[ケース1]
28才女性はグラフィックデザイナー。仕事柄、毎日の生活が不 規則で、食事の取り方も、3度の食事をとることはまれで、普通は1日に2度、忙しいと
きは1日に1度、それも喫茶店から取り寄せたコーヒーとサンドイッチですませてしまう。
そんな日々を送りながら彼女はダイエットを意識し始める。体重は43kgでそれほど肥
えてはいないのに「やせないといけない」「やせよう」と強く思いだし、やせることに取
り組み始めたのである。2度の食事が1度になり、その1度の食事がコーヒー1杯、野菜
ジュース1杯となった。これはもう食事とは言えず、水分を補給しているだけである。
彼女は日に日にやせていき、体重は37kgになり、35kgになり、とうとう30kgを割 り込んでしまった。29kgになった彼女の身体に異変が目立ち始めた。生理がなくなり、 虫歯が増え、脱毛が激しくなった。虫歯や脱毛は、歯や毛髪に栄養分がいかない栄養失調
のためである。
本人は「普通に食事をとっているんですが、どんどんやせていくんです」と言ってケロ
っとしているが、彼女は29kgになって仕事ができなくなり、それどころか自分を支えら
れなくなった。見るに見かねた親が、嫌がる本人を説き伏せてある内科に入院させたのだ
が、一向に良くなる気配もなく、そこを退院して心療内科の私のところへやってきたので
ある。
私は、身体的な検査をさまざまに行うと同時に、心理テストを実施した。その結果、彼女が強いうつ状態にあることが分かった。意識の底に何か大きな不満を抱いているようだった。
私は彼女に職場と家庭での状態について聞いてみた。彼女がなぜ拒食症に陥ったか、原因を把握することが大切だからである。
職場での彼女は、仕事柄まず不規則な生活、それに男性と対等な仕事を任され、「がんばり屋の性格」で、バリバリ仕事をこなしていた。一方、家庭では彼女は妹と仲が悪く、ケンカばかりしていたという。ケンカをすると母親が介入して
きてうるさく言う。また、彼女がやせてくると、妹と母親は「食べないと行けない」と口うるさく、夜も寝られないほどだった。
私は母親に、「姉妹のけんかの中へ入ってはいけません。二人の問題に、親がヤイヤイ言うのはよくありません」と忠告した。 |