黒川順夫の心療内科 

テスト・高血圧

  私の医院では来院時に2種類の心理テストを行っている。ひとつはSDSといって、うつ状態の有無を調べるもの。もうひとつはエゴグラムといい、人の性格を分析するテストである。いずれも心身症、自律神経失調症、うつ状態などの程度を知るうえで有効なものである。
 患者の心理の傾向や、病気と本人の性格との関係がこの心理テストに浮き彫りにされているケースを紹介しよう。
 180cmを超すがっちりした体格の38才男性は若くして建材会社を興し、支社も数カ所もつところまで育て上げた、なかなかのやり手社長である。取引先や支社を自ら回り、精力的に仕事をこなす毎日であった。
 その彼ががある日、私のところに二人の営業マンを連れてきて「先生、この二人はよく会社を休むんですよ。どこか悪いところがあるかもしれませんので診てやってください」といってきた。
 早速診察した結果、一人は内科的な異常はないものの、SDSテストが少し落ち込んでいることが分かった。離婚問題で悩んでいたものだが、この患者には軽い抗うつ薬を投与し、しばらくして全快した。もう一人は心身ともに健康であった。
 二人の結果は出たが、私は彼の方が気になった。医者としてのある種の”勘”のようなものが働き、「ところで、あなたはどうですか」と受診を勧めてみた。
 彼は自分に限って病気などと不服そうであったが、何か病気を持っていそうな気がした。
 心理テストは予想通り、不安やうつの傾向などみじんもなく、性格も自己主張しながら社会に適応できるタイプだった。ところが、血圧は上が194、下が118と驚くほど高かった。
 社員の健康より彼自身の健康を気遣わなければならない数値である。私は投薬と同時にすぐ入院するように忠告したが、まったく動じる様子はなく、部下と一緒に帰っていった。後日出た血液検査の結果でも、糖尿病と肝機能障害が認められた。
 これだけ悪化していれば、つらくて仕方がないはずなのに、また来るといったきり何日たっても現れず、入院の約束もホゴになった。社員に聞くと、社長は営業所を新設するため広島や福岡を走り回っているとのことだった。
 それから1ヶ月あまり、知らない病院から突然電話がかかってきた。「黒川先生、○○さんという方をご存じでしょうか。その方が脳出血で倒れ、昨夜私どもの病院にかつぎ込まれたのですが、出血部位が大きく、助からないかもしれません」というではないか。幸い命はとりとめ、入院先でリハビリを始めた彼を見舞った。彼は車イスに乗って私の前に姿を現し、「先生の言うことは聞いておくべきですね」といって涙をあふれさせた。

 私の経験から「胃が痛い」「疲れがとれない」などと、くどくど訴えて頻繁に来院する人は心理的にも身体的にも過敏で、そのかわりに内科的疾患を患っていることは少ないといえる。
 彼の性格は、心理的テストでは、自己主張しながら社会に適応できるパターンと出た。しかし、心理的に安定しているほど、身体的には鈍感で、身体が危険な状態であっても自覚症状がない場合が多いのである。忙しさにまぎれて、喜怒哀楽や痛みすら感じなくなる。ますますその忙しさに過剰対応していくタイプの人が陥りやすい。これこそ本当の心身症だと考えている。

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