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中国における天文観測の歴史は非常に古く、周王朝(前1100~前256)に始まる。五惑星(木星・火星・土星・金星・水星)の観測も行われたが、火星は特別な存在として意識されるようになる。地上から肉眼ではっきりと見える火星の赤さが、人々に火星を五星の中でも特殊な惑星、不気味な惑星としての印象を抱かせたのであろう。しかし、より大きな原因は、火星の運行が不規則であり、天体観測に際して予期せぬ動きをすることである。このような理由から、火星は神秘性を付与され、時代が下がるにつれて不気味で不吉な惑星としてのイメージが定着する。 ところで、中国では知識人が意図的に作ったと考えられる「民謡」や「童謡」、あるいは「民歌」「児歌」(いずれも意図するところは同じであるため、時代が下がるにつれて「童謡」に一本化する)などが巷で大流行したことが、その歌詞とともに歴史書に記録される。そして、流行していた当初は歌詞の意味がわからなかったのだが、何年か後(時に何十年後)、政治事件が発生したり動乱が勃発したりして初めてその意味が理解されたというのである。まさにそれらは「予言の歌」(「予言」とは言わないが)として、『史記』以下、歴代の正史に記録されている。
さて、万物が木・火・土・金・水の五元素から成るとする五行思想では、五行の二は火星、五事の二は言。また陰陽二元論では火も子供も共に「陽」。童謡が火星と結びつくのは、陰陽五行思想からすれば当然の帰結ということになる。そして火星の擬人化が生まれ、火星の精が童児となって地上に舞い降り、天の意志を伝えようとして歌うもの、これが童謡ということになる。しかも、この火星観は2世紀末から3世紀初めにはほぼ定着していた。
これは三国・呉の景帝孫休の永安三年(260)、火星から降りて来た男児が、「三公、司馬に帰さん」と子供達に告げ、再び天に登って行ったという話で、「三公」、すなわち魏・呉・蜀の三国はいずれ司馬氏に帰属するであろうという託宣となっている。この話は歴史書である『晋書』や『宋書』では、「詩妖」として採録されている。 太古、戦乱や不幸をもたらす不吉の惑星であった火星は、ここに国家の興亡を予言する神秘な惑星となった。しかし、その予言は決して破壊的なものではなく、火星の精が童児を遣わして、時に現実政治を鋭く批判し、時に社会の動向を暗示する童謡である。
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