黒川順夫の心療内科  

摂食障害 (過食症)

  拒食症と並んで最近、急速に若い女性に増えてきている摂食障害のひとつに神経性過食症、いわゆる過食症がある。過食症も拒食症と同じく強い「やせ願望」からスタートしているが、やせることに失敗し、食べずにダイエットに取り組んだ反動から食べすぎるようになり、それでもなおやせたいので食べた物を吐いたりするのである。

 拒食症の場合は、ガリガリにやせているのでわかるが、過食症の人は見た目に異常がないので周囲の者には本人が発病しているかどうかの見分けがつきにくい。
 しかし、過食症の患者は、われわれが想像するよりもはるかに大量の食べ物を食べ、吐いているのである。両手で抱えきれないほどの菓子パンを買ってきて自分の部屋でこっそり食べたり、ひとり暮らしの女性がカレーライスを5杯食べるというケースや、パスタを7人前食べるという食行動は驚くべきものがある。
 そして食べるだけでなく自分の口の中に指などをつっこんで食べたものを吐いたり下剤や利尿剤を使って体外に出そうとする。

 23歳のOL。最初、彼女が私のところへ診察を受けにきて初めて彼女の食行動についての話を聞いたとき、やはり驚いてしまった。彼女は160cm、56kg。昼食に親子丼を5杯、ショートケーキを10個食べるという。もちろん、そんなところを同僚に知られたくないので、昼食にはひとりで出掛け、1軒の店で注文するわけにいかないので、次々に店を変える。
 カウンセリングするうちに分かってきたことだが、彼女の過食症は高校生のころから始まっていた。お菓子を山のように買ってきて引き出しに入れておき、親に隠れて食べていたらしい。何度か親にみつかり、「こんなものを食べてばかりいてはダメ!」と厳しく叱られるが止められなかったという。

 私は、彼女の母親に、子供に対する接し方をアドバイスした。その結果、口うるさかった母親は態度を改め、おおらかな気持ちで娘と接するようになった。
 また、同じ職場男性から「君のそのポッチャリしたところが好き」とプロポーズされたことがきっかけになり病気が治っていったのである。

 拒食症や過食症になって私のところに治療に訪れる患者にカウンセリングを施してわかることは、発症の原因にいびつな親子関係があるということだ。患者たちが共通して口にすることは「事あるごとに親がやいやい言う」とか「親が勝手に私の部屋に入って、引き出しを開けたり、カバンを開けたりする。それがいやでいやでたまらない」といったことである。

 私はこれまで多くの摂食障害の患者の治療にあたってきたが、ゆがんだ親子関係を是正することによって患者の病状が快方にむかったという症例はいくつもある。拒食症も過食症も患者自身のカウンセリングや治療も大切だが、あわせて親の子供に対する接し方や態度のいかんによって、悪くなったりすることもあるので、これを改善することも重要です。

 そんな理由から私は「摂食障害家族の会」というのをもっており、親としてのあり方を様々に指導している。それは例えば「親がイライラせずにおおらかな気持ちで子供の病気を見守って下さい」といったことであるが、私のアドバイスを守り、それまでの子供に対する接し方を改めることによって見違えるほど病状が良くなったというケースが無数にある。
 いわば摂食障害の大きな原因のひとつは「心理面のストレス」(それは多分愛情不足といったものなのだが)であるので、患者のそのストレスがなくなっていけばおのずと快方に向かうものである。

  また、ペットの犬を飼うようになって過食症が治ったという患者もいる。心理面での癒しが心身症にいかに大切であるかということがよくわかる。

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