13.13.はねてみよう

さて、これで「身のこなしをキレイにする方法」のおおまかな概要は説明し終えたつもりだ。
筆者の訓練法は読者に対してあまりああしろこうしろと言わないタイプのものなので、概要を深く理解してもらうのが一番良いのだが、それでもいま一つ理解できていないと感じている人もいるだろうと思う。 そこで、この第2部ではあえて料理のレシピ的な文章も交えつつ、より具体的で実践的な鏡の前での動き方、意識の持ち方を書いてみたい。

鏡を用意した。その前で身体を動かしてみた。筋肉が動く感覚の変化に意識を集中してもみた。けれども、何となくしっくりこない。自分が正しい認識を持って鏡を見ているか自信がない。「好きなように動く」という意味がよくわからない。 そういう読者に、より正確に筆者の考え方を知っていただくためにも、詳細な動きの具体例を書いていこうと思う。
しかし、それでも筆者としては、この訓練法の特徴である 「自由に動く」 「自分で気づく」 という部分は大事にしたい。余計な情報まで書きたくないという思いが強い。

そこで、基本的な動作を二つだけ取り上げて、その動きを細かく砕いて説明していこうと思う。手順や注意点、どの関節をどのように動かすのかといった詳細にいたるまで、できる限り具体的に説明してみる。

あまり拒否反応を持たないでほしい。この第2部で述べる二つの動きは本当に単純で簡単なものだ。おそらくすでにあなたが鏡の前で無意識に行っている動作だと思う。 ここに書かれていることを、一つ一つ覚える必要もまったくない。実際のところ読者は筆者の言う通りに動く必要さえない。 ただ、想像してほしい。筆者がここで示す動きを、集中してイメージし、頭の中でシュミレートするだけでいい。自分が身体を動かしているような気持ちで読んでもらえれば良い。

ここに書かれている動き自体は、それほど大した意味がないからだ。筆者の訓練法をこれまでとは少し別の角度から説明するために、無理やり選びだしただけのものだ。無数の動きの中から、なかばでっちあげた動作に過ぎない。
もちろん、これらの動きは筆者が今でも鏡の前で行っているものだし、実際にあなたが筆者の文章どおりにその動きをトレースすることは意味のあることだ。そこから何らかの発見や新しい感覚を得ることができるはずだ。
だか、間違ってもこの動きを特別なものとして受け取らないでほしい。同じように意味のある動きはそれこそ何百とあるし、「特別」な動きは読者が自分で見つけてこそ「特別で、有効な」動きとなるものだから。
繰り返すが、絶対にここにある動きを「型」として受け取って、自分の動きのメイン・メニューなどとしないこと。それだけを注意して、読んでほしい。

導入にちょうど良い動き

まずは上下に身体を揺さぶる動きを紹介していこう。 筆者の場合、鏡の前に立つとまずはたいてい足首から動かし始める。経験的に、身体の修正は足元から行うのが効果的だと感じているからだ。 それに、どうしてかはわからないが、単純な動きから始めた方がより早く身体の操作に集中できるのだ。

足首だけを使って跳ねるような動き。実際には、床から足が完全に離れることはない。足首を伸ばし、つま先立ちになり、すぐにかかとを床に下ろす、という動きを繰り返している。
背伸びを繰り返す、と表現してもいい。本当に単純な動き。足首だけの操作で重心を上下に揺さぶる動き。一定のリズムをキープしながらそれを繰り返す。そして徐々にその動きと平行して、身体の各部分を意識的に動かしていく。ふくらはぎのあたりが温かく疲労するまで続ける。

それでは細かく説明していこう。

両足を肩幅くらいに開いて立つ。身体の側面を見るために横を向く場合以外は、その位置から足を動かすことはほとんどない。上半身は自然体のまま。足首だけを動かして、つま先立ちを繰り返す。
たぶん、はたから人が見ていたら、ひょこひょこと身体を上下させているだけの動きに見えるだろう。ラジオ体操の「跳躍」の部分をきちんとジャンプせずに手抜きして、そのフリをしているみたいにも見える。

しかし実際はそれほど楽な動きでもないし、簡単でもない。すぐにバランスが前後に崩れはじめてしまう。まずはそのバランスを、腰と膝の微妙な操作で保っていく。大きな操作ではなく、鏡ににも映らないような、ほんの少し筋肉を引き締めたり、緩めたり、重心の位置を変えたりする程度の動作だ。

その足首の動きに身体全体が馴じんできたら、鏡に映る上半身の方に目を移す。このとき鏡に映る筆者の姿は、いつものように猫背だ。バランスが危うくなり、身体的余裕がなくなると私の背骨はすぐ曲がる。
足首を動かしながらも、ちょっとずつその猫背を修正することの方に意識が移りはじめる。不安定なバランスの中で美しいラインを描こうと、身体中の神経がはっきりと目覚め敏感になっていく感覚がある。目的に向かって適切な関節の位置を探っていく。

横を向いて、背骨を伸ばし、腰の位置や角度を整える。頭の位置、あごの引き方、胸の開き具合。身体全体にわずかだが、はっきりと意識的な修正が加えられる。もちろん、足首はつま先立ちを繰り返している。たとえバランスが崩れきって足首の動きが一瞬止まってしまっても気にしない。ここまで三十秒もかかっていない。

次に、腕を動かす。まったく意味のないラインを両腕を使って描く。
好きなように、思いのままに腕を振り動かす。ライン自体には意味がないが、瞬間ごとに崩れるバランスをその両腕が保ってくれる。無意識にそういう動きになる。実際には腰や膝も使っているが、感覚の上では両腕がめちゃくちゃに動きながらもバランスを維持している。さまざまな方向に腕の関節が曲げ伸ばされ、同時に回転する。「腕が身体のバランス維持に役に立つ」ということを実感する。逆にバランスを崩す方向に動かすこともできる。 物を投げるように、何かを振り払うように、柔らかく、止まることなく両腕が動く。足首がその動きを補完するように、導くように動き続ける。

再び身体の向きを横にして、自分の背骨のラインに注目する。少しまだ猫背だ。
さらに修正を加え、今度は首を振る。ゆっくりとキレイな軸を意識しながら左右に振る。上下に振る。
意識はすでに上半身に集中している。足首の動きは一つの「ある環境」を作り出しているに過ぎない。つま先立ちを繰り返すそのリズムは、波のように、鼓動のように全身に一定の影響を与えてくるが、すでに私の身体はそれに適応している。その「環境」を楽しんでさえいる。

応用性の高い運動

今度はどちらかの足を一歩前に出す。今まで横に開いていた足を縦に開く。そうすることで、左右のバランスが危うくなる。これは完全に意図的な操作だ。 最初のうちは、前後に足を開いてつま先立ちを繰り返すことはとてもむずかしく感じると思う。
だが、それだけに面白い。両足のまん中に重心がなければ、前後のバランスすら保てない。十本の足の指がそれぞれに独立して体重を支えるようなイメージが持てると理想的だ。 筆者はこの動きを「キレイに歩くためのトレーニング」の一つとして捉えている。つま先の使い方を洗練させるにはうってつけの動きだと思っている。つま先や足首の筋肉を繊細に、精密に動かすコツを学べる。

次に意識を膝へと移す。 あまり後先のことを考えずに、思いきりどちらか片方の膝を曲げてみる。膝を曲げることで身体の重心は前後へ大きく移動する。急激な重心の変化に対応するために、上半身全体を使って リカバリーをする。 少しずつ膝と足首が柔らかく床をとらえはじめ、上半身も安定してくる。これらの動きは、思うような足のラインを描くために十分効果的な動作だし、文字通り地に足のついた歩き方ができるようになるので、筆者は頻繁に行っている。

「跳ねる」動きは、身体バランスに対する認識を一変させるくらい、大きな影響をあなたに与えると思う。最も特徴的なのは、意図的に身体に負荷を課すことができるという点だ。その負荷を自らこなしていくことで、全身を洗練させていけるという点だ。それは、わざとバランスを崩す動きを行いながら、同時に全身の均衡を保つという、ある意味矛盾した行為だ。

足首の曲げ伸ばしは、ちょうど筋力トレーニングにおける負荷と同じ役目をするのだ。大事なのは、現在の自分の身体感覚にとって適切な負荷の量を選ぶ、ということだ。 その量は足を前後に開いたり、動きのスピードを早めることで増大させることができる。いくらでもむずかしく設定することは可能だが、正しい負荷のかけ方がわかってくるまでにはそれなりの時間が必要だ。 自分の身体にぴったりとくる負荷を選択できるようになったら、それは相当程度、身体的に洗練されてきていると考えて良いだろう。

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