黒川順夫の心療内科  

慢性関節リウマチ (2)
 ◇仕事場で、家庭で、針のムシロ

 慢性関節リウマチは、膝や肘(ひじ)の関節がこわばり痛みが走る。ひどくなると、体全体がこわばり歩行すら困難になってくる。もちろん痛みもひどい。
 この病気は中年女性に多い。昔からある病気だが、原因がもうひとつはっきりしなかった。ところが最近になって心理的なストレスが原因のひとつであるとの見方が有力になってきて、心療内科で診るようになってきた。慢性関節リウマチのすべてが心因性のものとは言い切れないが、心身症の場合が多いことを症例が物語っている。

 45歳の主婦は冬のある日、痛む足を引きずるようにして私の医院へやって来た。数年前、慢性関節リウマチと診断され、大きな病院で注射や薬による治療を受けてきたが、いっこうによくなる気配はなく、薬の副作用か、足はむくみ、右肘は曲がって、もう伸ばすこともできない状態になっていた。痛みがひどいので、話し声すら小さく弱々しかった。

 初診時の検査の結果、赤沈が100と亢進(こうしん)しており、リウマチ反応も強い陽性を示した。内科的検査に加え、私の医院では、エゴグラムという性格を分析するテストSDSといううつ状態を調べるテストを実施しているが、その結果、Bさんは「自分の気持ちを抑えるタイプ」の性格で、心理状態は「落ち込む傾向にある」ことが分かった。
 私にはBさんの病気が何か心理面に大き原因があると思われたので、さらに詳しく彼女の話を聞いてみることにした。彼女がポッリポッリと語った内容は次のようなものだった。

 彼女が病院で慢性関節リウマチと診断されたのは、夫の両親と同居し始めて数ヶ月後のことだったという。しゅうとはある会社を経営しており、彼女はそこへ働きに出ていた。き帳面で過敏、不安に陥りやすいBさんは朝早くから夜遅くまで仕事をこなし、帰宅すると、家には厳格で小うるさい姑が待っており、何やかやと小言を言う。彼女は針のムシロだった。そのうえ、夫と両親がある宗教にのめりこみ、彼女にも信仰を押しつけてくる。彼女は姑から言われることがイヤでたまらなかったという。彼女の中では姑に対する怒りの気持ちがうっ積し、それがさらにリウマチを悪化させた。
 私は彼女の夫と姑を呼び、症状がかなり悪化していること、そして心理的な問題が大きな原因のひとつであることを説明した。夫と姑は理解しがたいといった受け止め方だったが、何度も説明を繰り返して、ようやく両親と別居、会社で働くことも一時休止との方向で同意を得た。
 私は抗リウマチ剤の種類を変え、抗不安剤を併用する一方で、彼女の精神面のストレスを発散させるため、心理療法を始めた。

 発散療法がそのひとつで、二つのいすを用意し、一方に彼女を座らせ、もう一方は空ける。空いたいすに姑が座っているとみたて、対話をさせる。話の中身は、日ごろ言いたくても言えないようなことだ。ときにはいすを新聞紙でたたかせたり叫ばせたりもする。
 彼女の症状は、姑との間で何かが起こるたびに悪化したが、この発散療法を行うとうんとよくなる。

 絵画療法という心理療法も行った。思うままに患者に絵を描いてもらい、病状と心理状態を見ていこうというものだが、最初彼女が描いた絵は、楽しそうにおしゃべりをしながら家路につく同僚たちに、足が痛くて歩けず、ひとり残されている自分を黒一色で描いた。しかし、症状が快方に向かうと、明るい色彩の花畑などを描くようになった。

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