22番勝負 森脇真末味・誠実であること


好きなまんが家さんはたくさんいても、尊敬するまんが家さんとなると、いくらまんがバカでも(まんがバカだからこそ?)そう多くはないでしょう。私の場合、それは森脇真末味さんです。

どうして森脇さんを尊敬してしまうのでしょう。作品が面白いから?それもあります。絵がうまいから?それも勿論あります。しかし私が最も心を動かされるのは、森脇さんの「表現」というものに対する真摯な姿勢です。作品を読み、その姿勢を目の当たりにする時、私はいつも感動してしまいます。そして「ああ、森脇さんに会えてよかった!」とまんがの神様に感謝するのです。いやホントに。

絵について

森脇さんの絵のうまさについては既に言われつくされてるとは思いますが、やはり言わずにはいられません。それぐらいこの方の絵はうまいです。「ぱふ」81年12月号のインタビューで、森脇さんは絵について以下のように語っていらっしゃいます。ちょっと長いですが、森脇さんの絵に対するこだわりと、魅力を解くカギになると思いますので、引用させていただきます。


「少女まんがは特に、まんがからまんがを学ぶでしょ。まんがを描いてる人の絵を見て、その絵から自分流のデフォルメをすると。最初ものまねで、次にデフォルメをする。つまり、すでにデフォルメされた絵をデフォルメしていく。だからいつまでたっても、基本が歯が欠けたようにない。それで、たまたままんが以外のものをやっていた人がまんがを描くと、妙にカッコ良かったりするのは、その繰り返されてる妙なパターンから抜け落ちてるからなんだよね。美術なんかでデッサンしてて、自分なりのデフォルメをそこから作っていくと。絵が変わるでしょ。その程度じゃないですか、私のもきっと。そんなに模倣はしなかったし。どっちかっていうと、絵を描いてる時間の方が長かったはずだから、今までにね。昔の絵の方がリアルでしょ。そこから徐々に自分でデフォルメしていったわけでしょ、だから良さそうに見えたりするんじゃないですか。」


「その程度じゃないですか」なんてあっさりおっしゃってますが、その程度のことが出来ていない描き手がどれだけたくさんいることか(と言うか大部分の描き手は出来ていないと思う)。つまり森脇さんの絵の魅力はそこなのです。誰にも似ていない、誰の模倣でもないオリジナルの絵。余計な装飾がないので、一見地味に見えるかもしれませんが、シンプルで力強くてリアルな線。デッサンをきっちりやってきた人特有の、服の上からでもその下の骨格が感じられる絵なのです。

体型の描き分けの細かさを見れば、そのことがよくわかります。大部分の描き手は、大まかに言って背が高いか・低いか、太ってるか・やせてるかぐらいの描き分け方ですが、森脇さんの場合ははるかに細かいです。

例えば「緑茶夢」の水野と豊田さんと大城さんは同じ「背の高いキャラ」ですが、3人とも微妙に体型が違います。大学生の水野は、決してやせてはいませんがどこか線が細く、生活に困ったことはなさそうな感じの体つきですし、肉体労働をしている豊田さんは胸板が厚くて肩幅も広くて筋肉質だし、苦労人っぽい大城さんはやせているようでいて実は意外と腕がたくましかったりして、やはり力仕事のバイトをしてるのかなと思わせたりします。

また同じ「緑茶夢」の安部弘は、顔は子どもなのに手足だけが妙に長くて細い、少年期と青年期の中間の、成長過程にあるような独特の体型で、そのアンバランスさが弘の内面の不安定さも表しているようでした。

つまり各キャラクターの背景や内面まで考えて体型を描き分けているわけで、体型どころか顔の描き分けすらできていないまんが家さんも多い中、このこだわりは感動的ですらあります。「ぱふ」のインタビューで、1人のキャラに1冊ずつスケッチブックがあるという噂がありますが、と聞かれたのに対し、「1人1冊ってのはデマだな。でもやりたい」と答えてらっしゃいますし。エライ!

顔の描き方も独特で、記号に頼っていないところが素晴らしいです。例えば「Blue Moon」シリーズの英一は美形という設定ですが、別に目が大きいわけでも、まつげがバサバサなわけでも、長い前髪をしょっちゅうかきあげてるわけでもないんですよね(笑。これまた少女まんが史上ナンバーワンの「素っ気ない髪型の美形」だと思う)。でもちゃんと美形に見えるし、どこか色っぽくすらあります。つまり大きな目・長いまつげといった記号ではなく、顔の輪郭、眉、鼻筋、唇といったもの全てをあわせた結果としての美形を描いているのです。確かに現実の美形というのは、部品ではなく顔全体のバランスで決まるものですが、それをまんがでやってみせた人は少ないのではないでしょうか。

また動きのある絵を描くのもお上手です。「緑茶夢」3巻P62の大城さんがギターをひくシーンや、「おんなのこ物語」1巻P121で仲尾が「ステッカー!」と叫ぶシーン、同じく2巻P126の八角がドラムをたたくシーンなど、ポーズの付け方、場面の切り取り方が絶妙です。どんなに絵がうまくても、動きが感じられなければまんがとしては失格ですが、その点も森脇さんは軽々とクリアしていらっしゃいます。ああ、つい敬語になってしまう(笑)。

最近の絵柄は非常に洒脱な、いい意味でアクの抜けた感じの絵柄になっていて、これもまたいいですねえ。特定の絵柄に落ち着こうとするのではなく、常に自分にとって新しい絵を描こうとしているところが素晴らしいです。

物語について

なんと言っても心理描写の深さでしょう。人間を見る目の確かさ、鋭さが感じられます。「緑茶夢」の弘と水野、「おんなのこ物語」の八角と仲尾、「Blue Moon」の英一と英二、「ゴドレイの恋人」のゴドレイとロイなど、森脇さんの作品には対照的な2人組がよく登場します。この2人を軸にして物語が展開していく、というのがひとつのパターンですが、主人公と対になる人物を登場させることで、よりその主人公の(ひいては相手の)内面を深く描くことに成功しています。

キャラクター造形の緻密さにも圧倒されます。キャラクターの名前を姓名判断でつけたり、家庭環境や生い立ちなど、ストーリー上は直接出てこないところまで細かく設定されているそうです。また脇役の一人一人までしっかり描かれていて、存在感があります。なんでも「気に入らない脇役の登場する全ページを切りばりして人物をさしかえたことがある」とのことですが(ひええ〜)、そのこだわりが作品全体に奥行きを与えていると思います。

そしてビシビシと決まる無駄のないセリフ。また何一つ奇をてらったところがないのに面白いストーリー。大きな仕掛けで読者を驚かせるのは誰にでも出来ることですが、細かいエピソードを積み重ねていくことで少しずつ盛り上がっていき、やがて感動的なラストへ向かうというのは、本当に実力がある人でなければ出来ないことです。そしてその背景には、まんがだけでなく、音楽、映画、小説などについての幅広い教養が感じられます。

まとめ

はじめの話に戻りますが、何故私が森脇さんを尊敬してしまうのか?それはこれだけレベルの高い作品を描いていながら、文学に走ろうとしないところです。ちょっと小難しい(でも中身はスカスカの)作品を描いたぐらいでいっぱしの作家顔、アーティスト顔をしているまんが家も多いというのに、森脇さんは常に「少女まんがであろうとしている」(「ぱふ」のインタビューより)。ここが森脇さんのエライところだと思います。

また常に現状に満足することなく、次のステップへと踏み出そうとしているところも素晴らしいです。絵についても勿論ですが、物語についても、「おんなのこ物語」で一度リアリティを突き詰めた後は、「本当なんてたいしておもしろくないよ」と言ってファンタジーにも作品の幅を広げてしまう。この冒険心、飽くなき探求心は、尊敬せずにはいられません。

まんが家に限らず、表現者にとって一番大切なものはなんでしょうか。私は「誠実さ」だと思います。表現そのものや、受け取り手に対する誠実さだけでなく、自分自身の「表現しようとする魂」に対してどこまで誠実であれるかということ。手抜きをせず、妥協をせず、逃げないということ。これを実行している表現者はそう多くはありません。私が森脇さんを尊敬するのは、彼女がその貴重な表現者の1人だと思うからです。(00.1.31)