黒川順夫の心療内科  

 「つば」が出てきて気になる


㈱保健同人社「暮らしと健康」Q&A 掲載分

質 問
21才の男性ですが、つばがすぐに出て来るんです。
つばの事を考えてしまうから出て来るのだとは思うのですが、人の前や集まりなどの所へ行くとつばが出て来ます。別に何かを食べているんじゃないのに。出て来るなと思うとまた出てきてしまう。ただ集中力がないだけかも知れませんが。もう3年ぐらい悩んでいます。職場の仲間とかとはよく会話とかするのですが、このために、なにかふっきれないところがあって、そしてうつむきがちになってしまいます。
子供のころは、つばが出てきて集中できないとか、眠れないとかごくごくたまにありましたけど今を思うほどでは全然ありません。この「つば」について嫌な感じがするようになったのが高校のときからです。教室で女の子と席が隣になります。その女の子に(女の子ではなくても誰でもいいんですが)つぱを飲むゴックンていうのを聞かれたくない、聞かれたくないと思えば思うほど「つば」が出てきてゴックンと飲んでしまったのを覚えています。女の子にしても誰でも何も言ってこないのですが僕はなんか嫌な感じがしました。人の前や集まり所では、僕が「つば」を飲むと周りも影響されてか分からないけれど「つば」を飲み込んでいました。やっぱり考えないようにしたらいいのか、僕の考え過ぎなのか、アドバイスを下さい。

回 答
 お困りのご様子よく分かりました。
 これは対人恐怖症の一つです。対人恐怖症とは、人が怖いのではなくて、人に自分の欠点が知られて嫌われるのではないかとビクビクしている状態なのです。名前の付け方が悪いので、むしろ根本的には、極めて人に好かれたがりなのです。そのため自分の心身に極度に敏感になっている訳です。赤面恐怖症の人は顔が赤くなることで、過敏性腸症候群の人の一部はお腹がグーッと鳴ることを人に知られて嫌われるのではないかと思っているのです。また、字を書くときふるえること(書痙)、何度も小便に行くこと(神経性頻尿)、人前で話すときに汗が出ること(発汗恐怖)など様々なことに対して敏感で、気にするところが違うだけなのです。先日来院された女性の患者さんは、自分の腕の血管が人以上にはっきり出ているのが恥ずかしいので、夏でも長袖を着ているということでした(血管表出恐怖?とでもいいましょうか)。
 さて、あなたの「つば飲み込み恐怖症?」も今まで述べてきました例と似たものであることが分かって来られたものと思います。少しでも気にする傾向の人であれば、多少ともあなたと同じような経験はあるものです。例えばクラシックなどを聴きに行って周囲が物音ひとつしていない場面であれば、自分のつばを飲み込む音も周囲に聞こえるのではないかと神経を使ってしまうものですが、誰にでもあるものと思って、演奏会が終わると大抵の人は心が流れて気にしていたことすら忘れてしまうものです。ところが、あなたのように心が流れない人はそのことに「とらわれ」て、それから逃れようとすればする程、よけいに「とらわれ」がひどくなり、どうしようもなくなるのです。
 森田正馬(1874~1938)先生は、あなたのようにとらわれやすい人を神経質(森田神経質)ととらえ、日本独特の森田療法を考案されました。森田神経質の特徴は、よりよく生きようとする欲望(生の欲望)が人一倍強く、そのため自分の心身の状態や変調などに敏感に反応する傾向(ヒポコンドリ性基調)があります。そして誰にでもある生理現象などにとらわれてしまうのです。
 あなたの場合ならつばが出ることが気になることです。さらにその生理現象(つばが出ること)を自らなくそうと思えば思うほど、ますますつばのことに敏感になり実際つばが出てくるのです(精神交互作用)。そこで森田先生は「あるがまま」という心境になることが大切であると述べておられます。詳細は森田療法の本を読んで頂きたいですが、簡単に言いますと次のようになります。つばのことが気になるままで、症状を取ろうとするのではなくそのままで必要なことをやっていくのです。ラジオを聴きながら勉強する人があるように、ラジオのスイッチを切る努力をせず、つばのことも考えながら勉強や仕事をするのです。すなわち、森田療法ではイヤイヤながら、気になりながら、自分に必要なことを細々とでも実行して行くことが大切なのです。これには訓練が必要ですからどうしても実行できなければ森田療法を受ける必要があります。また対人恐怖症については、自分で独り相撲をしていることが多いですから、人に勇気を出して告白してみることです。特につばの音を聞いたと思われる人に確かめると同時にどのように感じたかを聞いてみることです。大概の場合、あなたの予想に反して気づいていないことが多く、気づいていたとしてもあなたが思うほど嫌っていないということが分かるでしょう。またあなた自身、つばを飲み込む音を聞かれた位で、自分を評価してしまう位の未熟さから脱皮して生の欲望の強さや感受性の鋭さを長所として認識し、それを充分に発揮して生きる道があることに気づき、模索することがなにより大切です。

次へ 戻る カルテリストへ  ホームへ TOPへ