『週刊金曜日』 2000年10月13日(No.335)号より

貧困なる精神(126)    本多勝一

私が長野知事選で考えること


 多くの場合、選挙は消去法です。とりわけ大統領選や知事選・市長選などのように、首長一人を選ぶ選挙の場合、候補者に非の打ちどころのない理想的人物がいないことがむしろ普通だから、「より悪くない」人物とならざるをえません。
 いま信州(長野県)の知事選が話題になっています。私は信州の住民(有権者)としてこれを消去法で考えた結果、三人の有力候補のうち一人にしぼって、その候補の応援演説を郷里・伊那谷の伊那市で(もちろん個人として)やりました。しかし「その一人」は田中康夫候補ではありません。
 本誌9月29日号で、佐高信氏は田中康夫候補を全面的に応援する記事を発表しました。多くのエピソードによる田中評価の末に、信州出身の政治家・田中秀征氏による田中康夫候補支持を願い、本誌で二人が対談することも要請し、「両者に近い私は、そんなもくろみを抱きつつ、″康夫ちゃん″の応援方法を考えている」と書いています。
 もちろんこれは佐高氏の個人的見解です。しかしこのままですと、本誌もまた基本姿勢として田中候補を支持・応援する編集方針ととられる恐れがあるでしょう。実態は、そういうことでは全くありません。田中候補について私がこだわったのは、もちろん彼の政治姿勢・行政能力であり、さらには基本的思想の問題です。
 たとえば、これまでの県政で最大の問題点は、国政と同じく″公共事業″という名の土建政治による税金濫費と環境破壊でした。その典型が、かの長野オリンピックをめぐる「黒い霧」です。このとき吉村午良(よしむら ごろう)現知事らは、日本の自然破壊をもっとも大規模に全国ですすめた西武資本(堤義明)と結託して、信州北部一帯を大規模に自然破壊しました。西武にとっては、西武のスキー場やゴルフ場に新幹線や高速道路で客を集めればいいだけですから、オリンピックなんか成功しようが失敗しようがどうでもよかったのです。で、西武は十分、いや十二分に目的を果たしました。
 しかし信州の台所はたいへんな赤字をかかえこみ、それは即ち私たちの税金を大量に使ったということですが、しかもその招致活動に使った費用の帳簿を吉村知事らは「どこかに紛失した」として、驚くべき前近代的手段で真相を隠蔽(いんべい)しました。
 土建県政への対決として立候補したのであれば、オリンピックに起因する膨大な赤字財政への批判や追及をすベきなのに、田中候補の姿勢ははっきりしないのです。
 さらに気になるのは、石原慎太郎・現東京都知事との関係です。石原知事がどういう男かは、さいきん朝日新聞社から出たばかりの拙著『石原慎太郎の人生』で書きましたが、もっと本質を突いているのは、『週刊金曜日』9月8日号での辛淑玉(シン スゴ)氏の批判「ハーメルンの笛吹き」でしょう。
 そこで今度の知事選告示の翌日(9月29日)、私は田中候補に次のような質問状を(二日以内に回答するよう)送りました。

田中康夫様
 28日に長野県知事の告示がありました。私は長野県民として投票するわけですが、(中略)そのような県政を変更するためにも田中氏の立候補は大いに評価したいと思います。しかしながら気になるのは次の点です。
 新聞などの報道によりますと、東京都知事の石原慎太郎が応援あるいは支持しているとのことです。また毎日新聞の9月28日夕刊によりますと、田中氏自身も立候補の第一声で「高知県の橋本大二郎知事や石原慎太郎東京都知事の名前をあげ、『これらの自治体は着実に変化を遂げてきた……』」などと肯定的に訴えたそうです。
 橋本知事には私も肯定的ですが、石原慎太郎という卑劣で臆病な矮小(わいしよう)ファシストについてはすでに田中さんもご存じだと思います。このような人物の支援なり応援なりをあなたは受け入れているのでしょうか。あるいは拒否しているのでしょうか。この問題は論評するに際して欠かすことができないと思っております。それでは何とぞご回答の程をよろしくお願いいたします。

 しかし二日以内に返事がないので、さらに10月4日、10月5日夜と、計三回にわたる回答要請にもかかわらず、最終期限とした「6日正午」までに彼はついに返答ができなかったのです。(質問状の到着していることは確認ずみ。)
 佐高信氏が田中康夫候補応援を願った田中秀征氏については、私も非常に尊敬しています。私と同郷の信州出身だからということではなく、今の日本で国際的に比肩しうる真に高い見識の政治家です。それは田中秀征氏の著書『舵を切れ』(朝日文庫・今年九月刊)一冊を見るだけでも明らかでしょう。
 だからこそ私は、田中秀征氏が田中康夫候補を応援する対談には、反対せざるをえないのであります。


『週刊金曜日』 2000年10月27日(No.337)号 「金曜日から」 より

 長野県知事選は、3人の有力候補の争いで盛上った末、田中康夫候補が当選しました。ということは、それまでの吉村知事にいたる土建県政の後継者・池田候補が敗れたことであり、県民(有権者)の1人として素直に「おめでとう」と、まずは喜ぶべきでしょう。
「……でしょう」というような、断定的でない表現を使ったのは、土建県政を本当にひっくり返すのか、今後の実績を見るまではまだわからないからです、当然ながら。したがって本当の“祝杯”はもう少しあとにしつつ、期待とともに見守りたいと思います。
 少し具体的なことを申しますと、たとえば大仏ダムや美ヶ原台上道路などのように、反対運動が大きくて建設省でもOKしないので「どうせ中止になるもの」に対して「中止」と決断しても大して意味はありません。これでは自民党が発表した土建政策と同じになります。黒沢ダム(三郷村)などのように、中止しにくいものを中止するとか、鳥倉林道(大鹿村)や各地の砂防ダムのように、過疎地域で強行されている土建屋のための自然破壊工事を中止してこそホンモノとなりましょう。(本多勝一)


(Webサイト作成者より)
※本文のHTML化にあたって、日付の表記を算用数字にするなど、若干の変更を加えております。

「貧困なる精神」 索引へ