黒川順夫の心療内科  

うつ病、抑うつ状態へのヨーガ療法

 『メルク・マニュアル』(http://merckmanual.jp/)によると、「うつ病性障害は,機能が妨げられるほど重症の,または持続的な悲しみと,ときに活動への関心や喜びが低下することにより特徴づけられる。正確な原因は不明だが,おそらくは遺伝,神経伝達物質濃度の変化,神経内分泌機能の変化,および心理社会的要因が関与すると思われる。 診断は病歴に基づいて行う。治療は通常,薬物療法,精神療法,またはその両方と,場合によっては電気痙攣療法からなる」とあります。また、「小児および青少年における抑うつ性障害は,日常への干渉や相当程度の苦悩を発生させるに十分な重度または持続する悲しみあるいは過敏性から構成される,広汎かつ異常な気分状態として特徴づけられる。様々な活動における興味または喜びの減少は,気分障害と同程度か場合によってはより顕著であることすらある。診断は病歴および診察による。治療は,抗うつ薬もしくは心理療法またはその両方である」とあります。いずれにおいても、心理社会的要因の関与が大きく、治療においては、薬物療法が第1選択とされていますが、近年では認知行動療法等の心理療法を併用することが多くなってきており、その効果についてのエヴィデンスも多数出ています。特に、薬物に反応しない場合、その重要性が高まっています。
 これらうつ病や抑うつ状態を呈する患者さんの身体的特徴は、筋骨格系での著しい硬直、いわゆる重度の肩こり、浅くて速い呼吸、さらに、近年の脳科学の発展から、脳の前頭前野における血流が減少していることなどが認められています。また、心理面では、思い込みによる偏ったマイナス思考である認知の歪みが認められています。この場合、不安感も併発していることがほとんどです。
 このような状態に対して、ヨーガ療法は、不安感への対処とほぼ同様のアプローチで臨みます。
 
 ⇒ アーサナ(座法)、プラーナーヤーマ(呼吸法)、イメージ等による身体的リラクセーション体験を作り出す(食物鞘、生気鞘)
    →忘れていた心地よさの再体験
    →自律神経の安定による症状緩和
    →大脳前頭前野の血流改善、脳機能の改善
    →暴走する思考のスローダウン
    →身体リズムの安定
 ⇒「今ここ」の客観視(意思鞘、理智鞘)
    →思考の制御(理智鞘)、感情・感覚の制御(意思鞘)
    →大脳前頭前野の血流改善、脳機能の改善
    →心の落ち着きと静けさの体験
          ⇒自分で作り出すことで、セルフ・コントロール力が強まる
 ⇒ 抑うつ感を作り出す認知の修正を目指す(理智鞘)
 
【症例Gさん】
 30代男性、建築技師。この症例は、職場でのトラブルを機に抑うつ状態を呈し、心理療法としてのヨーガ療法が著効を示したうつ病患者さんの症例です。家族にうつ病歴あり。客とのトラブル、後輩指導の不調を機に、抑うつ状態を呈し始め、他院での薬物療法を受けたが好転せず、当院を受診。薬物療法が開始されましたが、その後も不調が続き、休職。身体的疲弊が顕著であったため、ヨーガ療法開始。個人セッションとグループでの座法・呼吸法中心のグループに参加しつつ、ヨーガ療法カウンセリングも実施。グループ参加直後からリラクセーションが生じ、改善傾向が見られました。ヨーガ療法グループ17回、ヨーガ療法カウンセリング11回を受け、カウンセリングとグループ中の心理教育で、一人で抱え込まずに相談すること、結果への執着から離れ、まず行動することなどを学び、認知の修正が見られました。その後、症状の大幅改善から、復職。

【Sさん】
 40代女性、主婦。パート勤務開始後、勤務時間が延びるにつれ、家事が滞るようになり、抑うつ状態を呈するようになりました。他院の薬物療法での改善なく、別の精神科クリニックに転院。その後、森田療法を受けたいということで、当院に転院。家族関係でのストレスが強く、気に入られようとする性格傾向が顕著で、著しい思考の暴走が認められ、心理社会的要因の大きさが認められました。SSRIによる薬物療法が開始され、森田療法実践の会であるタンブラーの会に1回参加。その後、ヨーガ療法が開始されました。4年間に、呼吸法を中心としたグループに60回以上、座法を中心としたグループに70回以上熱心に参加し、ヨーガ療法カウンセリングを120回以上受けました。その間に、座法・呼吸法による身体面での柔軟性向上、筋力強化、血流改善がなされ、冷えの改善、腰痛・坐骨神経痛の改善が見られました。また、ヨーガ療法カウンセリングの中で、自身の認知的特徴を自覚し、対人関係上の行動改善が行なわれました。そして、グループ内での心理教育と理論学習から、カルマ・ヨーガの教えについて学び、無執着の行動を身につけていき、うつ状態も改善されていきました。その後、復職し、8時間勤務もこなせるようになり、夫の失業といった家族の問題を抱えながらも元気に暮らせるようになりました。

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