49番勝負 「南京路に花吹雪」森川久美


81年から83年にかけて「LaLa」に連載された作品です。昭和初期の中国を舞台に、日中戦争を回避するために闘う人々を描いたいわゆる歴史ものですが、そういう知識がなくても楽しめるアクションロマン大作です。当時私は中学生だったのですが、おかげでこの時代に興味を持ち、日本史を熱心に勉強することができました。感謝。

新聞記者の本郷と、元抗日テロリストの黄子満のコンビを中心に話が展開していくのですが、やはりこの作品の魅力は名キャラクター・黄子満によるところが大きいです。日本人と中国人のハーフでどこか謎めいていて影がある、というツボをつく設定ですが、描き方に抑制がきいているため、いかにもフィクションというウソっぽいかっこよさではなく、リアルな人間としての魅力があります。連載当時、日本と中国の間で心を引き裂かれる彼の姿に涙したファンは多かったのではないでしょうか。また周りのキャラクターが絵的に地味な中で彼だけが美形に描かれているため、その美しさが余計に引き立ち(笑)、まるでページの中でキラキラと輝いているように見えたものです。

一方の本郷さんは、黄に比べるとごく普通の人間として描かれていますが、彼に感情移入できるおかげで読者は複雑なストーリーについていくことができるという、物語の案内人的役割も果たしています。またちょっとお人好しで正義感が強いという設定で、ややもすれば殺伐とした雰囲気になりかねないストーリーをやわらげる、作中の良心的存在になっています。

この2人以外のキャラクターも魅力的に描かれています。小此木大佐、蔡文姫、ジョーといった主要なキャラクター以外にも、鬼怒川中尉、胡正平、紅雪美、水上さん、有田さんといった脇役までしっかり丁寧に描かれていて、群像ドラマとしての面白さもあります。またそれぞれのキャラクターに複雑な背景やつながりがあり、作品世界が奥行きのあるものになっています。

勿論アクション、ハードボイルドものとしての面白さもあります。歴史ものの宿命ですが、彼らの闘いがどのような結果になるかは読み手には最初からある程度わかっているわけですが、それでもハラハラドキドキしながら最後まで読んでいくことができます。特にラストにおける敵役のジョーのセリフは、何故彼があのような生き方を選んだのかということと、実は彼がもう1人の黄とも言える存在だったということが、最後の最後になって読み手にわかるという心憎いばかりの演出で、さすがだなあとうならされます。

最初に「知識がなくても楽しめる」と書きましたが、歴史を勉強したり、人生経験をつんだ後で読み返すと、また違った読み方ができて面白いです。青春時代にリアルタイムで読んだ方も、もう一度読み直してみてはいかがでしょうか。

白泉社発行、花とゆめコミックスで全4巻、定価360円でした。古本屋さんで探してみて下さい。白泉社文庫でも全3巻、定価562円で発売中です。またこの物語の前作にあたる「蘇州夜曲」(白泉社発行、花とゆめコミックス)、続編の「Shang−hai 1945」(小学館発行、PFコミックス)もおすすめです。(99.10.18)
                                            

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