鈴木みそ『銭』(ぜに)


※4巻の短評はこちら

 『ラブ☆コン』を数ページ読んだあと、つまらなさそうにパラパラと繰ってそのまま投げ捨てたつれあいが、鈴木みそ『銭』をじっとり・ねっとり読んでいた。えらい違いだ。それほどに面白いらしい。

コミック 銭 1巻  幽霊になったジェニー、チョキン、マンビが「漫画雑誌の値段」「アニメの値段」「コンビニの値段」「同人誌の値段」などを現場で解説するという趣向。完全な「解説」漫画である。たとえばコンビニの開業に必要な資金やロイヤリティがいくらか、などを事細かに計算する。そう、まさに計算する漫画である。こういう設定だけ聞けば、漫画という体裁は必要ないではないか、文章に挿絵で十分ではないか、という気になる。

 たしかに、それでもいいのだ。

 たぶん、つれあいが興味をもって読んでいた部分は、まさにここに出てくる事実=数字であろう。漫画雑誌がいくらくらいの部数が売れて、どれくらいの原稿料を払うのか、そして何でカヴァーするのか、ということをつれあいは実に楽しそうに話していた。
 まさにこの「漫画」の中核は、取材した事実にある。
 ぼくは以前、政治解説漫画について、解説者が登場し「教える側」と「教えられる側」にわかれる、というスタイルのつまらさなさを批判した。あるいは絵ではなく、数字や言葉で説明を重ねていく手法を漫画表現の死として批判した。
 冷静に考えてみよう。
 『銭』は、この手法そのものである。
 しかし。
 面白くないだろうか? いや、たしかに面白いのだ。
 第1巻、ジェニーやチョキン、マンビしか登場しないときは、正直いえばこのキャラにはさほどの興味はわかない(とりわけチョキンの顔のつくりが/と●だけで実にいい加減だ。何の感興ももよおさない)。ぼくらは、漫画誌がどのような採算条件のもとで製作されるかという事実にばかり気をとられている。
 ところが、2巻に入り、「同人誌の値段」シリーズで解説役をつとめるゴスロリの女性・草薙麗留が出てきて俄然状況は変わった。少なくともぼくにとって。草薙に「萌えた」というわけではないが、気づけばいつしかくり返しこの女性の姿としゃべりを追っている自分がいた。

 「お兄ちゃんたちにいろいろ教えてもらいたいなって えへ」
 「はにゃ〜ん」(鉄道同人一同「おお! はにゃーんだ」)

などと萌えを誘うための打算的な媚びをくり返し売りながらも、意外に間抜けだったり、純情だったりするこのキャラは、この作品のなかでは厚みがあってジューシーだ。やっていることは、解説者然として数字や同人誌市場を説明していることが大半なのだが。それでもきちんと漫画作品として成り立っている。

 したがって、ぼくは、政治漫画でくだした結論を修正しなければならないと感じた。「解説者」が出てこようが、「言葉」や「数字」で説明ばかりしていようが、漫画は面白くなりうる。とりあげるべき事実の圧倒的な面白さと、一定のページ数をもったキャラクターの展開があれば、十分にいけるということだ。『銭』は見事にそれを証明した。

 鈴木みそは、学習解説漫画出身、取材漫画出身であるという。ややイラストむきのしつこいタッチは、そのせいかと思ったのだが、その出身の特性を弱点にせずに逆に利用してしまった。

 100円ショップとか、いろいろ出してほしい業界はあるが、鈴木のインタビューを読むとなかなか取材先がガードが固いようだ。そりゃそうである。やはりこれは取材力が命のなので、ぜひがんばってほしい。


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エンターブレイン 1〜2巻(以後続刊)
2004.8.20感想記
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