黒川順夫の心療内科  

胃・十二指腸潰瘍

  空腹時に「みぞおち」のあたりが痛むといって診察に訪れる人はけっこう多い。みぞおちの痛みは、胆石・膵炎(すいえん)などが原因で起こる場合もあるが、胃潰瘍(いかいよう)や十二指腸潰瘍などの場合が多い。この胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)を引き起こす原因のひとつにストレスが挙げられる。

 潰瘍とは、胃や十二指腸の粘膜が壊され、粘膜の下の組繊が表面に出てきた状態を言うが、ひどくなると穿孔(せんこう)といって穴があいたり大出血を引き起こす場合もある。胃・十二指腸潰瘍も、過敏性腸症候群(IBS)と並んで消化器系の心身症のひとつとして心療内科で扱う病気である。

 私たちは日々、食事をして食物の栄養を吸収し生命を維持している。普通、食べ物は口からノドを通り、食道から胃に入る。そこで消化され、十二指腸に至り、小腸でさらに消化される。その後人腸から直腸を通り、便として排せつされる。
 胃は食べ物を消化するために塩酸を分泌し、食べ物を溶かす働きをする。この塩酸を攻撃因子と呼んでいる。一方で、胃には粘液があり、これが胃の粘膜を守る役割をする。これを防御因子と呼んでいる。攻撃因子と防御因子のバランスが崩れたときに、胃潰瘍や十二指腸潰瘍が起こると言われている。胃潰瘍は小湾(わん)という小さなくびれの部分に、十二指腸潰瘍は十二指腸球部という部分にできやすい。

 胃・十二指腸潰瘍は強度の緊張の連続や精神的ストレスが原因のひとつだが、私のところへやって来る患者で職場でのストレスが原因で10年間に8回も十二指腸潰瘍を繰り返した例がある。

 28歳男性は、ある電子部品メーカーに勤務している。若いころからその会社に勤め、品質管理をする部署で10年間働いてきた。仕事ぶりはまじめで与えられた什事をこなしてきた。
 彼が私のところへ治療にやって来て、私は彼の病気の原因が身体的原因のみで発症しているのではなく、何か心理社会的なものが複雑にからみあっているのではないかとみて治療にあたった。

 文化人類学者の川喜多二郎氏が説いている分類方法「KJ法」を医学に応用し、彼の病気の原因を探った。これは、患者に原因となるものを思い出すままにカードに書かせ、カードの似たもの同士を集めてグループをつくりまとめあげる方法で、病気がどのような心理的状態で発症しているか、あるいは複数の原因 がからみあっていることが心理テストで患者の心の状態をみる以上によく分かる のである。

 電子部品メーカーで品質管理の仕事をしている彼の職場でのプレッシャー(外因)は次のようなものだった。「意図的に直属の上司にしごかれる(物理的に無理を要求される)「無理をしなければ上からの要求にこたえられない」「研修、レクリエーション、妻の病気の世話が重なった」「品質管理のため常に気を使う」などが、彼の書いたカードから分かった。
 そんな外因から、様々な症状が出てくる。「頭痛感」「憂うつ」「不安」「薬に依存」などである。彼の性格は「責任感が強い」「きちょう面すぎる」「人目を気にする」「ノーと言えない」といった点が目立っていた。余裕のない状態で無理をするといった行動は”過剰適応”という心身症の特徴である。
 私は彼に一般内科的な投薬をしつつ、彼の十二指腸潰瘍の原因となっている心理面のストレスを取り除く処置を施した。過剰適応の是正や性格的な問題に関するカウンセリング、自律訓練法によるリラックス方法の指導などであるが、その結果、彼の潰瘍は日増しに良くなり、その後、再発しなくなった。

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