイですよ。いかんでしょ。あのハゲお父さんかわいそうだ。



期待をもたせるのに話がうまくない勝田

A:勝田文「シンガポールの月」はどうですか。
B:勝田ね〜。この人、絵やコマはすごく心にひっかかるのに、スジがヘタなんだろうね。漫画が面白くないんだよ。
C:そうそう。絵にはすごく期待をもたせるのに。なんでこんな話になっちゃうんだろ。絵がくずれるときのおかしみとか、なかなか味があるのにねえ。
A:上田めぐみ「あきらめない女たち」は、なかなかいいですね。
C:安定して高い水準にある。「パリパリ伝説」とはまた別に、女性誌の笑える4コマ。
B:ぼく的には上司の怒りへ火に油を注ぐセリフと、「もう世間体のためにしたいわ結婚… くそっ1人でできたら」という職場での思い沈みがよかったです。
A:初登場ですが清原なつの「良く晴れた微風の日」は。
B:ジャージでひっつめで、なんか突っ張っている女性を後ろから抱き締めるっていいですね。
C:なにが(笑)
B:ほら、30で演じる少女漫画という感じで。自分もやってみたいです。ピロートークの描写もかわいくて好きです。妙にエロいし。
C:これもテンポが早い気がするけど。
B:槇村のテンポとは違いますよ。
A:まあまあそれは贔屓目ということで。私もラストの3ページはアップテンポとは感じなくて、しんみりとしあわせそうに感じました。では次。これも本誌初登場ですね、山田ユギ「ふつつかな兄ですが」。
B:「ヤングユー」は「大家(たいか)主義」を改革しようとしているのかな。感心感心。
C:つっても既存の作家を引き抜いてくるだけのような(笑)。育てるというのはものすごく遅かったり少なかったりするのは相変わらずですね。新人の書きたいものと違うのかな。
A:あの、作品のほうを。
B:はいはい。あ、これ雁須磨子の『ピクニック』にある兄妹の話に似てますよね
C:あたしもそれ思い浮かべた。兄のメガネづらもよく似てるし。
B:雁のほうが圧倒的にうまい。
C:禿同。
B:兄妹のほげほげした感じが雁の作風によく映えるんですが、山田のほうは、余計なシビアさを入れているぶんだけリアリティが後退してますよね。
C:ま、それなりには読めたが。



松苗あけみを見直す

A:松苗あけみ「朝顔と駅前ケーキ」はどうですか。
C:やっぱり大家主義じゃん(笑)
B:ぼくはこの作品は支持します。松苗は……
C:言わせて言わせて。松苗は話がとことん破綻して、ぜんっぜん面白くない。ハチャメチャになったり、老醜キャラをわざと登場させるあのパターンももう本当にどうにかしてくれと。ヒゲの気弱な紳士とか。もう見ただけでダメ。
B:や、ぼくもそうなんです。ただ、この作品はよかったですよ。あまり脇道にいくことなく、女の友情ということだけにぐっと照準をしぼって最後までシャープに描いている。なんだ、こういうふうに描けば松苗もいいものが描けるじゃないかと見直しました
C:へえ。
A:最後に鈴麻らむね「おーえるかもかも!」は。
B:まあ、毒にも薬にもならず。
C:ファミリー4コマという感じです。いいんじゃないですか。あたしは必ず読みますよ。
B:必ず読むというのは大事なことですよね。
A:というわけで総評をどうぞ。
C:高得点が高橋由佳利「トルコで私も考えた」と上田めぐみ「あきらめない女たち」、そして「ハチクロ」というのは、依然この雑誌が危機にひんしていることの証左ではないかと思いました。
B:ぼくにとっては、松苗がこういうものを描けることがそれなりの発見で、松苗がこういう方向で発展するなら支持できると思いました。それは最大の収穫。まあ、今号は池谷理香子とか鴨居まさね、たかさきももこなんかもいないので、それなのに比較的健闘したといえるのではないかと。



2005.5.17感想記
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