■ 漢語迷の武漢日記 ■
< 第21回 淘汰される「日本製造」 >
ほぼ一ヶ月に一回のペースで書いてきたこの日記ですが、約三ヶ月もの間、更新せずに来てしまいました。大きな理由は『日中ホンネで大討論!』という新しいHPの作成にとりかかったことです。
僕が中国に来てから二年余りになりますが、その間日中双方の間にいかに多くの誤解があるかということを強く感じてきました。これはどちらか一方だけの問題ではなく、双方の問題だと思っています。
教科書問題や靖国神社参拝問題などがおこり、日中の関係が悪化している今、何とかこうした双方の誤解を解く方法はないかと考えたとき、思いついたのがこの『日中ホンネで大討論!』の作成でした。
これは、翻訳を通じて言語の壁を超え、日中であらゆる問題を討論するというHPです。
詳しくは以下のURLを見ていただければと思います。http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Icho/5018/
さて、今日の本題に入りましょう。
最近ある中国の経済学者の書いた文章を読みました。それによると、日本の企業は国内で時代遅れになった三流の商品を中国で売っている。一方、欧米の企業は国内と同様の一流の商品を売っている。その結果、例えば携帯電話などの分野で松下などの日本企業はシェアをどんどん欧米の企業に奪われていると言うのです。
このようにこの経済学者が言うとき、単に客観的に現状を分析しているというより、「日本は中国を馬鹿にするからこういうことになるんだ」という感情が文章の至るところに見え隠れしています。
僕が中国人と話していても、大学生からタクシーの運転手まで「日本は中国に三流の商品を売りつけている」というふうに言う人が数多くいます。
実は、中国で「日本製造」(中国語でメイド・イン・ジャパン)と言えば、質のいい商品の代名詞という面もあります。しかし、そういう意識が強いだけに、なおさら「三流の商品を売っている」となると、民族感情もからんで「許せない」という気持ちになるようです。
今年に入ってから中国人の「日本製造」に対するこうした感情をさらに激化させるような事件が相次ぎました。
一つは三菱パジェロの事件。これは日本でも問題になったものですが、ブレーキ部分の欠陥によって中国でも事故が相次ぎました。その後の三菱の対応も非常に緩慢なものでした。このときの中国側の多くの受け止め方は決して「三菱自動車」という一つの会社の問題としてではなく、「日本人は中国人を馬鹿にしているゆえにこんな欠陥車を売りつけるし、賠償もしない」というものでした。人気のドキュメント・ニュース番組「東方時空」の司会者も「また日本が私たちの民族感情を傷つけました」という言い方をしていました。パジェロの問題を最初に訴えた人は英雄のように扱われていました。
二つ目は東芝のノートパソコン問題です。もともとはフロッピーディスクの一部に欠陥がある(実際に問題がおこる可能性は極めてわずかと言われています)ということでアメリカで訴訟があり、東芝側が1100億円を払うことで和解が成立してのですが、その後「ならば中国に対しても賠償すべきだ」ということで同様の訴訟が起きました。ところが東芝側は「賠償の必要はない」という姿勢を取りました。このため、中国では「日本人はアメリカ人と中国人を差別している」という世論が巻き起こりました。
三つ目は、これは商品ではなくサービスになりますが、日航事件というのがありました。これは、北京発東京行きの飛行機が天候悪化のため大阪に臨時に着陸した後、中国人のみが寒いロビーでまる一日留め置かれ、食べ物も長時間経たあとわずかに与えられただけだった、という事件です。この事件も賠償請求にまで発展しました。
その他にも松下の携帯や日産の自動車の問題もありました。これらは比較的対応が早かったため、それほど大きな問題にはならなかったようですが、いずれにしてもこうした問題が起こると中国ではいち早く報道されます。
これらの事件を見て、僕が思うことがいくつかあります。
一つはこれらの問題全てを「中国対日本」という構図でとりあげ、民族感情を煽るような中国のマスコミの報道の仕方にはやや違和感を感じるということです。例えば三菱パジェロの問題で言えば、国内においても問題を隠しつづけていたわけで、この十年間次々と露わになったきた、日本の政府・企業に共通する「隠し病」こそが問題の根であり、必ずしも中国に対する差別が原因とは言えないと思います。
また、これらの事件について、それぞれの事件について細かく見ていけば、中国側の言い分が全て正しいとは限らないとも思います。
最初に挙げた、「日本企業は中国で三流の商品、時代遅れの商品を売っている」ということにしても、日本企業が欧米企業に比べると、型落ちした商品を売っているというのは事実のようですが、それはあくまで市場戦略の違いであって、このこと自体を中国人を蔑視しているからだ、と考えるのは、筋違いのような気がします。なぜなら、日本企業も目的は最大利潤であり、最先端の商品が中国でも売れるとなれば、売るに決まっているからです。この辺にも、民族問題ではない問題までも、民族問題として見ようとする中国の傾向が現れていると思います。
しかしその一方で、日本側が中国をあまり重視していない、軽く見ているということも否定できないと思います。実際、今回これらの問題に対する日本側の反応を見るためにヤフーで検索してみましたが、どの項目もわずか数件しかヒットしませんでした。これらの事件についての日本側の言い分すらよく分かりませんでした。このことは、中国側ではこんなに大騒ぎされている事件が日本では大したこととは思われていない、ほとんど伝わっていないことを意味しています。
今、中国では消費者の権利意識と言うものが急速に高まってきています。『今日説法』という人気の法律番組でも頻繁に消費者の権利の問題が取り上げられています。 また経済発展に伴い、広範な「中産階級」が形成されてきており、彼らの商品やサービスに対する要求も以前よりずっと高まってきています。こうした変化を、日本側は甘く見ているのではないでしょうか。
中国側の言い分にも誤った部分があるかもしれません。しかし、どちらにせよ、彼らの怒りに誠実に対応していかなければ「日本は中国を馬鹿にしている」「日本は三流のものを売りつけている」という印象がどんどん広まっていくだけでしょう。実際、先ほども述べたとおり、かつての「日本製品は質がいい」という印象は中国ではどんどん薄れてきており、「日本製造」は市場から淘汰されつつあるのです。
中国がWTOに加盟した今、日本と中国の関係は経済面でもますます密接になっていくでしょう。そんな時、短期的な損得だけで問題に対処していくなら、結局損をするのは日本自身ではないでしょうか。2001.12.17
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