23.23.もう一度きれいな歩き方 @

その日の身体の状態によって、精神的な状態によって、歩き方は本当に簡単に変わってしまうものだ。足の運びが軽く、大またで背筋をすっと伸ばして歩くこと自体が気持ち良く感じられる日もある。
逆に、手足の動きが重く固い日は、地面からの振動をうまく吸収できなくて疲れやすく、全体的なバランスも悪くなって身体のあらゆる部分がちくはぐに動いているような感じがしてしまう。

歩くことに意識を集中すると、今現在の自分の身体の状態がわかる。歩くことは全身運動だ。日々キレイに歩こうと努力することはそのまま、身体全体の洗練度を向上させることに繋がっていくだろう。前半の方でも歩き方については述べたが、こうしておわり近くまで来て、また別の角度から述べることができるような気がする。

この第23章だけは特別です

さて、これから読者にある架空の状況を想像していただく。
キレイな歩き方をするため、身体を美しく使うために、非常に有効と思われるある身体イメージを持ってもらう。

そのようなイメージを利用しなくては、説明できない事柄がある。

イメージを使った訓練法はたくさんあるが、そのいったものとはちょっと違う。筆者としては、読むだけで身体感覚が洗練されるような、そんな文章を書きたいと思っているのだが、その一つの試みだと思ってどうかつき合ってもらいたい。いつもより少しだけ気持ちを静かにして、集中して読んでほしい。

これから述べるような状況に、あなた自身が置かれたと想像してもらいたい。実際に身体を動かす必要はない。頭の中で、懸命に身体を操作する自分をイメージしてほしい。
第三者的に一歩引いたところから自分を眺めるように、自分の全体像を一つの映像として思い浮かべてもらってもかまわないし、もっと内的な、自分の感情とか感覚とか視界などに重きを置いてイメージしてくれてもいい。できればその二つを組み合わせて、これから述べる架空の世界の中で、真剣に身体を操作しようと努力してもらえるとありがたい。

よくわからないままで良いので読み進めて

読み始めはなかなか状況をうまく想像できないかもしれない。正確にイメージをつかもうとして、文章の一字一句の意味に意識が行き過ぎたりするかもしれない。
たとえ状況設定がいまいち把握できなくても、どうかあまり気にせず読み進めてほしい。
では始めよう。

『とてもとても広い空間にあなたはいる。
身体の力は程よく抜け、ゆったりとした直立の姿勢をとっている。
そして、落下している。
上から下へ落ちていく自分を想像してほしい。

そこに恐怖はない。
あせりもない。
あまりにも速いスピードで落下しているので、ほとんど無重力に近い状態にある。
気圧のこととか、空気のこととか、そこから見える景色のこととかは今は考えない。

ただ、文字通り「地に足の着かない状態」にある自分を想像してほしい。その状況における身体の感覚を想像していただきたい。

上下の意識を少しだけ残しておいてほしいので、「落下している」という状況を設定した。「宇宙空間における浮遊状態」の方がイメージしやすければそれでもかまわない。
しかしそれは、くるくると身体が回転してしまうような状況ではなく、絵的には、あなたの身体は普通に直立の状態にある。

地に足がついていない感じ。
無重力。
直立。

ここまではイメージできただろうか。

さて、このような状況にあっては、あなたは自分の意思で身体を「横方向に1メートル移動させる」といったことができない。もちろん飛び跳ねることもできないし、水の中を泳ぐようにして移動することもできない。身体全体の位置を変えることはできない。

それは、あなたの筋肉が生み出すエネルギーを、自分以外のものに伝えることができないからだ。外的に力を作用させるための点を持っていないから。
簡単に言えば、あなたの足元に地面がないから。

しかし、身体を動かすことは可能だ。
関節を折り曲げること、手を伸ばすこと、足をバタつかせることはできる。自分の身体に触れることもできる。

このような状況(地に足がついていない感じ・無重力・直立)の中で次のような動きを求められたと想定してもらいたい。

「キレイに歩く。まるでそこに地面があるかのように、美しく歩く」

歩くとは言っても、もちろん移動はしない。歩くその形をとるだけでいい。
それは不可能なことではないはずだ。
外的な支えがなくても、足を前後させたり、腕を振ることはできる。
それらの行為は、内的な動きの起点を設定すれば行えるものだ。
腕を折り曲げたければ、ひじの関節を起点とすればいい。

地に足の着かない状態で、歩く。
できる限り、身体をキレイに動かす。
美しい状態を保つ。
自分の腕が、足が、空を切る。カタチだけの歩く動作をつくりだそうとする。

最初は自分がうまくキレイに歩くところを想像できないかもしれない。身体が丸まってしまったり、ただ手足をバタつかせるだけだったり、どうしてもくるくる回転してしまう映像が浮かぶかもしれない。

しかし、落ち着いてそんな映像を何度でもリセットしなおして、どうにかキレイに歩く自分を想像しようとしてほしい。歩こうと努力して身体を操作している自分を想像してほしい。

もう、上から下へと落下していることも、無重力であることも忘れていい。慣性の法則がどうとかそういう細かい現実的なことも忘れ去る。とにかく、外的な支えのない中で、いかに自分の身体を操作すれば良いかだけを考えてみる。

足を前後に出すためには、股関節を起点とした動きをすればいい。右足を前に蹴りだし、左足を後に蹴りだす。普段なら後足はそこに残すくらいの感じで良いのだが、この状況においては、お尻や背中の筋肉を使って後方へ向けて振り上げる操作が必要となる。

腕を前後に振る動作はもう少し簡単だろう。
肩を安定させ、交互に左右の腕を動かす。

身体の胴体の部分をまっすぐに維持し、頭の位置を決める。
腰と腹筋と背筋をバランス良く操作して、背骨がキレイなラインを描くように心がける。
おそらく最もむずかしいのは、この胴体をまっすぐに保つことだろうと思う。

キレイに、美しく歩く。
まるでそこに見えない地面があるかのように。



以上。イメージを強要する文章はこれでおしまい。
ここからはこの「支えのない状態での身体操作」についての解説になる。

おそらく、簡単に自分がキレイに歩く姿をイメージできた人もいれば、ぜんぜんまるでうまくいかなかったという人もいるだろう。

イメージの成否は実はあまり関係ない。
筆者と読者が一つの架空の状況を共有できたかどうかが大事なのだ。

ここで筆者が伝えたいことは、身体の内的な支えとなる点、つまり「重心」についてだ。

読者は「キレイに歩くこと」を意識していく中で、身体のある特定の部分の、その重要さに気がつかなかっただろうか。身体を操作しようとする時に、ある部分を意識しなくては動きが始まらないような感覚がなかっただろうか。力を込める起点のようなもの。その存在を意識しなかっただろうか。
動きの中心となる場所。動作を生み出す基準となる部分。身体の各関節の相対的な位置を決めていくゼロ地点。基準点。

それが「腰」と呼ばれる部分なのだ。
非常に回りくどい説明になったが、筆者が言いたかったことがこれだ。

正確には、「腰」という言葉ではその部分を完全に言い表せてはいない。腰から、(よく丹田と呼ばれる部分を含む)おなかの下半分くらいまで。だいたいこの部分が、あなたの身体の動きを作る土台となる。もちろん人それぞれその範囲は多少違ってくるのだが、身体の重心はこの部分にくる。

「腰の入った動き」「腰を入れて歩く」などと言うが、本当は腰だけではなく、もう少し上の部分までを含めた、まさに身体の中心部分が動きの支えとなっていることを、イメージを通じて理解してもらえただろうか。重心が担う役割の重要性を理解していただけただろうか。
以下の文章でも「腰」という言葉を使用し続けるが、そこにはおなかの部分も含められていると思って読んでほしい。

身体が空中に浮いた状態では、完全に、腰は動きの始まる場所となる。腰がまず最初に動く、という意味ではない。エネルギーを反射させる部分として腰が使われるという意味だ。
それはたまたま身体の重心が腰のあたりに位置しているからだ。何も考えなくても、自然と腰を起点に動きは作られることになる。腰を支えに動きが始まることになる。
ダイビングなどで水中を自由に動きまわったことのある方ならそのことは実感として理解してもらえるだろう。

しかし、地に足のついた世界、現実の世界ではもう少し事情が複雑だ。腰の重要性はほとんど変わらないのだが、それに加えて、下半身の働きが大きな影響力を持つことになる。実際に地面を蹴るのは足であり、身体を支えるのも足首や膝だ。腰は足に支えられる存在であり、それでいてかつ足の動きを作り出す存在でもある。

そのことが、腰についての理解をむずかしくしている。人々は腰の重要性を何となくは知りながらも、その本質を理解しないまま身体を動かしている。腰は身体のすべての動きの中心となって、あらゆる関節に影響を与える存在であり、また逆に、身体全体にその位置や角度を維持してもらうことを必要とし、ある意味で庇われ、守られていなくてはその役割を十全に果たせない存在なのだ。

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