漢語迷の武漢日記 

< 第13回 広州の春節 >


 随分前のことになってしまいましたが、今年の春節のことをまだご報告していなかったので、ご報告します。
 今年の春節(旧正月)は昨年の農村とはうって変わって、中国でもっとも経済の発展している地域の一つ、広州の友達の家で過ごしました。
 この友達は、昨年の夏休みに洛陽を旅行した際に知り合った中国人学生の一人です。
 僕は今年もぜひとも中国人の家で春節を過ごしたいと思っていたのですが、躊躇もありました。やはり、春節は家族水入らずで過ごしたいだろうし、そこへよそ者がいきなり入っていくのは失礼だと思ったからです。ましてや、昨年の友達とは違って、広州の友達は旅行で一度会っただけでした。しかし、大都市の春節がどんなものか見てみたかった僕は無理を承知で春節をともに過ごすことを頼んでみたのです。
 すると、彼女は快く受け入れてくれ、わざわざ僕のためにベッドを一つ空けてくれ、そこに数日間泊めてくれました。こうして昨年に続き、今年も中国人とともに春節を過ごせることになったのです。
 それにしても、広州人の春節の過ごし方は農村とは全く違っていました。一言で言えば非常に淡白なのです。昨年も書きましたように、農村では普段の食事が質素そのものなので、春節の時の料理の豊富さは際立っていました。ところが、広州では除夕(大晦日)の料理も正月の料理も普段と大した違いはないようでした。この時だけで比べれば、むしろ農村の料理の方がはるかに豪華だったと言えるでしょう。
 日本人が大晦日に紅白を見るのと同じように、中国人もほとんどの人が大晦日に「連歓晩会」という、歌・漫才・コントなどの有名人が次々出てくる番組を見ます。その視聴率はなんと97〜8%という驚異的なものです。ところが、広州人はあっさりしたものです。彼らは広東語がわかり、香港のテレビ局も受信できるため、「晩会」始まってしばらくすると、さっさとチャンネルを変えてしまい、香港のテレビを見始めました。そして、それも見飽きたらしく、今度はVCDを見始めました。そして、しまいには、驚いたことに、21世紀最初の正月を待つことなく、つまり、12時が過ぎるのを待つことなく、みんなさっさと寝てしまいました。取り残された僕も仕方なく、年を越すことなく床につきました。
 昨年農村で春節を過ごした時は爆竹が至るところで鳴り響いていました。 中にはまるで大砲を発射したかのような馬鹿でかい音のするものがあったり、また、平気で爆竹を人の方に向けて投げて来る人もいるので、耳を塞いでびくびくしながら歩いたものです。しかし、毎年のように死傷者が出るので、現在大都市においては爆竹は禁止されています。ですから、広州の春節は非常に静かでした。
 僕の過ごしたのは広州の一家庭に過ぎないので、みんながみんなこんなに淡白なのかはわかりませんが、友達に聞いてみたところ、広州人の春節は総じてこんな感じなようです。
 それにしても、この友達は僕のために本当に心を尽くしてくれました。「広州には面白いところはない」といいながらも、自ら計画をたててくれ、博物館・花市(広州では年末に花の市をやるのが恒例になっていて、その際には膨大な数の露天が出る)・花車巡遊(広州各地域の山車や龍などが出て、道路を練り歩く)・春節晩会(歌・楽器・漫才・雑技・花火などの出し物がある)などに連れていってくれました。どうやら僕のために事前にどこで何があるかということを全部調べておいてくれたようです。
 部屋にいても、「洗濯物はないか」と聞いてくれ、遠慮がちに出すと、次の日には全てきれいに畳んで返ってきました。食欲がなかった日は「うちのものが口に合わないんでしょう」といってパンをわざわざ買ってきてくれたり、胃薬をくれたりしました。
 彼女のお兄さんは「日本食が恋しいだろう」といってわざわざ僕を遠くの日本食の店まで連れていってくれ、うな丼をご馳走してくれました。
 日本であれば、一度しかあったことのない人を正月に何日も泊めるということだけでもちょっと考えられないことのような気がします。それなのにここまでしてくれるとは……。本当に感激でした。同時に「どうしてここまでしてくれるのか」と考えました。
 人によっては多くの中国人に共通しているこうした親切さには「必ず何か打算がある」と言います。しかし、僕はこの考えには同意しません。ビジネスにおける関係ならいざ知らず、学生同士の関係で、しかも遠く離れたところに住んでいる以上、リターンが得られる保証など何もないからです。
 僕はこれは中国の一つの文化なのだと思います。そして、これは前回描いた中国人の負の面とは違ったもう一つの一面なのです。
 そうした中国人の一面を改めて見た今回の春節でした。

2001.4.4

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